第十二話~液化魔石~
ビーカーのようなものに入れられた液体。青く透き通ったジェルのように見えるけど違う。
よく見ると色素の薄い水晶のようなものがビーカーの中に満たされているのだ。
しかし、つん、と突っつくとたぷんと揺れる。
ファンタジー。
これが液化魔石か。四葉のクローバーの加工に必要な素材。
開けて翌日、今俺は屋敷の工房にいる。目の前には四葉のクローバーが植わったプランターと液化魔石がある。
「さて、始めましょう」
作業台の反対側でお祖母ちゃんが言う。
流石に俺一人ではできないと分かっていたので、加工工程なども伝えて指導をお願いしたら快く受けてくれた。
「加工方法の確認をしておくわ」
「はい!」
「まずはこの液化魔石を別の容器に分けます。この時に気を付けることは?」
「四葉のクローバーをできるだけすぐに、サッとくぐらせること」
「よくできました」
液化魔石が液体でいられるのは、この特別なビーカーに入っている時だけ。ここから出すと結構早く固まってしまうらしい。だからこそ、乾いた部分でコーティングができるんだけどね。
「その時にこれとこれを使うこと」
そう言ってお祖母ちゃんが見せてくれたのはピンセットとトレー。ピンセットの方は大きいのでトングと言えるかもしれない。
どちらも魔道具で、こういうコーティング作業の時にムラを出さないためのものだ。ピンセットでつまんだ部分もしっかりコーティングされ、トレーの上に置いておいてもコーティング剤はムラなく付着したままになる。
地味だが、コーティング作業には必須と言えるのではないかと思える。でも、かなりお高いらしい。
「その後、あなたが書いた保存の魔法陣でクローバーの状態を保存します」
「これ!」
俺は手に持った羊皮紙を掲げる。これにはあの手紙に書いてあった状態保存の魔法陣が書かれている。
魔法辞典の知識でも問題なく発動すると分かっている。
「一度だけだと不十分でしょうし、何度かこの作業を繰り返しておしまいね。乾かす時間を考えると、今日中には終わらないと思うわ」
まあ仕方がないと思う。
聞いた話だと、時魔法には時間短縮系の魔法があるらしいが、俺にはまだ使えないしな。
魔法が見られれば魔法辞典に登録されるんだが、そもそも見れないし。地道に自分で光魔法と闇魔法を複合して開発していくしかない。
多分、うまくすれば魔法陣としてなら使えると思うんだが、魔法辞典が辞典なのがネックだな。別に教本ではないので、魔法式の組み方が乗ってるわけではないのだ。
時魔法の魔法式構築のノウハウが一切ない現状では全く手が付けられない。
ともかく、無いものをねだっても意味がないので一個一個やって行こう。
まずは、紆余曲折の末手に入れた四葉のクローバーを折りとる。
こちらも鮮度が大切なので、焦らず急いで液化魔石を別の容器に分ける。
そして、ピンセットでつまんだクローバーをサッとくぐらせる。
液化魔石から引き上げると、薄青い液体に包まれ濡れたような輝きを放つ四葉のクローバーがピンセットの先にあった。
それをゆっくりトレーの上に乗せる。
「ふう」
普通のクローバーで何度か練習しておいたのでスムーズにできたな。
後は、液化魔石が乾いたら保存の魔法陣を発動し、またコーティング繰り返すだけ。
「これは戻しておくわね」
そう言ってお祖母ちゃんは何かのスキルを発動させる。
すると、液化魔石に沈殿していた、クローバーに付着していた不純物がまず取り除かれた。その後、一部を残して、残り全部の液化魔石がぬるっと動いて最初の容器に戻っていく。
液化魔石もタダではないから、まだ使えるところは再利用すると教えられた。俺だとまだできないから、ここはお祖母ちゃんがやってくれた。
