第四話~魔法辞典~
「それにしても、魔力併合症が治った原因は分かるかい?」
「いえ、さっぱりですね」
診察が一段落して雑談が始まったのだが。
いきなり俺の話でドキッとした。いや、まあ、別に隠してるわけでは無いのだが。
「何かの拍子で魔法スキルを習得していれば、Lv1の魔法が使えるのは説明が付きます。しかし…」
「ええ。それだけで魔力操作が身につくわけでは無いから、発動できても自動発動よね?」
「はい。ですが、何百回と発動したならともかく、当時のお嬢様の症状ですと、たった一回の発動すら難しい状態でした。その一回で必要な魔力操作技術を身に着けるのは不可能です」
「でも、魔力操作は十分なレベルになってるんだよね?」
「そうですね。私の魔眼でも、お嬢様の魔力操作の水準はもう一般人レベルです。ご自身では魔力が動かせない程症状は進行していたので、それこそ、何かの拍子で、突然魔力操作技術に目覚めでもしない限りは…」
三人の会話を聞きながら考える。
結論はすぐに出た。隠す必要なくない?
今まで何となく隠してたけど、改めて考えてみれば、魔法辞典とか隠す意味なくね?むしろ効果を教えて、魔法一杯教えてもらいたいんだが!
「お父さん、お母さん。ちょっと…」
なんだか議論が白熱しているところに水を差すのが心苦しいのだが、声をかける。
「うん?どうしたんだい?」
「もしかして、魔力が使えるようになった理由に心当たりがあるのかしら?」
「うん」
だけどそこで思った。
どれくらいの人にまで教えて良いんだ?
両親とかに隠す必要はないと思うが、大っぴらにすることでもないと思う。
メルキスとデック先生を信頼していないという訳ではなく、知っていることが危険な情報というものもあるだろう。
この世界の常識というものに俺はまだまだ疎い。判断は両親に任せた方が良いのだろうか?
「もしかして、ステータスに何かあったのかい?」
ちょっとまごついていると、そんな俺に何か感じ取ったのか、お父さんが聞いてきた。
「う、うん」
流石お父さん。俺が顔に出やすいだけかもしれないが。
「そういうことなら、私は退出しましょう」
「私も失礼いたします」
あれ?小さい声で教えて判断を仰ごうくらいに思っていたのだが、ステータスのことだと分かったら、デック先生もメルキスも出て行ってしまった。
もしかして、ステータスって思ってるよりかなりデリケートなものなのかもしれない。
考えてみれば、ステータスは家族からでさえ見えないようになっているのだからそういうものなのかも。
そうなると、両親にも正直に全部話さない方が良いのかな。
でもそうなると説明が難しいんだけど。
「うーんうーん」
で、何とか話しました。
取り合えず、スキルの詳細は話さずに、この間の誕生日にとあるスキルに目覚めて、見た魔法を再現できて、その時に自分の魔法技術をその人と同じレベルまで引きあげることができるようになったということを話した。
何か、秘められた力に目覚めた、的な話を実際にしてみると思ってたより恥ずかしかった。
「なるほどね。もしかして、引きあがった魔法技術はそのままなのかな?」
「うん。本当に全く、違和感なく」
「魔力併合症が治ってしまうくらいなのだから相当ね」
今はそうでもないが、最初はすごい驚いてた。
知ってる俺からすれば、レアスキルとかで魔力操作ができるようになったとか普通に予想できると思っていたんだが、そうでもなかったみたい。
本来スキルというのは先天的に得るか、そうでない場合、該当する行動をとれば覚える。剣の練習をしてれば剣術スキルを覚えるみたいに。
俺の場合、先天的に魔力操作系のスキルを持っていればそもそも魔力併合症にならないし、魔力併合症だから該当行動もとれない。なので上に当てはまらないのだ。
例えば魔導具とかで、例外的に覚えられることもあるが、それならそれで相応の行動が伴う。それこそ魔導具に触れるとか。
俺の当時の状況だと動くことすらままならなかった訳で、これも無理だろうということで、スキル説は端から考えてなかったんだって。
「それで、なんだけど。まだ試してないけど、他にも使える魔法もあるし、どこか場所は無いかな?」
「それなら裏庭を使おうか」
家は王都にあるけど結構広い。庭も結構あって、その一つかな?
「それから、デック先生とメルキスにも教えて大丈夫かな?」
これも本題の一つではあった。
生活に近い二人に黙ってたら窮屈になりそうというのもあったが、二人に秘密にしておくのが心苦しいというのが強い。
「確かに、デック先生には魔力操作を診てもらう関係上知らせておいた方が良いね」
「メルキスに知っておいてもらえれば、これからもセシリーちゃんのお世話をしてもらうのだから、フォローもしやすいでしょう」
「そうだね。デック先生もメルキスも口は堅いし、職務契約でも縛ってあるから口外はしないし。そう意味でも安心できる。うん、良いんじゃないかな」
「うん!」
良かった。
まあ、いざとなれば普通に話してたと思うけど。
という訳で二人を呼んで話したのだが…。
「死んでも誰にも言いません」
「同じく。お教えいただき光栄です。墓場まで持っていきましょう」
因みに、上がデック先生で下がメルキスだ。
二人とも重いよ!
