第六話~祖母~
「おはようございます、お嬢様」
メルキスの声が聞こえる。
「うーん」
うっすらと目を開けるが、まだ外が薄暗い気がする。
超眠い。
「あとちょっとー」
まだ起きる時間じゃないと確信し、布団に抱きつく。
二度寝は至高。
「お嬢様。マリアンヌ様がいらっしゃる前にご支度を致しませんと。お久しぶりなのですからおめかしいたしますよ」
ゆらゆらと揺らされる。
それがまた心地よく、俺は眠りに落ちて…。
おはようございます。
結局あの後メルキスに起こされてしまい、今はおめかししてリビングにいる。
お出迎えしようと思ったけど、到着する細かい時間は分からないし、ここで待ってることになった。
「あら?今日は何時にも増して可愛らしいわね?」
先に部屋にいたお母さんが褒めてくれた。
俺の今日の服装は、脇が見えそうなノースリーブの春物のワンピースだ。
裾もそれなりに短く、車椅子に座っていれば膝も、そして、きめ細やかな肌の、ほっそりとした太股も少し見える。
少し露出が多いが、外に出るならともかく、屋敷の中なら普通だってメルキスが言ってた。
朝方だけど、屋敷の中は暖かいし風邪をひく心配もない。
髪型は、名前は知らないけど、強いて言えばお姫様みたいな?
頭の左右に三つ編みを作り、それを頭の後ろで結っている。
必要があればポニーテールみたいに結うが、いつもは大抵髪を下ろしてるだけなので少し新鮮だ。
いつもよりも清楚さが2.5割増しに感じる(当社比)。
メルキスが選んだり着付けをしてくれたから安心はしていたけど、お母さんにも褒めてもらえれば自信が持てる。
俺も変ではないとは思っていたけどファッションセンスがあるわけでもないからね。
「うん。似合ってるね」
そんなお父さんとお母さんもいつもより少しフォーマルな格好をしていて、二人並んでいるとすごく絵になる。
しかし、まだ暫くかかるということでお茶を入れてもらうことになった。
そして自然と、これから来るお祖母ちゃんの話になった。
「お義母さんは私とは正反対の、闇属性特化の魔法使いなのよ」
「俺たちでは闇系統の魔法は見せられなかったからね。こちらに滞在している間に見せてもらうと良いと思うよ」
お祖母ちゃんに魔法見せてもらったことは無いけどそうなんだ。
闇系統は闇魔法Lv1しか使えないしお願いしてみようかな。
あれ?でも魔法だけなのかな。
「お祖母ちゃんって剣とかも使えないのかな?」
ほら、うちって代々騎士を輩出してる家でしょ?
お祖母ちゃんってクレントラン伯爵家の直系って話だし、家族の超人ぶりを見れば使えてもおかしくないかなって。
もちろん、いくら騎士を輩出してる家だからって全員が騎士になるとは限らないとは分かってるけど。
「そう言えば使っているのは見たことないわね。でも、昔はかなり腕の立つ剣士として名が知られていたという話は噂で聞いたことがあるわ」
少なくとも、お母さんがクレントラン伯爵家とかかわりができてからは見て無いってことだよね。
気づいたら気になったのか、お母さんがワクワクした顔でお父さんを見る。
それより前のことを知っているのは、ここではお父さんだけだからだ。
俺も、もしかしたら何かあるのかと期待のこもった目でお父さんを見つめる。
二人の視線に苦笑しながらお父さんは答えてくれた。
「実は俺も詳しくは知らないんだけどね。でも確かに、父と名声を二分するほどの剣士だったらしいよ。ただ、結婚を機に剣は置いたらしい」
へー。なんでだろう。
お父さんもこれ以上言うこともないみたいだし、知らないってことなのかな。
でも、剣も使えるのは意外だったなあ。
「うん。今日も美味しいね」
話は終わったと見て、お父さんが優雅に飲む。
お父さんが飲んでるのを見て、俺も紅茶に口を付けてみる。
あ、美味しっ。
「あら。お待たせしたかしら?」
お茶も飲み終わったころ、そう言って入ってきたのは、銀髪青目のご婦人だった。
容姿はどれだけ上に見ても四十代にはいかないだろう若々しさを保っている。
言わずもがな、俺のお祖母ちゃんである。
俺の髪も銀髪だが、眼は蒼色だ。宝石のような濃く明るい青色。
しかし、お祖母ちゃんの目はグレーに近い落ち着いた青色で、とても優しい目をしている。
「久しぶりね、ルシベルト、フェミル、セシリア」
「うん」
その声音も柔らかく、久しぶりで少し緊張していた俺の心を溶かしてくれる。
優しい目を和らげて、俺の頭を撫でてくれた。
