第8話
いつのまにかあの変換室とやらに着いていた。中にはあの男がいる。長い腕を使い慣れた手つきでコンピュータを操作している。
中央にある診察台の様なものの上に何か横になっている。人だ。僕はそれが生きてはいない人だとすぐ察した。僕の心臓は別の意味で高鳴っていた。僕はあいつに気付かれない様に、必死で息を殺した。
男が手を止めると後ろの診察台が静かに光り、それが収まるとそこに居たはずの人が消えていた。僕は口をあんぐり開けて驚いた。
「き、消えた。」
りえですら聞こえるかどうかわからない声で僕は言った。中央の台を確認し、それから男は部屋を出て行った。待ってました、と言わんばかりにりえは部屋へ入る。僕も恐る恐る後に続き、診察台を見る。何もない。どの角度から見ても、何もなかった。
「ここから行けるんだよ。」
小声でりえは言う。彼女の指差した先にはエレベーターの様なものがあった。ただ僕が知っているエレベーターとはかなり様子が違っていた。扉は厚いガラス張りで中は薄い光で覆われていた。
鉄、ではないし、もちろん木でもない。何で出来ているか検討もつかなかった。僕はそんな得体の知らないエレベーターに、何の躊躇も無く乗っていた。
「向こうに着いたら、町外れにある古い喫茶店で待ってて。私も必ずそこに行くから、またそこで会おうね。」
うん、わかった。と僕が言うと、彼女は笑いディスプレイの上で指を走らせた。するとエレベーターの中が強く光り始めた。驚いてりえを見ると彼女は手を振っている。僕も手を振ろうと手を顔の横まで持って来たところで目の前は光で真っ白になった。
次に目を開けると、変換室と似た様な部屋に僕は居た。エレベーターからゆっくり降り、部屋の出口まで歩いた。扉は自動で開き、それに驚いて体重が後ろに傾いたが恐る恐る部屋の外を覗いてみた。
見た事のない通路が左右に続き周りには人の気配はしない。そう確認したところでりえの言っていた、一番古い喫茶店の事を思い出し外に出る事を決意した。
建物の中には誰も居なかった。その為迷いながらではあったが、思ったよりかはすんなりと外へと出られた。無事に出られて良かった、とホッと一息つく間も無く僕は目の前に広がる景色に驚き固まった。
車は空を飛んでいて、フリスビーの様なものに人が乗り街を滑る様に進む。ロボットが平然と歩き、周りの人はそれを気にする事なく前へ進む。建物も僕が知っているものとは様子が違う。いつか母と一緒に見たスターウォーズの世界にどことなく似ている。
「りえが言ってた通りだ。」