第3話
次の日の御葬式。
僕はお経を読んでいる坊主の背中をずっと眺めている。正直、子供の僕には辛い時間だ。
お経が終わると曾祖母の入った棺は男六人掛りで持ち上げられ、外で待っていた霊柩車に入れられた。御葬式に居合わせた人達はそれぞれの車に向かい霊柩車の後ろに着いた。火葬場に向かうのだと言う。
パーーーーーン。
霊柩車は音を立てて出発した。それに続いて他の車も走り始めた。気のせいか、車も少し普段より色が暗く見えた。
火葬場は僕の家と曾祖母の家の丁度中間に位置していて、曾祖母の家からは十五分程で着いた。そこに入ると空気は重く、息苦しさも感じた。
皆んな運び込まれた曾祖母に最後のお別れを告げていた。今まで泣くのを我慢していた祖母はこの時留め具が外れたかの様に泣いていた。タエばあちゃんの後ろには大きな扉が見えた。
その扉が開き、坊主のお経とともにタエばあちゃんはその奥へと連れていかれた。
「火葬が終わるまで少々時間がかかります。待合室にお茶を用意したのそれまではそこで休憩なさって下さい。」
係員の様な人の掛け声で、皆んな待合室へと向かった。
待合室の中で母は祖母の気にかけ、肩をさすっている。僕は何をしていいのかわからないので、とりあえず用意された御菓子を摘んだ。いつも食べているはずの御菓子の味は、いつもより湿気っている様な気がした。
ふっと窓の外を見てみると、見慣れない制服を着た僕と同い年位の女の子が立っていた。肌は白く人形の様な女の子だ。僕はその子の顔をどこかで見たのか、何故か見覚えがあった。
少し見惚れていたら目が合った。女の子は上を向き一瞬考えた様な顔をしたが、また僕の方に目をやりニコッと笑った。僕は母には何も言わず、彼女の元へ向かった。
「何してるの?」
「何も、あなたは?」
「僕も何も。名前は?」
「りえ。名前は?」
「僕はゆうた。」
女の子はニコッと笑いまた一瞬何かを考えた。考えてから来てと言って僕の手を引いた。
僕は女の子と手を繋ぐ経験があまり無かった為、酷く緊張した。顔は徐々に熱くなり、赤みを帯びてきた。心臓は相手に伝わってしまうんじゃないかと思うくらい高鳴った。
ここよ、と目的地に着きもう一度僕の顔を見た彼女はさっきまでの笑顔とは違う、別の僕を小馬鹿にする様な笑顔を見せた。