夜会 1
オフショルダーのコバルトブルーのドレスに袖を通し、髪はエクステをつけてハーフアップにされ毛先は軽く巻かれた。
胸元には大粒のダイヤのネックレス、耳にはお揃いのイヤリング。
これ、いくらするんだろうと内心ひやひやする。
メイクはいつものナチュラルなものと違い、少し濃い目に。
グロスを引いた唇が存在感アップ。
姿見に写った自分はいつもより大人っぽい。
「アイリ様、ルイス様がお見えです。」
エントランスで待ってていいのに部屋まで迎えに来てくれたみたいだ。
ニーナが扉を開けるといつもと違って黒のタキシードを着たルイスがいた。
ルイスの正装姿、初めて見た。
いつもと違うからか妙にドキドキする。
ルイスの胸ポケットには私のドレスと同じ色のハンカチーフが顔を覗かせていた。
なんかお揃いみたい……。
あ、パートナーだからか?
だめだ、平常心平常心。
「ルイス、お待たせ。」
「あ、あぁ。……いつもは可愛いけど、今日のアイリは綺麗だな。」
「っ!?」
この人はなんて事を言うんだ!!!
直球でそんな事言うとか反則!!!
「この髪は着け毛?」
「う、うん。」
「似合ってる。」
なんだよ。なんでそんな嬉しそうな顔するの!?
恥ずかしすぎて顔が熱い。絶対に赤くなってる。
熱を冷まそうと何度か深呼吸してから部屋を出た。
エントランスにはお母さんと王妃様がいて、
「あらー、愛梨ちゃん、とっても綺麗よー。」
「アイリ、くれぐれも粗相がないように。ルイス、頼みましたよ。」
そんな2人に見送られてランザード家の馬車に乗り込んだ。
ファズリー侯爵家にたどり着き、ルイスに手を取られて馬車を降りた。
正面の入口には今から入場する人が何組かいて、当たり前だけどみんな正装していた。
もうね。なんていうか映画の世界だわ。
ルイスにエスコートされて入口をくぐると、
体育館並みの広さに色とりどりのドレスが溢れていた。天井も高く大きなシャンデリアがいくつもあり、こういう場でよく使われるけど、豪華絢爛。
ルイスの家のランザード家も広かったけど、ここも相当広い。
貴族ってのはみんなこれぐらいの広さの家なんだろうか。
ついつい掃除大変そうだなーと思ってしまう。
「アイリ、まずはファズリー侯爵に挨拶に行こう。」
「う、…えぇ。」
いけないいけない。ここでは猫を被らないと王妃様の鬼指導が待ってる。
気を引き締めルイスの腕に手を添えた。
少し歩いて直ぐに、
「ねぇ、なんかすごく視線を感じるんだけど…」
ルイスにだけ聞こえる声で言う。
「俺がパートナーを連れて夜会に出席するのは初めてだからな。」
「何?私、珍獣扱い?」
「みんな、アイリに見惚れているんだよ。」
違う。絶対違う。
これは好奇の視線だ。
ルイスが連れている私が誰なのか、何故ルイスといるのか、そんな視線だ。
「…すまない。アイリが考えている通りだ。」
「ルイスがどれだけ注目されているかわかったわ。」
そりゃ、次期国王だもの。注目されない方がおかしいか。
好奇の視線に晒されるのは随分久しぶりだ。
おかげで猫被れそう。
「ファズリー侯爵、ご無沙汰しております。」
ファズリー侯爵は黒髪をオールバックにしたダンディーなおじさま。目元が王妃様そっくりだ。
「ルイス、よく来てくれた。シャルロットから話は聞いている。隣の女性が?」
視線を向けられたので、
「初めまして、アイリです。王妃様には大変お世話になっております。」
「初めまして、アイリ様。なるほど。クリストファ殿下の若かりし頃に似ておられる。本日はファズリー家にご足労いただき誠に申し訳ありません。」
「いえ、お話はうかがっております。」
「前侯爵の準備が整い次第、お声をお掛けさせていただきます。それまで我が家の夜会をお楽しみください。」
ファズリー侯爵への挨拶を終えるとルイスと場所を移動する。
移動する度に視線もついて来る。仕方ないけど鬱陶しい。
「アイリ?」
「はい。なんでしょう?」
ルイスが気遣わしげに顔を向けてくる。
言いたいことはわかるけど仕方ない。ここはアウェイだ。
猫一匹被ったくらいじゃ物足りない。
ルイスはウェイターからグラスを2つ受け取り、1つ私に差し出した。
受け取ったグラスに口をつける。
「!?ってこれお酒?」
「あぁ、そうだが。アイリは飲めなかったか?」
「お酒は二十歳になってから!」
「アイリの世界ではそうなのか?こちらでは16才で成人だからてっきり飲めるのだと思っていた。」
まさかここでもカルチャーショックを受けるとは…。
文化の違いに驚いていると、
「よ、ルイスと姫さん。この間ぶりだな。」
とメルヴェスト公爵次男レクサスが声をかけてきた。
お酒は二十歳になってから!
登場人物
ファズリー侯爵、王妃様の兄




