第2話
タエばあちゃんとは、今年で九十八歳になる僕の曾祖母だ。僕はタエばあちゃんと数回あったくらいで、そんなに面識がなかったからか涙は出なかった。ただ、母が泣いているところを見ると僕も寂しい気持ちになった。
その夜学校の制服に着替え、母と二人で曾祖母の家に行った。家までは車で三十分程離れていたが、母と僕は一言も交わす事なく目的地へ到着した。玄関に入ると祖母が僕達の前にゆっくりと来た。目は赤く少し腫れている。笑顔だか無理矢理作っているように見えた。「良くきたね、お上がり。」
靴を綺麗に並べ、僕は家の中へ入った。家の奥には亡くなった曾祖母の遺影が飾られてあり、その周りには沢山の花が供えられていた。そこから少し下を見ると、目を閉じて横になっている曾祖母の姿があった。
僕は御葬式や、お通夜などそういった類いのものは初めてで、もちろん死んだ人を見るのも初めてだった。タエばあちゃんは寝ているだけではないかと疑問に思ったが、母に連れられ遺体に近づくとその疑問は消えた。
これが死ぬって事か。僕は心の中でそう思い唾を音を立てて飲み込んだ。
お通夜には、親戚の人が集まっていて、ついこの前の正月に会った時とはまるで雰囲気が違った。僕と歳の近い子供達も、その空気を読んだのか大人しく座り目の前に並んだ御馳走を摘んでいた。僕も腹が空いていたので、一緒になってそれを食べた。線香の匂いと混じり、料理の味は煙っぽかった。
「帰るわよ。」
僕はいつの間にか寝ていて、母の声で目が覚めた。目をこすりながら、母に手を引かれ曾祖母の家を後にした。
「明日は御葬式だから、学校をお休みするからね。」
母は車を運転しながらそう言った。明日は水泳の授業があったのに、と頭で考えながら、わかったと心無く返事をした。空を見ると晴れていて、とても良く天の川が見えた。
「人って死んだらどうなるのかな?」
母に向かって放った言葉だったが、車のエンジン音にかき消され、なかった事になった。家に帰り着いても重たい空気が漂い、僕は明日入ると言いお風呂に入らずベッドに横になった。そしてもう一度誰もいない寝室で、
「人って死んだらどうなるのかな?」
と囁いた。飾られている花、眠る様に横になっている曾祖母、その周りで泣く人、線香の匂いに、並ぶ料理。今日のお通夜の事を頭の中で思い浮かべながら、僕は眠りについた。