第5話
大きな扉が開くと、その先には骨になった曾祖母がいた。坊主がその隣に立ち一つ小さな骨を長い箸で摘んだ。
「これは座っている仏様の様に見える事から、喉仏と言われております。」
僕は自分の喉をさすったがその様な骨は見当たらない。皆んな坊主が持っていた長い箸を使い曾祖母の骨を壺の中に入れ、その箸をバトンの様に回して行く。
僕の番に回って来たが、僕には大き過ぎる箸を上手く使えず時間をかけてやっと骨を一つ壺に入れた。どこの骨かはわからないが、カケラの様な骨だった。
タエばあちゃんの全部が綺麗に壺に収まると、それぞれ静かに墓地へ向かった。僕の心臓はようやく治りようやく葬式に集中出来るようになった。墓地は夏だというのに冷んやりとした空気に包まれていた。
「お母さん、ゆっくり休んでね。」
祖母が震えた声でそう言いながら壺を墓に埋葬した。そうか、人は死んだらここで寝るのか。と僕は心の中でがっかりしながらそれを眺めていた。骨が埋葬され大人三人掛で墓の扉が閉められた。
忙しい中集まってくれてありがとうね、と皆に向かい祖母が悲しそうな笑顔でそう言った。皆それに深く会釈して重たい足取りでそれぞれの帰路へと向かって行った。
それを見送った後、僕と母は祖母と一緒に曾祖母の家にまた戻った。母は葬式の片付けを手伝い、僕は昨日のお通夜に出された料理の残りを片付けていた。味はまだ煙がかっている。
片付けが一通り終わると、僕達は曾祖母の家を後にした。母は真っ直ぐ前を見て運転していた。明日は学校行くんだよね、と母に尋ねると、そうだよ、と優しく答えてくれた。
たろうの顔が頭に浮かぶ。この時僕は何故か学校へ行きたかった。葬式の重たい空気にうんざりして、早くこの空気を変えたかったに違いない。家に帰り着くと真っ先に風呂に入った。
体を洗い湯船に浸かりながらもう一度握られた掌を眺めた。まだ温かい気がした。それから天井を見上げふぅと長めに息を吐き、吐き切るとそれと同時に湯船から上がった。
風呂から上がると母は美容師仲間に電話してる様だった。
「今日はごめんね、明日は出てくるから。」
また明日ね、と言い母は電話を切った。僕が風呂から上がった事に気付くと、笑って何か飲むかと僕に聞いた。その笑顔は無理に作っているものだとわかった。
「オレンジジュース。」
と答え、わかったと言い母は冷蔵庫から良く冷えたオレンジジュースをコップに注いで僕に渡してくれた。風呂上がりの火照った体にオレンジジュースは染み渡っていく。