第七話~手紙~
ぺらり。
食後の穏やかな時間を使い本を読んでいると、とても贅沢なことをしているように思える。
今読んでいる本は勇者と魔王の本。
今までも何度も読んだ本だが、本というのは二度目三度目と読み込むことで新しい面白さが見えてくるものだ。
前世では何度も読む意味が分からないと言う友人もいたが、正直損しかしてないと思う。
ぺらり。
本のページをめくっていくと、一ページ丸々使った挿絵が現れる。
この本の中でも、俺が特に気に入っているシーンだ。
挿絵の中で、一人の少女が立っている。この少女がこの物語の主人公だ。
その少女が立っているのはとある丘。その頂上には剣が刺さっている台座があり、少女はその剣に手をかけている。
ここで聖剣を抜いた少女は勇者となり、人々を救い、最後には魔王を倒して国を作るのだ。
そんな大冒険の最初の一歩だと思うとワクワクする。
さらにさらに、これ実話らしい。
さすが異世界。本当にあった話だと思うと別のワクワクもあるよね。
ただ、かなり昔の話らしいしどこまで本当かは分からないが。
とはいえ、ある程度は史実に残っている。少なくとも初代勇者は女性で、その女性が作った国がはるか西にあるのは確かだ。ぜひ行ってみたい。
初代勇者が聖剣を抜いた丘、つまりこの挿絵の舞台もまだ残っているらしい。そこは必ず聖地巡礼しなくては。
大人になったら絶対に行こう。そう心のメモ帳に記した。
「うーん」
伸びをすると固まっていたからだが解れ、疲れと心地よさが入り混じった解放感に包まれる。
スキルに頼らずに読んだから結構な時間がたった。
ふと窓の外を見ると、お昼下がりの暖かな光景が見える。
ずっと室内にいるのも健康的じゃないし、外に行こうかな。
そう思い立ったが吉日。
メイドさんを呼び外に出ることに。
未だに車椅子生活なので誰かに押してもらわなければいけない。
しかし、今回はメルキスは忙しくて来れなかったみたいだな。
来たのは、新しく俺付きになったメイドさんだった。
服装とかを整えてもらい、男手を呼んでもらって車椅子ごと一階に下ろしてもらう。
前世だとかなりの重労働だが、この世界ではそうじゃないみたい。
以前聞いてみたところ、武術系スキルが一つでもあれば一人でも余裕だって。この世界では、武術系スキルには身体増強効果があり、前世では人外の動きでも余裕でできてしまうとか。
俺も剣とか習い始めたら人間辞めてしまうのだろうか。
そんな未来に思いを馳せていると、玄関に行く途中でお祖母ちゃんを見かけた。
「お祖母ちゃん!」
「あら、セシリア。今から外に行くのかしら?」
「うん。良い天気だし。お祖母ちゃんは?」
「実は面白い手紙が領地の屋敷に届いてね?それをルシベルトに見せに行くのよ」
それってこの前メルキスが言ってた奴かな。
でも、手紙が面白いってどういうことだろう。
「お祖母ちゃん、その手紙って私が見ても良い手紙?」
「あら。見てみたい?」
そう言うということは見ても良い手紙なのだろうか。
「うん!」
「良いわよ。寧ろいろんな人の意見が聞きたいくらいね」
ということで予定を変更し父の執務室に向かうことに。
父の執務室は一階にある。私室や寝室は二階にあるんだけどね。
「セシリーもですか?」
「ええ。セシリアにも見せようと思って」
「大丈夫なんですか?」
「危険なものではないわ。内容については見てのお楽しみね」
そう言ってお祖母ちゃんは悪戯っ子みたいに笑った。
前々から思ってたけどお祖母ちゃんとお母さんって似てるよね。
「これは…」
手紙を見たお父さんが怪訝な顔をする。
中身が気になり、車椅子の上で精一杯背を伸ばして見ようとするも、机が高くて見えない。
「おいで」
うお。久しぶりにお父さんの膝に乗った。
背中には鍛え上げられた胸筋や腹筋の感触がある。
そう、実はお父さんは着やせするのだ。脱いだらすごいよ?
「ほら、見てごらん」
そう言って、机の上の手紙を俺が見やすいように傾けてくれる。
「え?」
何だこれ。暗号?
そこには、何やら記号やら図形やらで埋め尽くされた手紙が。辛うじて行になっているので何かを伝えているのが分かる。
「これは?」
「おそらく魔法言語、そして魔法式だね。ですよね?」
「ええ。私もそう思うわ」
すげえ、初めて見た。
魔法式が魔法を記述したもので、魔法文字がその為の言語だ。これを形にしたのが魔法陣と言われている。
研究がほとんどストップしている分野で、魔法陣は今判別している陣と紋章の組み合わせだけで新しい効果を模索している段階らしい。
「でもそんなものがどうして」
「さっぱりだわ。スポンサーになって欲しいのかもとも思ったけれど、差出人が不明なのよね」
「それで、意見を聞くために持ってきたという訳ですね」
なるほどねぇ。
て、あれ?
そう言えば魔法辞典って…。
そう思いスキルを発動する。
あ。やっぱり。
今まで魔法コピーがチート過ぎて忘れてたけど、『魔法言語、魔法式、魔法陣学の知識が納められた辞書』という、本来の機能があったんだった。
うっかりうっかり。
でも丁度良いからそのままスキルの知識を参照しながら手紙を見てみると…思った通り読めた。
とはいえ、そのまま読み進める訳にも行かないよね。
「ねえねえ。これ読んで良い?」
「え?読めるのかい?」
「うん」
「そうね。一応魔力を流しても魔法は発動しなかったから魔法陣ではないわ。危険はないでしょう」
「それなら…。読んでもらって良いかい?」
「うん」
許可が出たのでさっそく読み始める。
魔法辞典は辞典の名の通り、頭の中に知識がインプットされるわけではなく、辞書みたいに引く必要がる。なので少し時間がかかりながらも読み進める。
そうして読み進めていくと、一つ分かったことがある。
これ、多分全部の魔法言語を知らない人が書いたな。
基本的な文法は大丈夫みたいだけど、普通の言語で言う助詞や名詞、動詞の知識が不十分な人が書いた文みたいだ。言いたいことを言うのに、自分の知ってる知識だけで言おうとしてるから結構遠回りな表現が多い。
だけど、きちんと読める文になっているというのはすごいことなのではないだろうか。
書いてある内容については…遺書、かな。
この人は、とある大切な人物のためにお守りを作っていたらしい。もちろんただのお守りではなく、魔道具だ。
だが、完成させることは出来なかったらしい。その魔道具に関する知識を記しておくので、できたら完成させて欲しいという旨の手紙だった。
正直俺が読んで良い物か疑問だが、乗り掛かった舟だ。
そのまま、作って欲しいという魔道具に関連する知識部分も読んでいく。
そして、最後まで読み終わったところで聞きなれない音が聞こえた。
『ピロン』
「ぴう!?」
へんなこえでた。
ていうか、あれだ。こいつ!? 脳内に直接!!?? って奴だ。
耳から入ってきた音じゃない。
しかし、どうやら俺が落ち着くのを待ってくれるつもりはないらしい。
『これより、隠しクエスト:賢者の遺志<四葉の護符>を開始します』
これが、この世界で俺が受けた最初のクエストとなった。




