第6話
「明日は予約でいっぱいみたい、忙しくなるな。」
母がそう言うと、僕も算数と理科があるから忙しくなるよ、と答えた。今度は無理にではなく母は本当に笑った。オレンジジュースを一気に飲み干し、おやすみと母に言い寝室に向かった。
ベッドに横たわると深く体が沈んでいった。今日は疲れていたのか目を閉じるとすぐ眠りに落ちた。夢の中で僕はりえと会っていた。
りえに腕を引っ張られどこかへ向かって走っている。何か後ろに気配を感じる。恐る恐る振り返ると、あの変な男が長い腕を振り短い足で走って追いかけて来る。男の足は早くみるみる差を縮められる。後少しで長い手が僕の肩に届きそうなところで、りえが急に僕の方を振り返り、
「ゆうた、朝だよー。」
と言い放ち僕は目を覚ました。目の前には母が顔を覗かしていた。早く顔を洗ってご飯食べちゃってね、と母は寝室を出て行った。夢かと大きく溜息をつき体を起こした。
朝御飯を食べながら母にりえの事について尋ねた。そんな子いたかなと言い母は首を傾げた。
「あ、りさちゃんの事?」
りさとは、僕の二つ上の子で母の姉の娘だ。
「違う、りえ。」
やはり母は知らない様で、首を傾げた。まあいいやと言い味噌汁を流し込んだ。朝御飯を済ますと食器を片付けた。
えらい!と言いながら迫って来る母を今度は華麗に避けて見せた。母は悔しそうにもぉと唸る。僕は母に向かって無邪気に笑ってやった。母も笑った。
良かった、いつもの母さんだ。そう心の中で呟き学校の支度に向かった。木曜の時間割には算数、理科、社会、国語が含まれている。準備する教科書やドリルなどいつもより多く、ランドセルは他の日より重たい。
そんな重いランドセルを背負って、行ってきます、と太陽が照りつける中学校へと向かった。
「夏休みまで後六日!」
遂におはようも言わなくなったたろうが後ろから駆けて来た。一週間切ったな、と僕が付け足してやるとそうなんだよ、と感激していた。
一日学校を休み、僕は何故か気まずいなと思っていた。そんな中、たろうとのこのやり取りはその気持ちを吹き飛ばしてくれるものだった。恐らく本人は夏休みの事で頭がいっぱいで、僕が昨日休んだ事なんて考えてはいなかったんだろう。それでも彼に少し感謝した。
良かった、いつもの毎日だ。