第19話
僕はびくっとした。上の奴らだ。そう思い、またフードを被り席を立とうとした。
「待て待て、そう怯えるな。」
男は煙草を吸い、ふーっと息を吐くと僕の方を見た。
「お前もあの女の子と一緒にここに来たのか?」
あの女の子とは聞かずともわかった。りえの事だ。
「おじさん、りえちゃんを知ってるの!?」
僕は身を乗り出して聞いた。男はおじさんと言われた事がショックだったのか、髭を隠しながら咳払いをしてこう続けた。
「半年前からあの研究所で怪しい研究が行われていると噂を耳にしてな。その研究は、実験世界から来た生きた子供をモルモットのように使ってやってるらしいんだ。」
男は僕の時代で言う探偵だと言う。あの研究所はこの世界の発展をどの時代も最先端の技術で支えて来たという。頭のチップが代表的なもので、当時の人間では考えないようなものを作り出している。ただその裏では良からぬ噂が絶えなかった。
「俺はあいつらのやってる事は人間がやっていい事じゃねぇと思うんだ。」
男は恨みを込めるかのように、煙草を灰皿に押し付けた。それから、奴らがやってきた悪事を言い並べた。それは全て身の毛もよだつ恐ろしい話だった。りえはそんな奴らに試作のチップを頭に埋め込まれたり、体を色々調べられているという。
「これまでも何度か奴らを取り抑えようと試みたが、政府は証拠が不十分だってさ。だけど今回はヤバいぜ。生きた子供を…。これを公表したら絶対奴らを潰せる。」
男はコーヒーを飲んだ。
「僕も行く、りえちゃんを助けに行く。」
男は呆れ気味に溜め息混じりの声で、あのな、と僕の方に目をやった。加えかけた煙草を机に置いた。僕は涙目になりながらも、殺してしまいそうな形相で男の事を睨んでいた。
「りえちゃんの家族はまだりえちゃんを探してる。りえちゃんを家に返してやるんだ。大事なりえちゃんを。」
僕は生まれて初めてこんな感情になった。自分にとって大事な人を、研究だとか何だとかで縛り付けている奴らに対して、激しく怒りを感じていた。言葉を失う男。
ピーーー、彼の腕の方で何かがなる。どうやら時計のようなものから音が出ているようだ。男がそれにを触れると、四角形の白い光が浮かび上がった。男はその光を睨んでいる。何か書いているようだ。