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王妃様のお願い

「アイリ。本当に、本当に不本意ですが、あなたにはファズリー侯爵家の夜会に出席していただきます。」

「へっ?」


なんでまた?

王家主催の夜会まで残り1ヶ月。

王妃様はまだ私を外に出すことに不安があるそうなんだけど、そんな王妃様が勧めてくる夜会って…。


「ファズリー侯爵家というと王妃様のご生家ですよね。」

「ええ、そうです。前侯爵、わたくしの父からあなたに会いたいと打診がありましたの。本来なら王族に出向かせるのは不敬に当たり、前侯爵が出向くのが筋というものですが、父は足を患っており王宮まで出向くことが困難ですの。なのであなたはルイスのパートナーとして夜会に出席なさい。」


んー、私に会いたいってんなら、前みたいにお茶会じゃダメなのかなー。


「これは1ヶ月後に控えた王宮での夜会の練習と思いなさい。兄には話を通してありますわ。」


こうして突如、夜会に出席することになった。

うん、まあ一発本番で王宮の夜会を迎えるよりはいっか。




最近はマナーも様になってきたみたいで指摘されることも減った。

ダンスはまだまだステップがあやふやな所があるけれど、ルイスとなら踊れているし、

歴史の授業も大まかな流れは勉強したから今は細かい部分に入っている。

国内の地理も大分覚えたから、つぎは近隣諸国とか各領地の特産品などを学んでいた。


受験の時より勉強しているかもしれない。


でも合間に気分転換として本を読むことも忘れない。

先日、ベアトリーチェからお薦めの本を書いた手紙を受け取ったから、それらを読むのも楽しみだ。




「アイリ、ドレスはどうするんだ?」

「ドレス?」

「ファズリー侯爵家の夜会に着ていくドレス。仕立てるには時間がないが。」

「んー、どれでもいいんだけどなー。」


私の部屋のクローゼットにはたくさんのドレスが収まっている。

普段用のドレスからお出かけ用にそれこそ着たことがない夜会用のドレスが今の部屋と同じぐらいの広さのクローゼットに所狭しと並んでいる。

しかもドレスに合わせて靴も何足あるねんってほどあるし、更に小物も全部把握できないほどある。

ぶっちゃけこれらを全部着るのはいつになるのかわからないほどだ。


「レベッカ、何かある?」

「はい。いくつかお選びいたしますね。」


レベッカはウキウキしながらクローゼットに入っていき、数分後、5着ほどのドレスを手にして戻ってきた。

そしてそれぞれ見えるようにハンガーにかけ、


「ルイス様、どれにいたしますか?」

「なんでルイスに聞くの?」

「アイリ様に聞いてもどれでもよいと答えるではありませんか。」


う、確かに。

いつも服を着る際、これでいいか?と聞かれるけど、私にしたらどれも同じようなものだからどれでもいいって答えてるかも。


「そうだな。右側の青いドレスがいいんじゃないか?」


ルイスが選んだのはオフショルダーのAラインのドレスだ。コバルトブルーの光沢のある生地でなんとなくシンデレラぽい。


「では、こちらのドレスで小物を見繕いますね。」

「うん。お願い。」


これで夜会のコーディネートは問題ないだろう。


「アイリ、今回の夜会は王妃様からの打診で出席は非公式のものだ。だから俺のそばを離れないでほしい。」

「わかったわ。」


初めての夜会だ。いきなり1人にされても困る。


「やっぱり夜会っていうとダンス踊るのよね?」


もしそうなら他の人とも踊る機会があるわけだが、そうなるとルイスから離れるなーと思っていると、


「踊りたいのか?」

「えっ?踊らないの?」


ルイスはあんまり乗り気じゃないみたい。


「アイリが踊りたいならいいが、俺は夜会で踊ったことないんだ。」

「えっ!?そうなの!?」


あれだけ踊れるのになんて宝の持ち腐れ。


「俺の立場は微妙だからな。誰かと踊ればそれだけで婚約者候補と言われるから社交界に出るようになってからは踊っていないんだ。」


そっか。公爵子息で国王候補だもんね。いろいろあるか。


「来月の王宮の夜会ではファーストダンスではアイリと踊るが。」


んー、踊らなくてもいいなら踊らなくていいかな。

練習の成果を試したいってのはあるけど、絶対に踊りたいってわけじゃないし、来月には踊るわけだし。

来月の練習と思えって言われたけど、雰囲気掴むだけで十分よね。

あと、前侯爵に会うのが目的だっけ。


「それから一つ。…いる確証はないが、エーリュイ侯爵令嬢には気をつけてほしい。」

「エーリュイ侯爵令嬢?」

「会えばすぐわかるさ。」


そう言うルイスはものすごく嫌そうな顔をした。

ルイスが誰かに対してそんな表情をするのは珍しい。

そのエーリュイ侯爵令嬢となんかあったのだろうか。

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