第十話~固有魔法~
東屋に着いてから、東屋周辺を少し探してみたが結局見つからなかった。
なのでお昼を食べることにした。
なんと、東屋までうちのメイドさんがバスケットで届けてくれたのだ。
お兄ちゃんが事前に言ってたみたい。
持ってきてくれたメイドさんにも感謝だが、お兄ちゃんも気遣いの鬼である。本物のイケメンというのは顔だけではないらしい。
『水球』
魔力を操作し、カスタマイズされた水球を出す。水流はゼロで射出も無しだ。水流でも同じことができるけど、水量が多いなら水球の方が魔力消費が少ない。
その水球で手をじゃぶじゃぶ洗う。
お次はカスタマイズ魔法ではなく、俺の完全オリジナル、固有魔法だ。
せっかく作ったんだし、魔法辞典を使わずに発動する。
『噴風』
強い風で手についた水滴を吹き飛ばす。トイレに設置されている、手を乾かすアレだ。
コツは、手首方向から指先に向けて風を送ること。それを考えずにやると水滴が飛び散るし、こう、水滴がじわじわ手首を昇ってきて、ぞわぞわするのだ。
手を出した後、横から手を入れなおさないで、上下に出し入れしたことがある人は分かると思う。
風で乾かすと思っている人には多いんじゃないかな? 俺も小学生の時はそうだと思ってた。
「あら? 無詠唱?」
お姉ちゃんが少し驚いた顔でそう言ってきた。
「無詠唱?」
そう言えば、この前お母さんが魔法を使ってる時にお父さんたちが言ってたかも。興奮してたから疑問に思わなかった。
「固有魔法はイメージが大切だからね。セシリーはその魔法を自分で作ったのかい? それとも例のスキルかい?」
「噴風の方は自分で作ったよ」
「それなら、固有魔法の発動には設定事項が多いことには気付いたかい?」
「うん。それは分かるよ」
これには心当たりがある。
使用者の魔法技術により、魔法の発動は三つに大別される。
まずデフォルトのままの発動。これは、こっちが何もしなくても勝手に発動する。
次にカスタマイズ。デフォルトの設定から、一部だけの変更。それ以外はデフォルトの時と同じで完全にスキル任せだ。ただし、設定を変更した部分の魔力操作は自分でやらなくてはいけない。だから、原型から離れるほど必要となる魔力操作技術も高くなる。
最後にオリジナル。変更できる部分は全部自分で設定せねばならず、高い魔力操作技術も必要とする。
風魔法Lv1の対流を基にした噴風の場合、向き、強さ、温度、時間、等々。設定事項は大体ニ十個くらいかな? 魔力操作を行いながら、これらの設定をする必要がある。
だが、今気づいた。
これ、Lv1の魔法を基にしたからこの程度で済んでるんじゃないかって。
俺は慌てて魔法辞典を見返し、高レベルの魔法の解析結果を引き出す。
え。これやばくない?
高レベルの魔法を基にした固有魔法の場合、こちらが設定しなくてはいけない部分は優に百を超えていた。
「分かったみたいだね?」
「うん…」
ぞっとする。
これ、紙とかがあれば時間さえかければできるが、魔法発動は全部自分の頭の中だ。
設定した数字については覚えておかなくてはいけないし、中には複雑な計算を行わなければいけない部分もある。その部分はもちろん暗算でしなければいけないし、その暗算中にも前の設定は覚えておかなければならない。
人間技じゃないよ。
Lv1の魔法はともかく、高レベルの固有魔法ってどうやって発動してるわけ?
「そこで重要なのがイメージなんだよ。発動者がはっきりイメージできた部分の設定事項はこちらが設定しなくても入力・固定されるんだ」
え?本当?
噴風を発動してみる。今度はきっちりイメージして。イメージするのは前世では何回も使ったあの機械だ。
「あ、本当だ。半分まで減った」
別に手は濡れてないので、発動はさせずに破棄する。
「だろう? 次は声に出してごらん」
言われた通りにしてみる。
『あまねく細風並びて、滴を下方へ飛ばせ』
おお!今度は三分の一まで減った。
「それが詠唱の役割だね。当たり前だけど、頭の中だけでイメージしてるよりは声に出した方がイメージははっきりするからね」
「じゃあ無詠唱は?」
「単純な慣れかな。同じ魔法を何度も何度も使っていればどんどんイメージは固まっていくだろう? そうして、詠唱無しでも十分はっきりしたイメージができるようになって、こちらの処理能力でも対応できるくらいには設定事項が少なくなれば、無詠唱になる」
へえ。
「あれ? 魔法名は?」
今の話はこの世界での無詠唱の話だが、前世の作品だと、無詠唱って言った場合魔法名も言わないことの方が多いよな?
俺の場合、魔法辞典を使った場合はいらないけど。
味気ないし、魔法の発動を意識する意味もあるから言ってるけどね。
「それは、完全にイメージだけで発動できるようになると破棄できるようになるらしいね。俗に言う概念魔法だよ。僕はまだ一度も成功した試しがないけど」
「それはそうでしょう。何度も使って頭に焼き付いた得意魔法なら或いはと、お母様も言ってたくらいだし、もっと実戦で使ってからでしょうね」
いろいろあるんだな。
「さあさあ。魔法のお勉強も良いけれど、取り敢えずお昼を食べてしまいましょう」
そう言ってお姉ちゃんが手をたたく。
言われて気付いたけど、いつの間にかおいしそうなお昼御飯が並んでいた。
俺たちが話し合っている内にお姉ちゃんが配膳してくれたみたい。
「「ありがとう」」
夢中になって気づかなかった者同士ばつが悪そうに席に座る。
とてもおいしそうだ。
「では、いただきましょう」
何というか、齢十二歳にして母性にあふれていた。
「そう言えば、お兄ちゃんとお姉ちゃんって将来騎士になるの?」
食休み中に聞いてみた。
なんとなくそうだとは思っていたけど、本人の口から聞いたことは無い気がする。
「そうだね。僕はもう騎士団に入ることを決めているよ」
「領主は?」
跡取りなのに大丈夫なのだろうか。
「父上はまだまだ現役だからね。父上がお爺様から引継ぎを始めたのもニ十歳を過ぎてからだと伺ったし、蔑ろにするつもりはないけど、もうしばらくは自由にさせてもらおうと思っているよ」
そうなんだ。領主教育を受けてるのは知ってるけど、成人してすぐじゃないんだ。
「お姉ちゃんは?」
「私も騎士になるわ!」
さっきの慈母のような表情とは打って変わって、夢見る乙女のようだった。
なんだか女性が夢見るものではないと思うが、この世界は女性の社会進出が進んでるからなあ。
お母さんが近衛騎士だったことからも分かるように、スキルがあれば男女差など余裕でひっくり返るのだ。
だから、そう言う分野は前世よりも全然進んでいると思う。女性だからと凝り固まった思考を持っているとすぐにふるい落とされるからね。
そう言う面では、今世は女性である俺としては嬉しい。
「憧れている人でもいるの?」
お姉ちゃんがあそこまでキラキラした目をするのは珍しいと思う。
「ええ。近衛騎士団長様よ。女性なのに、しかもあんなにお若いのにあそこまでの鮮烈な強さ。憧れるわ」
「そんなにすごいの?」
お姉ちゃんが別の世界に旅立ってしまったのでお兄ちゃんに聞いてみる。
「うん。僕からすれば父上も別次元だけど、お爺様とエリアル様はさらに別次元だね」
そこまでなんだ。お父さんの強さも良く分からない俺からしたら未知の世界だ。
今度、お父さんの鍛錬を覗いてみようと思った。




