第三話~診察~
開けて翌日。久々にちゃんと朝に目が覚めて、朝ごはんも食べることができた。
その後、昨日に引き続きデック先生の診察を受けることに。
今回も父と母が同席している。兄と姉は学園に行った。残りたがったけど、お父さんが送り出した。
できるだけ早く帰ってくるって言ってくれたので嬉しかった。
お父さんは仕事行かなくてもいいのかな?と思ったけど、今日一日は休みを取ってくれたみたい。
「失礼します」
どうやら今日はいつも通り、カバンと身一つだけみたいだ。
診察もいつも通りで、昨日よりは早く終わって、法術もかけてもらった。
それにしても、相変わらず、かけてもらう度に快方を実感する。まあ、それくらい傷ついていたってことだろう。
診察結果は昨日と同じ。魔力と法力の操作技術は要訓練。後はリハビリと体の治癒。
「魔力と法力の訓練はどうしようか?」
今はこれからの治療プランをお父さんとデック先生が話し合っている。
前世の記憶があると言っても医療関係者だった訳でもないし、口は出さないでおとなしく聞いていることにする。
「魔力に関しては奥さまや旦那様がお教えいただいて大丈夫ですよ。もう普通に操作訓練を行っても大丈夫ですから」
「法力については、デック先生にお願いできないかな?」
「私ですか?私でもできなくはないですが、神殿に連絡して、きちんと体系的に法術を習った者にお願いした方が良いと思われますが」
「やはりそうか」
魔法はこの際あれだとしても、法術の方はきちんと習いたいな。
デック先生がダメってわけでは無いのだが、デック先生の本職は薬師だ。
一方、神殿では法術師の教導も多いし、ノウハウもある。確か、外部への法術教導もやっていたはずだ。必要な基礎や、教育の筋道なんかも確立してるだろうと思う。
前世で義務教育を受けた身としては、そういった教育課程の大切さは分かる。教えるほうも教えやすいし、重要事項の教え忘れとかもなくなる。教わる方も、きちんと基礎から教えてもらえるから変な癖がついたりしないし、分かり易い。
本職の法術師に教われるならそっちの方が良いだろう。
まあ、デック先生が慣れないことをするより、教えるほうも教わる方も楽だろうしね。
「セシリーの完治の為には高位法術も必要だし。となると、フアズ様にお願いするかな?」
「あら?フアズ様の聖法術かしら?それなら安心ですね」
「うん。お忙しいから法術を教えていただくのは無理だと思うけど、そちらもお願いしてご紹介頂くつもり」
ええっと、フアズさんっていうのは神殿の神官長だ。しかも王都の神殿の神官長なのでかなりのお偉いさんだ。よくお見舞いに来てくれた。
とても品の良い紳士的な人で、俺はあまり覚えていないが俺の五歳の時の洗礼をしてくれた人らしい。
因みに、この世界では神殿は宗教団体ではなくお役所だ。宗教団体はこれとは別に、教会がある。
というのも、この世界における神殿の役割はステータスを得たり、結婚時にステータスの名前を変更したりする場なのだ。もちろん法術を得たり、他にもいろいろな役割はあるが、そこらへんは運と才能が絡むもので、全員がお世話になる機能というのは前世の感覚で言えばお役所仕事だと思っていい。
しかし、実はこれらの恩恵というのは、きちんと管理されている時だけしか得られない。管理を怠るとその恩恵を受けられなくなるのだ。
そうすると、人がどんどん離れていく。だってそうだろう。結婚しようと思っても認められないとか、子供が生まれても名前が付けられないとあっては、認めてもらえるところに人が移動するのは当たり前だ。
しかも、全員ではないが法術が得られる場所でもあるのだから、その恩恵が受けられないということは法術師が少なくなり、国内の死亡率が上がるし、そういう意味でも離れていく。
それに何より、神殿は世界からの賜りものだ。神が作り、神によってその機能を与えられた場なのである。しかも、神殿の名の通り、神を崇める場でもある。その管理を怠るということは神への反逆ともとれる。そうなれば敬虔な国とは戦争だ。そうでなくてもいくらでも揚げ足を取られる。
つまり、外交的にも大切なのだ。
そんな場所の管理を私人に任せるだろうか?答えは否である。
ということで、神殿の管理は国の管轄で、貴族領でも神殿の管理は義務だ。もちろん国から助成金も出る。
しかも、その管理は厳格だ。国をあげて管理しているし、最悪反逆罪になるから貴族も本気で管理している。そんな大切な場所で不正でもしようものなら首も普通に飛ぶし、監査も厳しい。神官のポストを欲して讒言とかをして、神殿の管理を妨害するのもご法度である。
まあ、そんなわけで神殿というのは国の管轄であり、その公正さは下手をすれば国の役人より上だったりする。
話がそれたけど、フアズさんはそんな神殿の神官長なのだ。国に対する権力は無いけど、その発言力は大きいらしい。
それで、そんな人に俺の治癒を頼むらしい。
て、ちょっと待ってほしい。
え?良いの?
