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第一話~家族~

 うーん。やばい。やっぱり超可愛い。


 え?何をやってるかって?改めて鏡を見てるんだよ。


 今、目の前にある鏡には美少女が映っている。


 サラサラの透き通るような銀髪。部屋で寝たきりだったからか真っ白の肌。一目では白一色に見える容姿だ。


 しかし、そんな中はっと目を引くような蒼色は、母親から引き継いだ蒼眼。この蒼の差し色のお陰で、下手したらぼんやりとするような単調な色調が引き締まり容姿の端麗さを引き立てている。


 魔力併合症が悪化してからは食事も苦痛だったので、十分に食べられず手足はやせ細っているが、家族や医者の必死の看病によりまだ常識的な範囲に収まっていて、華奢という印象に落ち着いている。疲れたようなアンニュイな表情と相まって庇護欲を掻き立てられる。


 さらに、鏡の前に来るまでに体力を消費したのか、上気した表情を浮かべ、少しはだけた寝間着から覗く、目を引く白い肌は汗により軽く光っており、得も言われぬ色気を醸し出している。


 自分の体だというのに変な気分になりそうだ。


 しかし思いのほか疲れた。鏡まで数メートルもないので歩いてみたがもしかしたら戻れないかもしれない。


 魔力併合症が治っても、拒絶反応が体を長年蝕んできた事実は変わらない。体は未だに内からボロボロなのだ。


 トサッ。


 体の軽さを象徴するような軽い音を立てながら、とうとう床に座り込んでしまった。下はふかふかの絨毯で、寝転がったら気持ちよさそう…。


 ってダメだダメだ。寝たら心配をかけてしまう。


 何とかベットまで戻る方法を考えなくては。少し休んでいれば体力は戻るかもしれないが、その間に様子を見に来られてはアウト。というかその前に寝ちゃいそう。


 いや、そうか。治癒魔法、使えるんじゃないか?


 今までは魔力併合症により、魔法が使えなかったのと同じ理由で法術の行使は自殺行為だったので使えなかった。


 それに、他人にかけてもらうのも難しかった。というのも、法術はその特性上、治癒する対象に法力を流しこみ治癒魔法を発動する。そう、体内に魔力を注入されるのだ。魔力併合症だったらとどめを刺される。


 だから、拒絶反応で受けたダメージを回復することもできずに苦しんでいたわけだが。


 法力はまだ操作技術を鍛えていないが、魔力操作に関しては人並みになり魔力併合症は治った。それならば、他人に法術をかけてもらっても問題ないよな?むしろ自分で自分にかけることもできる。よしやろう。


 魔法辞典には系統外魔法は記録されないので、使える法術はLv1治癒(ヒール)だけで、それもデフォルトの自動発動だけだ。でも別に効果が低いわけでもない。


 では早速。


治癒(ヒール)


 お?魔法の自動発動ってこうなるんだ。自発的に発動するのとは違い、完全に自分の意識の外で魔力を動かされ形になっていく感覚。


 いわゆるオート魔法と呼ばれるものだ。全てのパラメータが基本的で、ここからそれぞれの魔法技術によりカスタマイズしていく。発動を早くしたり、効果を上げたり、その代わり魔力消費を上げたり、そこは人により千差万別だ。


 しかし、カスタマイズした魔法が記録される訳でもないので、毎回自分で調節しなくてはならない。なので、魔法の効果がその時々で変わるということもよくあり、腕のいい魔法士ほどこのブレが少ないのだ。


 そう考えると、カスタマイズ魔法も含めて記録でき、毎回同じ効果を発揮できる魔法辞典はチートの名に恥じないスキルだと思う。自在に発動できるという仕様により、魔法技術が下がるということもないから、新しいカスタマイズ魔法を作るのにも支障はないしな。


 ただし、法術は違うのでこれからはちゃんと鍛えてあげないといけないね。


 そうこうしてる間に魔法が完成したようだ。


 腕が光り、そこから体に向けて優しい光が発された。その光は体に吸い込まれ、自覚できるほど体調がよくなった。少なくとも歩いて帰れるくらいには。


「よっこいしょ」


 眠っちゃう前にベットに戻っておこう。それから、もう一回治癒をかけておこう。


 床に手をついてゆっくり立ち上がる。


「ふぅ」


 これだけでも一苦労だな。リハビリは大変そうだ。


 コンコン。


 あ。


 どうやら遅かったみたい。でも走れないし今からベットに潜り込むのは無理。


 うん。開き直ろう。


「どうぞ」


「え!?」


 ヤベッ。驚いてる。


 俺はベットよりも扉に近い位置にいた。ベットに入ってるはずの俺の声が思ったより近くから聞こえてびっくりしたのだろう。


 俺が魔法を使えるようになったのも知らないはずだ。昨日も顔を合わせてないし、皆からすれば二日前に死にかかってずっと寝ていた重病人だ。


 そんな人物の声が扉に近い位置で聞こえたらびっくりでは済まないかもしれないな。


「失礼します!」


 驚きから解放されたのか、扉を開けて入ってきたのはやっぱりメルキスだった。家のメイド長で、下手をすれば両親よりも俺の看病をしてくれた人だ。確か両親と同年代だったはずだから三十代だな。ブラウンの髪に鳶色の目をした才媛だ。


