第十一話~四葉のクローバー~
食後の休憩をした後、せっかくなので本格的に探し始めた。
途中でお姉ちゃんと花冠を作って付け合ったりした。お兄ちゃんにも作ってあげたらお姉ちゃんが面白がって首飾りとか腕飾りとかも作って面白いことになったりしたけど、まあ、概ね真面目に探したと言えるだろう。うん。
サーと少し涼しい風が吹く。
ふと顔を上げると、もうかなり日が傾いていた。もう数分で空も赤く染まるだろう。
東屋に来るときに使った石の道は、東屋の向こうにも続いていて、行ったことの無い方に行こうということで俺はそっちを探してる。
お兄ちゃんは来た道を戻って探しに行くって言ってたけど見つかったかなあ?
後ろを向くと遠くに東屋が見える。お姉ちゃんは東屋を中心にぐるっと探してるみたいだけど、姿は見えない。お姉ちゃんの運動量を考えればかなり遠くまで探しに行ってくれてるのだろう。
しかし、座りながら探していたんだが、結構遠くまで来ていたようだ。
もう少ししたらお兄ちゃんかお姉ちゃんが呼びに来るだろうし、それまでは探そう。
草の上に座り込んだまま探す。ふさふさした下草が火照った体を覚ますようで心地よい。
なんだか、こんな日常も良いよね。
このままごろっと寝っ転がりたいところだけどお兄ちゃんもお姉ちゃんもまだ探してくれている手前気が引ける。
シロツメクサの白い花を目印に探していく。
しかし、だんだん暗くなってきて、手元が見えにくくなってきた。
もうそろそろ、終わりにするかな。
もう一度周りを見回しても、もう真っ赤っかで、白い花も見えにくい。引き上げ時だろう。
迎えに来てくれると思うけど、こっちからももう戻り始めよう。
「うんしょっと」
地面に手を突き立ち上がる。
おお。
視線が高くなり、赤く染まった庭が遠くまで見える。この世界では初めて見る光景だ。
この景色を自分の足で立って見れたことに涙が出そうになる。
夕日が目に入ったからじゃないよ?
感動を誤魔化しつつ歩を進める。
飛び石の道を歩きたかったが、それはやめておいた。
石が埋まっていると言ってもでっぱりはあるからね。
俺の歩幅では石の間隔より大分小さいので、間の草地も歩かないといけないのだが、まだ足があんまり上がらないので突っかかりそうになるのだ。
転ばないように一歩一歩確かめながら歩く。
だが、うつむいて歩いていると、突如、足元が黄金に染まった。
何事かと周りを見渡すと、何もかもが黄金に染め上げられている。
こんなにも…夕暮れが美しいとは思わなかったな。
日が沈む直前の黄昏時。その一瞬にこめられた美しさだった。
前世でも、もしかしたらこんなにもきれいな景色はあったのかもしれない。もう戻れないけど、もったいないことをした気持ちになる。
でも、新しい人生が歩める俺は恵まれているのだろう。
だんだんと暗くなり、群青に染まっていく空を見ながらそう思った。
何とも言えない物悲しさを感じつつも、転んではいけないので発光を浮かべる。
ただの光球だが、足元を照らすのには十分だ。
歩き出すと、俺に合わせてふわふわ前に進んでいく。何となく可愛らしい。
「おわっと」
そんな感じでボーっと歩いていたら何かに突っかかった。
言わんこっちゃない。
転びはしなかったけど、ガクッとなって、変なとこに体重がかかったからか膝と腰が痛い。
うう…。
一旦座り込み、治癒をかける。
ていうか何に突っかかったんだ?
体をよじって後ろを振り向く。
これは石…なのだろうか? 魔法の光に照らされて、柔らかいオレンジ色を返している。
飛び石の道は同じサイズの石に統一されているのだが、一か所だけなんかオレンジ色っぽい岩になっていた。横幅が少し長く、綺麗に統一された道幅よりも大きくなっているのでここに引っかかったのだろう。
明るい中で、庭の景色の一つとして見たら良いアクセントになるのかもしれないが、突っかかった俺からすれば余計なお世話だ。
庭師の人には申し訳ないと思うが、なんだか怒りがこみあげてくる。
「このこの!」
ぺしぺし叩く。
我ながら子供っぽいが、四葉のクローバーが見つからない苛立ちやら、転けそうになった自分の不注意さの八つ当たりやら、この程度で痛む体への情けなさやら、いろんな感情がないまぜになった気持ちをぶつける。
この体になってからなんだか童心に帰っているが、もう俺は好きに生きることに決めたのだ、感情の赴くままに生きるのだ!
何かに言い訳しながら叩いていると疲れてきた。
ぺしぺしどころかぺちぺちになり、それも止まる。
「はあ」
なんだか虚しくなってきた。
うなだれてうつむくとクローバーが目に映る。
どうせ三葉だろうと思うとウガーとなってまた八つ当たりしそうになるが、さすがにぶちぶち引っこ抜くのはシャレにならないので深呼吸する。
「ふう」
何だっけ。前世であったよな。怒りが頂点に達している時間は二秒だか何秒だか。忘れたが。
しかし、落ち着いてみるとこのクローバーなんか変だ。
隣にあるクローバーと見比べると形がおかしい。普通のクローバーは正三角形なのに、これだけ二等辺三角形だ。
…まさか!
そのクローバーに手を伸ばす。引き抜きはしない。
そっと握り他のクローバーの陰から出すと、そこには綺麗に四つの葉を付けたクローバーが。
あった…。
「あったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
うおー!この猛る気持ちを抑えられない。
だが、落ち着け。引きちぎっちゃだめだ。もう暗いし今日の加工は無理だから、持って帰るとしても土ごとだ。
「きゃあ!何事?」
あ、後ろからお姉ちゃんのかわいい声がした。
「あった! あったよお姉ちゃん!」
振り向きながら、俺の顔は満面の笑みを浮かべていることだろう。嬉しさで顔が緩むのを止められない。
「う…。笑顔が眩しすぎるわ…」
「え?」
「何でもないわ。それより採らないのかしら?」
何か聞こえた気がしたんだけどまあ良いか。
それよりも大切なことがある。
「土ごと取りたいんだけど、スコップとかプランターとかあるかな?」
「あら?そうなの?それなら私に任せなさい」
と言っても、取りに戻るそぶりもないし、どうするのだろう。
「土魔法を使って周りごと持っていくわ。大丈夫よね?」
そうだった。お姉ちゃんって土魔法持ちだった。
「うん。スコップで掘るみたいにごっそりいければ大丈夫だと思うよ」
「それなら大丈夫ね」
邪魔にならないように俺が退き、入れ替わるようにお姉ちゃんがその場にしゃがみ込む。俺の発光に照らされて金糸のような髪が煌めく。
思わずため息が出そうになった。
そんな俺に気付くこともなく、お姉ちゃんは四葉のクローバーを確りとその目に映してから、徐に片手をかざす。
一拍おいてから魔法が発動する。
『土石』
すると、そっと土が浮き上がる。
「あとで庭師に言っておかないといけないわね」
足元を見て、お姉ちゃんが言う。
確かに。一か所だけ土がむき出しになっちゃった。後で謝っておこう。
その後、お姉ちゃんと一緒に東屋まで戻ると、プランターを用意したお兄ちゃんが。
俺が新鮮な方が良いと言ったのを覚えてくれていて、花壇の方まで戻った時に取ってきてくれたみたい。
マジでイケメンや。
心地よい疲れと達成感に包まれた俺は、お兄ちゃんに抱えられて歩いている途中で、眠ってしまった。




