第三話~目覚め~
目が覚める。これまでにないほど清々しい朝だった。カーテンの隙間から覗く光が眩しい。
陽の光に眼を細めつつ息をつく。どうやら山場は超えたらしい。記憶も戻った。今日が十歳の誕生日だからだろう。
それと、セシリアの人格が死んでしまったとかもない。ちゃんと意識の連続性はある。不思議な感覚だが、記憶喪失だったのが治ったような感じだろうか。記憶が戻る前も後も自分自身だという自覚がある。
それはそれとして、神様には物申したい事がある。
俺、女に転生してるんですけど。美少女(仮)だ。痩せてるから面影しかないが。
まあ、俺も美少女に生まれ変わること自体は満更でもないから別に良いんだけどね。神様も生まれる家はランダムって言ってたし。性別までランダムってのは気が付かなかったけど。
あと魔力併合症。転生前のお願いで法術と魔法を授かったのがこんな形で裏目にでてしまうとは。魔力と法力が反発して体を破壊するとか聞いてなかった。死んだ後にアンケートがあったらきちんと書いておこう。
いや、そうじゃない。この病気は未だに治ってはいない。何とか持ち直して、ここ最近では一番というくらいには調子が良いが延命したに過ぎない。
とは言え、持ち直した理由には心当たりがある。
ということで、早速。
「ステータス」
ステータス
名前:セシリア・クレントラン
種族:人族
職業:読書師
称号:クレントラン伯爵家次女
種族特性:可能性の獣
クラススキル:読書の才能
スキル:法術Lv1 水魔法Lv1 風魔法Lv1 光魔法Lv1 闇魔法Lv1 錬金術Lv1 速読Lv10 瞬間記憶・書Lv1
ユニークスキル:聖眼 魔法辞典 創造付与
おおー。やっぱりスキルが有効化してる。後はゲームみたいに詳細が見れないかな。
ええっと、こうかな。ああできた。
聖眼:
法術系スキルや法術系技能全てに補正。
魔法辞典:
魔法言語、魔法式、魔法陣学の知識が納められた辞典。
また、一度見た魔法が自動で登録されていく。登録された魔法は解析が可能。魔法スキルを所持していれば、登録された魔法は自在に発動できる。
創造付与:
自身の想像する魔法効果を付与することができる。
器となる魔道具の質や完成度が高いほど、高い効果を付与できる。付与できる効果は一つの魔道具につき一つのみである。付与時、付与する魔法効果によらず全魔力を消費する。
多分これだな。この聖眼のおかげで俺は持ち直したのだろう。
元々俺の魔力と法力が非常に高いことから、ステータスに現れる前からユニークスキルは仕事をしていたと思われる。おそらくステータス上のカタログスペックは無く、単に適性とか才能とかのレベルで。
それが十歳になり、聖眼がステータスのテキスト通りの性能を発揮するようになった。そのおかげで僅かながら法力の操作能力に補正が入ったのだろう。
魔力併合症は魔力と法力の反発によって起こるため、お互いを分離できれば発症しない。子供の俺は魔力操作を習う前に発症してしまったため二つを隔離できなかったが、聖眼により法力を僅かに抑えられるようになったので症状が改善したと考えられる。
それともう一つ。魔法辞典を使えば根本的に治すことも可能なのではないかと思う。
聖眼はあくまで気休めだ。結局、魔力操作を身につけ、魔力と法力を体内で隔離できるようにならなければ治らない。
しかし、魔力と法力の反発力が大きすぎるため修練はできない。したら普通に死ぬ。しかし、魔法辞典を使えば?
『登録された魔法を使う場合、自在に発動できる』
これだ。自在ってどういうことだ? なんでわざわざ追記されてるんだ?
自動で、ではなく自在に、なのだ。魔力操作もできないで自在は無いだろう。
つまり、一度自転車に乗れれば二度目は意識しなくても乗れるようになるように、一度魔法を発動できさえすれば“自在に”扱える程度には魔力操作を覚えられるのではないだろうか?
