ランザード公爵家
「いいですこと。言葉使いには気をつけなさい。思っていることは顔に出さない。返答に困る質問には動じずに笑顔で返しなさい。すぐに頭を下げてはいけません。素にならないよう常に気を張りなさい。」
お茶会当日、出かける寸前まで王妃様に事細かに注意された。
まるではじめてお出かけを許してもらえた子どもみたいだ。
お茶会で粗相をしたら厳しくすると言っていたけど、この数日すでに厳しかったんですけど。
馬車に乗りランザード公爵家を目指す。
ルイスは向こうで待っているので今日は1人だ。
ルイスは迎えに来るって言ったけど、迎えに来てもまたすぐに家に戻るんだから、無駄じゃね?と思って断ったのだ。
十数分馬車に揺られてたどり着いたのは大きな大きな白亜のお屋敷。
さすが公爵家。王宮ほどではないけど大きいわ。
門扉を抜けて馬車ごと中に入るが玄関までがまた数分かかるとか庭広すぎでしょ。
しかも馬車は玄関で止まり、私を下ろすとUターンせずに出ていけるとか、家にロータリーがあるなんて初めて見たわ。さすが異世界。
「アイリ、いらっしゃい。」
ランザード家の執事に案内されて中に入ればすぐにルイスがやってきた。
「ごきげんよう、ルイス。」
開口一番、カーテシーをすればルイスは目を丸くした。
失礼なやつだ。
仕方ないじゃないか、王妃様に散々釘を刺されたんだから。
「そんな畏まったアイリを見ると変な感じがするな。」
ほんと失礼なやつだな。
って普段が普段だから仕方ないのか。
でも今日は1日このキャラで通す。王妃様の鬼指導、怖い。
「公爵夫人はどちらです?是非、ご挨拶をしたいのですが。」
「…母もアイリのことを知っているからそんな畏まる必要ないんだけど…」
「なんで?」
公爵夫人に会ったの最初のお見合いの時だけだよね?
それで私の事知ってるとかどういうこと?
「アイリはいつもの方が魅力的だよ。」
「………」
えっと、いや、そういう話ではなくて、ね?
………ここはあれだ、王妃様公認奥義!動じずに微笑む。
最近のルイスはちょいちょいこういう言動をするからたまに返答に困る。うん、困る。
「さ、ここだよ。……母上、アイリをお連れしました。」
ノックと共に声をかけると中から直ぐに返事が来た。
促されて中に入り、
「ご無沙汰しております公爵夫人。本日はお招きいただきありがとうございます。」
再びカーテシーでご挨拶をした。
「まあっ、アイリ様。すっかり見違えましたわ。今日は私の我が儘を聞いてくださりありがとうございますわ。」
ソファーに腰掛け、侍女が淹れてくれたお茶を飲みながら公爵夫人とルイスと3人でお茶をした。
言葉に気をつけ、表情を顔に出さずになんとか乗り切れそうだ。
王妃様の鬼指導回避できる!と胸中でガッツポーズをした。
「かあさま!かあさま!」
バタバタと走る音に突然扉が開いたかと思うとルイスのミニチュアが部屋に突進してきた。
「これっ!リューイ!お客様の前でしてよ!」
公爵夫人に言われて初めて私の存在を知ったルイスのミニチュア……これが弟だよね?…リューイは姿勢を正し、
「初めまして。アイリ様ですね?僕はリューイ・ランザードです。」
キラッキラの笑顔で挨拶をされた。
か、かわいいーーー。
私も立ち上がり、
「アイリ・リラ・エルディールです。よろしくね。」
と目線を合わせて挨拶をすると、
「はい、アイリお姉様、よろしくお願いします。」
と腰に抱きついてきた。「こら!リューイ!」とルイスと公爵夫人が咎めるけど、
えっ、何これ?めっさ可愛いじゃん。天使だよ。やんちゃとか嘘じゃん。
と抱きしめ返そうとしたら、
「なんてね。誰が仲良くするもんか。」
とリューイが離れるやいなや、バッとスカートが捲れる感覚がした。
えっ!?
とっさにスカートを押さえその場にしゃがみ込む。
「こら!リューイ!」
とルイスがリューイを捕まえようとしたが、リューイはスルリとルイスの手を逃れ、「へへへーんだ。」とあっかんべーをしながら部屋から出ていった。
天使とか思ったの誰だよ。私だよ。
天使じゃないじゃん、小悪魔?違う。あれはただのクソガキだ!
「すまない、アイリ大丈夫か?」
立ち上がるのに手を差し出すルイス。そんなルイスを見上げて、
「見た?」
即座に首を振るルイス。
この世界の未婚の女性は男性に素足を見せてはいけないんだって。
向こうの世界でミニスカートとか短パンとか履きなれてたのに、私も随分この世界に染まったものだな。
「アイリ様、ごめんなさいね。リューイがとんでもないことを。」
「い、いえ、大丈夫です…。」
ルイスの手を借りて立ち上がる。
横でルイスが「だからいいものじゃないと言ったんだ。」と呟いていた。
絶対、あのクソガキ泣かす!
登場人物
リューイ・ランザード、ルイスの弟10才




