第7話
それから数日が経ち、たろうが待ち望んでいた夏休みに入った。キャンプに行って来るぜ、と電話越しにたろうが言う。また帰って来たら遊ぼうな、と言い僕達は電話を切った。家の中には僕だけで、付けっ放しのテレビがひとりで喋っている。
世間の小学生は夏休みに入った事を心から喜び、そして楽しむ。が、僕は夏休みより学校が早く始まって欲しいなと思っていた。小さく溜息を吐く。
パーーーーーン。
聞き覚えのある音がどこからか鳴った。あの霊柩車の音だ。僕はその音を聞き終わると外に出て火葬場の方に向かって自転車を漕いだ。そこに行けばりえが居るかも。僕はそう思ったのだ。
火葬場は小さな山を越えた所にあり、自転車では三十分弱かかった。そこに着くとまた重たい空気に包まれていて、遺族の方達が肩を竦め故人との別れを惜しんでいた。
やっぱり帰ろうと後退りしたその時、遺族から離れた所にそれを見守る様にして座っているりえの姿が目に入った。僕はその場に自転車を置き彼女の元へ出来るだけ静かに向かった。
りえは僕に気付くと、久しぶり、と笑顔になった。僕も同じ言葉を返しながらあの男が居ないか周りを見渡した。あいつは?と問いかけると彼女は、
「今は変換室でお仕事してるよ。」
そうなんだ、と弱く相槌を打ち彼女の隣に座った。隣に居るだけでまた心臓は高鳴る。それから彼女に質問をしようとした瞬間、彼女の方が先に口を開いた。
「私、今は未来に住んでるんだ。」
ミライ?僕の頭は緊張のせいか正常に働いておらず、その言葉を理解するまで少し時間がかかった。それから彼女は自分の事、それからミライの事について話した。
彼女は前はこの街の近くに住んでいたらしい。詳しくは住んでいた記憶があると言っていた。今は未来の世界に住んでいて、たまにこうしてあの男と一緒に現代に来ているみたいだ。未来では車は空を飛んでいるし、沢山のロボットが街を歩いていると楽しそうに話す彼女を見て、
「へぇー、す、凄いな。僕も行ってみたいな。」
と口から言葉が漏れてしまった。
「来てみる?」
りえは言った。え、うん、と半信半疑で返事をするとまた僕の腕を掴みこっそりまたあの場所へと走った。恐らく僕はこの子に恋をしている。この時僕は初めて思った。周りの遺族が僕達を見ているかだとか、あの男がまた現れるんじゃないかだとかこの瞬間は考えられなかった。彼女の歩幅と同じリズムで僕の腕は跳ねる。心臓の動きはまた速くなる。
ハツコイってやつなのか。
僕は恥ずかしがりながら内心で呟いた。