正直、賭けの要素は大きい。賭けに負ければ体内を魔力と法力に食い荒らされ命を落とすだろう。
だが、もう別れは済ませた。このまま両親や家族に迷惑をかけ続けるより、賭けてみようという気持ちの方が強かった。
魔法辞典を閲覧すると、俺が今まで見てきた魔法がずらりと並んでいた。記憶が目覚めていない状態でも記録機能は働いていたようだ。
その中から一つ選ぶ。風魔法の対流だ。基本も基本だが、消費魔力も少ないし体への負担も少ないだろう。これが使えるレベルでも必要十分な魔力操作技術には達する。
俺も風魔法Lv1を持ってるので使えると思うが、魔力操作が未熟なまま使えばいたずらに魔力を活性化するだけなので自殺行為である。なので魔法辞典のものを使い、熟練者の魔力操作を真似させてもらう。
「すーはーすーはー……」
眼を瞑り深く呼吸をする。
大丈夫、出来る。ユニークスキルに身を任せれば良い。それで全て終わるはずだ。
自分に何度も言い聞かせて眼を開ける。手の中は汗で湿っていた。
やるぞ。本当にやるぞ。今度こそやるぞ。
男は度胸!
『対流!』
ユニークスキル、そして魔法スキルの発動に伴い、体の中の魔力が今までにないほど活性化する。魔力は魔法発動のために全身を動き回り、引き裂かれるような痛みが身を焦がす。
「か………あ……っ」
息が、できない。やばい。昨日の時以上だ。口から吐き出された血が目の前を赤く染める。
諦めてたまるか……! 体内の魔力の流れへと意識を向け、何かできないか頭を巡らせる。
魔力はそれほどおかしくはない。全身を走りつつ、整然とした規則性がある。
魔力操作の習熟も順調だ。一瞬で覚えられる訳ではなかったのは予想外だったが、魔力操作を追いながら現在進行形で学習中だ。このペースなら、魔法が完成する頃には習熟できているだろう。
邪魔をしているのは法力だ。
魔力が身体を揺蕩う法力を貫き引き裂き身体を破壊していく。
急いで魔力から隔離しなければならない。
もうだめかも知れない。そう思いつつ、弱気になる自分を叱咤し、身につけたばかりの魔力操作の感覚を元に法力を動かしていく。体が破壊され切る前に、なんとか魔力と分離していく。
ゆっくりとしか動かない法力がもどかしい。
長いようで短い時間が過ぎ、部屋に柔らかい風が吹く。それはカーテンを揺らして、何事もなく消えていった。
「はは……。ははははは!っゴホッ……ゴボッ。あはははは!」
口を押さえた手を見ると真っ赤に染まっていた。袖から見える手首には内出血と裂傷もある。だが、笑うことをやめられない。
やった。やってやったぞ。魔力が使える!
『対流!』
先ほどと全く同様に魔力が動き、何の問題もなく魔法が再度発動する。先程と異なり、今度はユニークスキルに頼らない、自分の実力で発動した。
魔力と法力は混ざり合わず、拒絶反応が起こることもなかった。
魔力と法力の掌握に成功した。
これなら……もう一つの方も試せるかもしれない。
俺は徐に片手を胸に当て、今度は法力を集めた。
『治癒』
法術スキルに従い、治癒の光が手から発せられる。光は体に染み込み、大きく傷ついた体を僅かに癒して消えた。
俺の体を治すには心許ない光だが、これは治癒魔法の治療も受けられることを意味していた。治癒魔法のあるこの世界では、“外傷”は治る。病魔の方が厄介なくらいだ。
今の俺は体中が大変なことになっているが、これまでの不治の病に比べたら些細なことだった。
その後何度か法術を使用し応急処置を施した。出血死を避けるため、取り敢えず血だけは止めた。
これ以上血が流れ出ていかないことを確認してから、ドサッとベッドに倒れ込む。
疲れから目を閉じると、目から熱いものが零れ落ちた。
とめどなく、途切れることなく。
ずっと、ずっとだ。自分が死んでしまうこともそうだが、その死で優しい家族を傷つけてしまうことが怖くて怖くて仕方がなかった。
その恐怖から解放されたんだ。
俺は声も出さず泣き続け、泣き疲れて眠ってしまった。
今世では初めてといっても過言でない程、とても安らかな眠りにつくことができた。