でもそれだけステータスの情報って重要なんだなって思った。気を付けよう。
「じゃあ、始めるよ」
車椅子で結構深いところまで移動し、早速始めることになった。
魔法辞典を見直し、使える魔法を確認する。
まずは馴染み深い風魔法から。Lv2の魔法だ。
『気温調節』
「「おおー」」
何の問題もなく発動した。
俺の周囲の空気が若干暖かくなる。
今春だからもともと過ごしやすい気候だし、せっかくの魔法なのにあまり実感がないなぁ。
まあ良い。どんどん行こう。
そのまま、登録されている水、風、光、闇魔法を発動していく。
Lv1水流
Lv2水盾
Lv3水球
Lv3風球
Lv1発光
Lv2閃光
Lv3光球
Lv1闇幕
基本的には室内で使えるLv1の魔法しかなかった。使用人の誰かの魔法だろう。
水、風、光は家族が持っている属性なので、多分外で使ってるのを見たんだと思う。
でも、屋敷の庭程度で使う魔法だからか、Lv3までしかなかった。
同じ魔法名でもダブっているのがあったので、何だろうと解析結果を見てみたら、カスタマイズ要素が違っていた。対流で風の強さが違うとか。
ということでそれらの同名魔法も使っていく。
カスタマイズ要素がデフォルトから離れるほど、必要とする魔力操作も上がるだろうし、良い熟練度稼ぎになるだろう。
より高位の魔法を発動して一足飛びに魔力操作技術を習得することもできるけど、それだと味気ないし。何より、カスタマイズの工夫を知っていれば、俺が自分でカスタマイズするときの参考にもなるしね。
途中で、俺が同じ魔法を連発し始めて不思議に思ったのか、みんなが聞いてきたので、考えを話して続行した。
「お嬢様、こちらを」
「ありがとう、メルキス」
一通り発動した後、一旦休憩することにした。
メルキスが用意してくれた水を飲む。一杯声を出して喉が渇いていたので丁度良い。
「初期魔法しか使えないのかしら?」
「初期魔法?」
「魔法スキルのレベルを上げると自動で使えるようになる魔法のことだよ」
へー。デフォルトの魔法のことをそう呼ぶんだ。
俺が読んだ本には載ってなかったから正式な呼び方じゃないのかな。地域によって違ったりして。
「多少改良したぐらいでも初期魔法と呼ぶね。原型がなくなると固有魔法とか手動魔法とかって呼ぶことが多いよ」
「うん。それなら、固有魔法?手動魔法?もあると思う。休憩したら使ってみるね」
実は、一通りの初期魔法の名前は本で把握してる。
それなのに見慣れない名前の魔法があったから、カスタマイズされた魔法であるのは分かってた。
しかも、別魔法名が付けられるほど改良された魔法だから、その人オリジナルの魔法だと思う。
オリジナル魔法、固有魔法とか手動魔法だっけ?は得てして高位の魔法技術を要求されるから、魔力操作の習得には期待が持てる。
楽しみだ。
目の前を無数の光芒が駆け抜ける。
光で形作られた剣は、中空を飛び、仮想の敵を切り裂き、穿つ。
「かっこいいよー!お母さーん!」
少し離れたところで魔法を発動するお母さんに声をかける。
お母さんもドヤ顔で、指を指揮棒代わりに光剣を走らせる。
いや、マジでかっこいい。光の剣とかテンプレじゃん。
今何をしているのかというと、お母さんの魔法を見せてもらっている。
俺が固有魔法も見れば使えるのが分かってからは、面白がって色んな魔法を連発してる。
「今、無詠唱でしたよね?」
「まあ、彼女の代名詞だからね。伊達に二つ名をもらってないよ」
そう、お母さんも二つ名持ちだった。
光剣フェミル。
今使ってる魔法に始まり、他にも多くの光剣系固有魔法を持ってる光魔法特化の魔法剣士だって。
今は動いてないけど、自分も剣を使えるとなると、敵は何人もの剣士を同時に相手にするのと同じことだろう。
インパクトも強いし二つ名になるのも頷ける。
それからも、囃し立てる俺に応えるようにファンタジーな魔法を連発してくれた。
魔法辞典に魔法が大量に登録されただけでなく、これまであまり見れなかったファンタジーな光景に眼福眼福。
そんな俺とお母さんにお父さんは少しあきれていたが、見ておいて損はないだろうということで、お父さんも結局魔法を見せてくれた。
お父さんは基本四属性が全部使えるので、お母さんの煌びやかな魔法とは別の意味でファンタジーな魔法が多かった。
俺も合間に魔法を使ったり、コツを教えてもらったりしてお昼の時間まで目いっぱい、ファンタジーな光景も、家族の時間も楽しんだのだった。