「お嬢様!?何を!?」


 そんな恩人にこんな青い顔をさせる気は無かったんだけどな。早く安心させてあげないと。


「はは。メルキス。『対流(ウィンド)』」


 問答無用で魔法発動。風が俺やメルキスの服をはためかせて、消えていく。


「え?」


「メルキス。私治ったよ。今まで、本当にありがとう」


 ふふ。あの時は両親にしかお礼が言えなかったからね。


「ゆ、夢では無くて?」


「うん。そうだよ」


 まだ呆然としているメルキスにぎゅっと抱き着く。自分の存在を全身でメルキスに伝えるように。


 それに応えるように、メルキスもぎゅっと俺を抱き返してくれる。母とは違うけれども、俺を安心させてくれる嗅ぎなれた匂いが俺を包み込む。


 そして、俺を抱きしめる力がキュッと一瞬強まったあと、今度は一気に力が抜けて、メルキスは決壊したみたいに泣き声をあげた。


「お…嬢様。お嬢様。おじょうさま、おじょうさま、おじょうさまぁぁぁぁぁ」


 俺を抱きしめ、俺の存在を確かめるように何度も何度もなでながら、メルキスはいっぱいいっぱい泣いてくれた。




「ふふ。メルキス子供みたいだったね」


「もう、お嬢様」


 あの後、我に返ったメルキスが、俺を抱き上げ、有無を言わさずベットに連れてった。正直、メルキスをなだめるのにずっと立ってたのでまた動けないくらい疲れてたから助かった。


「それで、どういうことなんですか?」


「さあ?神様のお導きなんじゃないの?」


 ということにしておく。強ち間違ってないと思うし。


「そう…なんでしょうか…」


「うん。それよりお腹空いたんだけど」


「まあ!急いで持ってきます。それでは失礼します」


 そう言ってメルキスは満面の笑顔で去っていった。ご飯を食べるのも一苦労だったので、お腹が空いたと言えることがどれ程健康的か。俺に付き添ってくれたメルキスも分かっているのだろう。本当にうれしそうで俺もうれしい。


 とは言え、体が疲れているのは確かなので、もう一度と治癒をかけておく。


 一段落ついてこれからのことについて考える。多分この後メルキスは両親に報告するだろうから、お父さんとお母さんが来てくれると思う。


 クレントラン伯爵であるお父さんと伯爵夫人のお母さん。昔、お父さんもお母さんも近衛騎士で、職場恋愛の末結婚したのだとか。お母さんは騎士を辞めたけど、お父さんは今では近衛騎士団の副団長らしい。どちらも俺の自慢の両親だ。


 そんな取り留めのないことを考えていたからか、このまま誰か来るまで起きていようかと思ったのに、俺の頭はこっくりこっくりしていき、転寝(うたたね)をし始めた。




 転寝をしていた俺の耳に、パタパタという足音が聞こえた。騒音というわけでは無いが、今までは病人である俺を慮って立てることのない程度には騒がしく、俺の意識は完全に浮上した。


 どうやら二人以上の足音っぽいので、十中八九両親だろう。


 ほら、やっぱり。ノックもそこそこに扉から現れたのは銀髪灰眼の美丈夫と、金髪蒼眼の美女。相変わらずお似合いだなぁ。


「お父さん、お母さん」


 両親は何も言えずに、立ち尽くしている。


 大方、メルキスの話を聞いて急いでやってきたは良いものの、いざ対面してみてどうすれば良いのか分からなくなったんだと思う。本当であってほしいのに、今まで俺がずっと寝たきりだった印象が強くて信じきれないんだろう。


 後ろに控えているメルキスに目を向けると、俺に向けて強く頷いてきた。俺も頷き返す。


 もう一度両親に目を合わせてから。


対流(ウィンド)


 もう何度目か、使い慣れた魔法を発動する。


「本当に………」


「ああ…」


 柔らかい風が吹き抜ける中で、お互いに縋りあうように抱き合っていた両親の目に涙が溜まっていく。


 それを見て、俺も再び涙が込み上げてきた。


 涙もろいなあと思いつつも、別に不快では無くて、むしろ心地良くて。


「お父さん!お母さん!」


 心の求めに従って、お父さんとお母さんへ両手を伸ばす。


「セシリー!」


「セシリーちゃん!」


 そんな子供っぽい仕草にも両親は応えてくれて、親子三人で抱き合って、大きな声を上げて泣いた。

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