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11 光明神


 少女――ルカは踊り子だった。


 何故踊り子になったのかは分からない。


 だが物心ついた時から、彼女は一日に何時間も舞踊の練習をさせられていた。


 そうすることが当然だと思っていた。


 幸いにも、ルカには踊りの才能があった。


 その舞いは天女のようだとも言われ、幾度も神の御前で披露し、そしてお褒めの言葉を賜った。


 村の皆が喜んでくれるのが嬉しくて、ルカは羽ばたくように踊り続けた。


 そんな時だ。


 ルカに友人が出来た。


 別の村の踊り子だという少女と、たまたま神殿で出会ったのだ。


 短い間ではあったが、ほとんど同じ境遇の二人はすぐに打ち解け合った。


 お互い次に会えることがとても楽しみだと心から思えるくらいに。



 だが――彼女と会うことは二度となかった。



 ルカたちが神殿で舞った翌日、彼女の村に疫病が広がり、村人たちは誰一人助からなかったのだと。


 その時になって、ルカははじめて知った。


 神殿で催される舞踊には、勝者と敗者がいるということを。


 敗者はそれを擁立した村ごと滅ぼされてしまうということを。


 だから皆いつもあんなに喜んでくれたのだ。


 命が懸かっていたから。



「どうしました? 早く舞いなさい、娘よ」



「……はい」



 ここは、そういう世界だったんだ。



      ◇



「光の神とはよく言ったものだな」



 周囲の景色を見渡し、俺は皮肉交じりに言う。


 恐らくは疫病か何かの影響であろう。


 そこかしこに人の死骸が溢れているどころか、木は枯れ、大地は痩せ細り、水も腐り果てている。


 空も厚い雲に覆われ、ヘパイストスの時とは別の意味で世界が死に体にあるようだった。



「アポロンは光明を司る神でありながら、疫病と死の神でもある。まあ当然の光景だな」



 予想通り過ぎたのか、白蛇も呆れているようだ。



「にもかかわらず、自分はあの豪華な神殿で寛いでいると」



 遠方に見える黄金の神殿の姿に、俺は反吐が出そうな思いだった。


 アポロンの力なのか、神殿の上空にだけは雲がなく、太陽光が降り注いでいるため、余計輝いて見える。


 希望を失っている人間からすれば、まさにすがるべき神の威光だろう。


 本当に反吐が出る話だ。



「ならさっさとぶっ殺しに行くぞ。どうせ今頃――」



 と。



『――その必要はありません』



「「――っ!?」」



 突如響いた男の声に、俺たちは揃って目を丸くする。


 すると、俺の足元に術式が広がり、飛び出してきた鎖が俺を拘束した。



「この程度の束縛が俺に通じるとでも?」



『通じないでしょうね。でもこれならどうですか?』



「――っ!?」



 次に術式から現れたのは、金色の矢を抱えた一人の少女だった。


 10代半ばくらいの大人しそうな少女だ。



『さあ、その矢を彼の胸に突き立てるのです』



「で、でも……」



『その男を殺した暁には、あなたの大切な人たち全員に神の祝福を与えることをお約束しましょう。彼らはもう二度と疫病に怯えることはなくなるのです』



「もう二度と……」



『そうです。さあ、おやりなさい。あなたなら出来るはずです。だってあなたは――今までに何人も蹴落としてきたのだから』



「……はい」



 静かに頷き、少女が俺を見やる。


 だがさすがに直視はしていられなかったのだろう。


 右に左にきょろきょろと視線を外していた。


 だから俺は少女に言う。



「お前は踊りが得意なのか?」



「えっ?」



「その服、舞踊をするためのものだろう?」



「は、はい。アポロンさまは舞踊がお好きなので……」



「そうか。お前は踊るのが好きか?」



「私は……分からないです。最初は村の皆さんが喜んでくれたから、私も嬉しくて踊っていました。でも今は……」



 声を震わせる少女に、俺は一言こう告げた。



「――安心しろ。お前たちは俺が救ってやる」



「えっ?」



『何をしているのです。早くその男の胸に矢を、我が力の結晶を撃ち込みなさい。さもなければあなたの大切な人たちが死ぬことになりますよ?』



「そ、そんな!? どうかそれだけは!?」



『ならば早くやるのです。さあ、さあ、さあ! やるのです、ルカ!』



「う、う、うわああああああああああああああああああああああっっ!?」



 ――ずどっ!



 アポロンに言われるがまま、少女が俺の胸に金の矢を突き立てる。


 文字通り突き刺すような痛みが胸元に走る中、俺は呆然と身体を震わせていた少女――ルカの頭に手を添えて言った。



「よくやったな。少し離れていろ」



「えっ……?」



『やはり即死耐性がありましたか。神託で視たとおりです。ゆえにその矢はただの〝楔〟にしか過ぎません。私の力を直接あなたに送り込むためのね』



 このように、とアポロンが口にすると、胸の矢が目映く輝き始めるのだが、俺はそれをがっしりと掴む。



『無駄です。その矢は一度刺さったが最後、私か対象者が死ぬまで絶対に抜けることはありません。つまりあなたはここで死ぬのです』



「そうか。俺はここで死ぬか」



『そうです。ですから――』



 と。



「クックックッ……」



『……何がおかしいのです?』



 突如含み笑いを浮かべた俺を、アポロンが訝しむ。


 何故笑っているかだと?


 そんなものは決まっている。


 この程度で勝利を確信している間抜けな神を、心底あざ笑っているのだ。



「光の神ってのは随分臆病者なんだな」



『……なんですって?』



「危ないことは全部他人に押しつけ、自分は安全な場所から指示を下すだけ。強者の前には決して姿を現さず、人の弱みにつけ込んで、こんなか弱い少女の後ろにすら逃げ隠れる。光の神が聞いて呆れるな。ええ?」



『……どうやらあなたに慈悲は必要ないようですね。いいでしょう。お望み通り今すぐ殺して差し上げます!』



 アポロンの声に呼応するかのように、矢の輝きが一層増す。


 が。



「それは――こっちの台詞だッ!」



 ――ばちばちっ!



 その瞬間、俺は矢にありったけの力を流し込み、やつの力を押し返した。



『――があっ!?』



 そしてそれがアポロンに届いた瞬間、俺は身体の拘束を無理矢理引き剥がし、



「そこだッ!」



 ――ずんっ!



 眼前の空間に右腕を突っ込んだ。


 そうして俺が次元の裂け目から引きずり出したのは、輝く金の髪をした若い男だった。



「ぐ、うっ!?」



「はじめまして、神さま。お会い出来て光栄だ」


新作始めました。

本作の方も時折更新していこうとは思いますのでよろしくお願いします。

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