この、取り残された部分はもう乾き始めてしまった部分。これはこれで使い道があるみたいだけど、再び液化魔石に戻すこともできるらしい。
「じゃあ、乾くまで休憩しましょう」
お祖母ちゃんの事前説明によると、これくらいのコーティングなら大体三十分はかかるらしい。
お祖母ちゃんがいれてくれたお茶を飲む。
「そんなに面白いかしら?」
俺が液化魔石をじっと見ていたのが不思議だったのか、お祖母ちゃんが聞いてきた。
「うん。液体の水晶って変じゃない? これってどうやって作られてるの?」
前世では、加熱すれば出来たみたいだけど、これは常温でこうなっているのだ。
「これは錬金術スキルを間に挟んでいるけれど、液体になっているのは彫金スキルの効果ね」
お祖母ちゃんの話によると、細工スキルというものがまずあるらしい。これはアクセサリー系の生産スキルで、これの上位スキルに彫金スキルがあるとか。
この彫金スキルは、鉱物、特に宝石の加工に特化しているんだって。
「今回は私のお友達にお願いしてきたわ」
お友達価格で安くなったとかなんとか。
お会いしたことは無いが感謝。
「錬金術は魔石の精製に使ったのよ」
魔石の精製とは、魔石の魔力を整理することらしい。
魔石は魔物から取れるもので、自然物であるため、一般に魔力の流れは捻じれ、曲がって、絡まって、とにかく乱雑であるらしい。
このままでも使えるが、魔力を取り出すときにはロスが生じ、魔力がなくなったら塵となり使いまわしができなくなる。
しかし、錬金術スキルの『精製』により流路を整理してあげれば、取り出す際のロスは小さくなり、内部に蓄えられた魔力が無くなっても、もう一度魔力を込めればまた使える。
専ら、魔道具の燃料として使われるときは、こちらの精製した魔石を使うのが理想なんだとか。
とは言っても、『精製』はかなり高位の技能みたいで、使える人が少ないので、精製後の魔石は高価になってしまう。
なので、高価な魔道具とかには使われているが、それ以外の魔道具は敢えて魔石部分は取り外せるようになっていて、未精製の魔石を使って、魔力がなくなったら買い替えるとか。
「今回は魔道具の蓄魔石として使うわけではないけれど、あなたから聞いた限り、今回作る魔道具内での役割上、魔力親和性の高さや癖の無さから精製後の魔石を液化してもらったわ」
「ありがとう」
知らなかったとはいえ、お気遣いに感謝。
「自分の魔力を使う魔道具と魔石を使う魔道具の違いはあるの?」
家にある魔道具にはどちらのタイプのものもある。
「使用時間と魔力消費かしらね?」
「ああ! ランプとかずっと誰かが魔力を流し続ける訳にはいかないもんね」
「そうね。それに、暖房や冷房のような大規模な効果の魔道具の場合、消費魔力も多いから自分の魔力を使っていたらすぐ無くなってしまうわ」
なるほどなあ。俺もいつか魔道具を作るときは気を付けよう。
「そろそろ乾いたかしら」
そうやって話していたら随分時間が過ぎていたみたい。
トレーの上には、綺麗に薄青い結晶でコーティングされた四葉のクローバーが。
透き通った水晶の膜が光を反射して、とても幻想的だった。
確認してみたらきっちり固まっていたので次の工程に進む。
まず、机の上に魔法陣を広げる。さっきの話で言えば、自分の魔力を使うタイプだな。
その上に四葉のクローバーを乗せ、魔法陣に手をかざし魔力を流す。
少し心配だったが、すぐに薄い光が漏れ、魔法が発動したことが分かった。
薄い光はすぐに収まり、何も変わった様に見えないクローバーが現れる。
しかしこれで、クローバーには防腐をはじめとした保存の魔法効果がかかったはず。結晶でコーティングされていると言ってもクローバーは採ってそのままだから必要なのだ。
これからまたコーティング作業だ。緊張感を保っていこう。