「えっと、そんな人にこんな私的なお願いしても良いの?」
「セシリーが心配することではないよ?」
そんなこと言ったって、大切な役割を持った人を私的に拘束したら、敬虔な人に文句言われたりするかもしれないし。そうでなくても、お父さんだって貴族だから、どんな揚げ足を取られるか分かったものではない。
そんなことなら時間がかかっても良いからデック先生にお願いするよ。
そんな気持ちが顔に出ていたのか、仕方がないなあ、という顔でお父さんは教えてくれた。
「民の治癒は神殿の役割の一つだから、正式な手続きと、正当な報酬があれば他から何も言われないよ」
ということらしい。
これは俺が悪かったかもしれない。普通、保護者が患者にその治療費の話とかしないだろう。
「ごめんなさい」
「いいよ。セシリーは良い子だね」
と言って、お父さんは頭をなでてくれた。
「さて、正式な手続きを踏むとなると、フアズ様が来るまでは多分数週間は掛かると思う。その間はデック先生と、多分母が来るから、魔法薬と法術で治療は続けよう」
「ええ。それがよろしいかと。リハビリについては、簡単なものから始めて、本格的なものは内傷が完治してからの方が良いでしょう」
それからもう少し話し合ってあらかたのことは決まった。
「ふむ、他に何かあるかな?」
「いえ、そうですね…。取り敢えず、私からは何も」
「誰か何か他にあるかな?」
お父さんが母を見て、俺を見た。
さっきの話で一つ気になったことがあるので丁度良いし聞いてみよう。
「どれくらいで動けるようになるのかな?」
それが今のところすごく気になるのだ。ずっと動けなかったからか、かけっことか無性にしたい。
我ながら子供っぽいと思うが、正直体を動かしたくって仕方がない。転生するときは考えもしなかったが、ファンタジーの定番、剣術とかも習ってみたい。
「そうですね。フアズ様による治療の時期もありますが、自己治癒も併せれば三年で標準まで戻して見せます」
「え。三年も?」
正直三年も待ってられなのだが。
「はは。セシリーはフェミルに似てやんちゃだからなあ。三年も我慢できないかい?」
「うん…。ずっと動けなかったし…」
そんなにかかるとは思ってなくて気分はズーンと急降下だ。
「ふむ」
俺の落ち込みようがひどかったのか、デック先生は少しメモを取ったり資料に目を通し始めた。
もしかして、三年よりも短くなるのだろうか。
ワクワク。期待しながらデック先生の言葉を待つ。
「かなり苦しいかもしれませんが、それでも良いと言うのなら、最短で一年にまで縮めることもできます。しかし、医者としては、いくら健康に支障の出ない範囲だとしてもあまりお勧めは出来ません」
と言ってくれた。
デック先生の言葉は嬉しいし、患者としては従うのが筋なのかもしれない。
でも、正直三年も待ってられない!
よし、今世は女だが前世は男。やってやる!
「セシリーちゃん、無理しなくても」
「ううん、お母さん。私はやって見せる!」
「セシリー、本気かい?生半可な覚悟でやるのはやめておいた方が良いよ?」
お父さんも騎士だし、リハビリとかしたことあるのかもしれない。だからその辛さとかも知っていて、止めてくれるのかもしれない。
いや、親として止めるのは当たり前か。
しかし、俺だってノリで決めたわけでは無いのだ。いや、そういった面もあるけど。
でも、早く動きたい、その為なら血反吐を吐くことになっても構わないくらいの覚悟はある。
「うん!私はやる!」
力強く、お父さんの目を見る。
それから、体感では結構な時間見つめあってた気がする。
最後の方は、目をそらした方が負け的な…。
「分かった。セシリーの意思を尊重しよう。先生、無理のない範囲でお願いします」
「承りました」
やった!お父さんに勝った!
じゃない。
「ありがと!お父さん!」
「一度決めたことだ。俺たちも応援するから、最後までやり抜きなさい」
「うん!」
よし!頑張るぞー!
俺は胸元に手を握りしめ、フンスと気合を入れた。
この時の俺はかなり子供っぽかったらしく、お父さんとお母さんに笑われてしまった。
ええい、ヤメロー。




