感情
その日もルイスと一緒に庭園で魔力を感じる特訓をしていた。
ここ数日、お父さんや王妃様もやってきて、あれこれ試行錯誤してくれたが、私に進展はなかった。
太陽もだいぶと西に傾いた頃、
「アイリ、もう止めよう」
とルイスは言った。
「えっ?なんで?」
「本来、魔力は自然に感じるものなんだ。無理に引き出せるものじゃない。」
「でも、魔法が使えないと」
王族ではないって…
「アイリはこの2ヶ月、魔法がなくても普通に生活できてたんだ。使えなくても変わらない。」
「でも、魔法が使えないと王宮が機能しないんでしょ?」
「アイリが使えなくても俺が使えるから問題ない。」
「………。」
「それに今使えなくても数年後には使えるようになるかもしれない。練習するのはそれからでもいいんじゃないのか。」
「…もし、ずっと使えなかったら?」
「魔法が使えなくてもアイリが王家の姫なのは変わらない。」
「…なんで、そんなこと言うの?」
この半月ちっとも魔法に関して進展はなかった。
何も感じないことに私には魔法は使えないのかもしれないと何度も思った。
でもお父さんの娘なのだから使えるはずと自分に言い聞かせた。
魔力を感じれるように全身意識していた。
けれど、それが報われることはなかった。
「アイリだけが無理する必要はないんだ。」
「私、無理なんてしていない。」
すっとルイスの手が私の顔に伸びた。
「そんな目の下にクマを作って?」
「!?」
「化粧で隠してるつもりかもしれないが、ニーナから話は聞いている。夜遅くまでライブラリーに籠もってるって。魔法に関して調べているんだろ。」
ニーナには黙っててって言ったのに。
「ニーナもアイリを心配しているんだ。分かってやれ。」
「………。」
「半月後には王宮の夜会が控えているんだ。そんな顔で出るつもりか?体調を崩したら元も子もない。」
「………。」
「使えるかわからないものに無理する必要はないんだ。」
ルイスの言っていることはわかる。
わかるけど…
「ルイスはずっと付き合ってくれると思ってた。」
なんの根拠もないのに…。
「俺はアイリの味方だ。けれどこればっかりはどうしようもない。」
「もしずっと使えなかったら、王族ではいられないのでしょ!」
王族になるための今までの努力はどうなるんだ。
「それでもアイリが王家の姫なのは変わらないって言っただろ。それに俺がそんなことさせない。俺がアイリを守る。」
「私はっ!」
私はそうやってルイスに守られてるだけは嫌!
「私は諦めない。諦めたらそこで試合は終了なんだから。私一人でも頑張るわ。」
「アイリ!」
庭園を飛び出した私はそのまま自室に走った。
自室に入るとそのままベッドに倒れこんだ。
倒れ込むと堪えていた涙が溢れるのがわかった。
焦りとショックと悔しさと悲しさがない交ぜになって私の中に渦巻いた。
「うっ………くっ………」
ルイス、ルイス、ルイス。
ルイスの言ってることはわかる。
でもルイスだけは最後まで私のやることに応援してくれると思ってたんだ。
私が諦めたくないこと、ルイスなら分かってくれるって思ってた。
それなのに……。
泣いて泣いて、とことん泣いた。
ニーナとレベッカが入室を求めたが私は応えなかった。
一晩中泣いた気がする。
けれど、気分が晴れることはなかった。
「アイリ様、レベッカです。入ってもよろしいでしょうか?」
扉の向こうからレベッカの声が聞こえたが私は応えなかった。
「アイリ様、入りますね。」
それでもレベッカは控え目に扉を開けて入ってきた。
そんなレベッカに私は非難の目を向けた。
「アイリ様、ルイス様がお見えです。」
「………会いたくない」
「よろしいのですか?」
「………。」
答えない私にレベッカは部屋を出たのかと思ったが、すぐに戻ってきた。
ニーナかマルクに伝えにいっただけか。
「アイリ様、まずは着替えて目を冷やしましょう。赤く腫れてますわ。」
昨日、そのままベッドに倒れこんだのでドレスはシワができていた。
レベッカはラフなドレスを出してきて、私の着替えを始めた。
私はされるがままだ。
着替えた後、ソファーに座らされ水で冷やした布を目にあてがわれた。
冷たくて気持ちよかった。
「アイリ様、どなたかお呼びしましょうか?」
「…なんで?」
「殿下かマリカ様か、お話しされたらすっきりすることもありますよ。」
「………いらない。」
「そう、ですか。…でしたら」
「レベッカ、……1人にして。」
「………はい。申し訳ありません。」
レベッカが部屋を出て行く音を聞いて、私は自己嫌悪に陥った。
レベッカは親切心であれこれしてくれたのに、私はそれをただ拒絶して…何様のつもりだ。
でも今はそっとしておいてほしい。