「うん。元気そうで良かったわ」
「うん…」
久しぶりに感じる祖母の温もりは暖かかった。
さらに、そのままぎゅっと抱きしめてくれた。
俺を包み込む温もりが全身に広がる。
「よく…頑張ったわね」
「う”ん”!」
零れるものを抑えきれなかったが、俺は笑顔で返事ができたと思う。
俺の診察のために、場所を俺の寝室に変えた。
「うん。確かに問題は無いわね。驚きだわ」
お祖母ちゃんの診察でも何の問題もなかった。
「それにしても驚きの能力ね。運が良かったと感謝しなくては」
お祖母ちゃんにはこの前皆に話したのと同じ話をしてある。
魔法を見せてもらいたいという下心と、医師としての判断のためだ。
「うん」
でも、俺も神様には感謝してる。
まあ、見方を変えると神様の過失のような気がしないでもないが、もともとあの能力を頼んだのは俺だし、自己責任だろう。
そもそも、神様からしたら俺はあくまで転生者の一人に過ぎないということを考えると、神様に責任を求めるのは間違っていると思う。
寧ろ、手を貸してくれたことに感謝しなくてはいけないと思っている。
神様はあの時、転生したら手は出せないと言っていた。それなのに、多分、少し手を貸してくれたのだと思う。
責任を感じて手を出してくれたのか、世界を楽しむ前に死んでもらっては困るのか、それとも本当に偶然で神様は傍観していただけなのか。
いずれにしても、生きていたことには感謝だ。
「それじゃあ、薬を調合して来るわ」
「ちょっと待って!お祖母ちゃん!」
お祖母ちゃんが出ていこうとしたので、慌てて引き留める。
「あら?どうかしたのかしら?」
「うん。お祖母ちゃん、私調合見てみたい」
「あら?調薬に興味があるのかしら?」
「うーんと。調合に錬金術って使う?」
「ええ、使うわ」
「ええっとね。錬金術見てみたいなって思って」
「あら?もしかして錬金術に興味があるのかしら?」
そう言ってお祖母ちゃんは面白そうに笑った。
「そう。構わないわ。それならここで調合しましょう」
「ありがとう!」
俺のわがままだったのに、お願いを聞いてくれた。
デック先生にも協力してもらって、前世の理科で使うようなセットを取り出して準備をしていく。
でも、試験管みたいなのとかビーカーみたいなのの他にも、ゲームっぽい小さい釜もあった。
「もしかして、見たいだけじゃなくて習いたいのかしら?」
準備をしながらお祖母ちゃんが聞いてきた。
話をしながらでも手は動いて準備を続けていく。す、すごい。
「うん。ダメ…かな?」
「いいえ。良いわよ」
「ホント!?」
「ええ。私がこっちにいる間は私が教えましょう」
やったー!
うちには錬金術の技術書がなかったからどうしたら良いのか分からなかったのだ。
「でも、まずは体の治癒が先決ね。それまでは、後で教本を届けておくからそれでお勉強しましょう」
と、そこまで話したところで準備が終わったみたい。
お祖母ちゃんが調合する姿を眺める。
まるで理科の実験みたいでかっこいいが、それとは明らかに異なる点があった。
まさにゲームのような加工風景。
薬草が瞬時に粉末になり、かき混ぜなくても入れた瞬間に均等に混ざっている。更に、蒸留しなくても瞬時に液体が澄む。
「すごい…」
目が離せない。スキルを使っているのは分かるがどんなスキルを使ってるのかは分からない。
目をキラキラさせる俺を見て、お祖母ちゃんがフフッと笑う。
そうして、興味津々な俺に見せつけるように、宝石のようなものを掲げて見せてくれる。
何だろうと見ていると、その石を液体の上に掲げると、何らかのスキルを発動する。
すると、今までとは異なり、ニュルッと音がしそうな動きで瞬時に液体になって薬に混ざっていった。
「え?」
驚いている俺を置き去りに、調合は仕上げに入った。
「さあできたわ」
そう言って渡してくれた薬にはさっきの石の痕跡など一つもなかった。
「お祖母ちゃん、さっきのは?」
「さっきのは調薬スキルの『溶解』よ。胆石のような、本来なら液体に溶かせないようなものを簡単に混ぜるためのスキルね」
「へえ。なんかすごかった」
「うふふ。そうね、生産系のスキルは高レベルになるほど不自然な挙動ができるようになるわ」
「錬金術は?さっきも使ってたの?」
「ええ。さっき使ったのは『抽出』と『添加』ね」
へー。全く分からなかった。
「さあ。まずはお薬を飲んで体を治すのが先よ」
「うん」
とはいえ、良薬は口に苦し。やっぱり薬は苦かった。




