第18話
昨日、りえが教えてくれたデパートやレストランは人で賑わっている。いつの時代も変わらないものはあるんだな、と安心した。ふと思ったが、子供の姿が見当たらない。
僕の時代は夏休み真っ最中。本当であれば子供連れの親子がこの辺一体を占拠しててもおかしくないはず。だがいくら探してもそれらしいものは見つけられない。この時代には夏休みが無いのであろうか。
たろうの顔を思い浮かべた。将来夏休みが無くなっているのだと知ったら、あいつはどんな顔をするのだろう。きっとあいつは怒り狂い、夏休みある未来を作る為国会議員になると馬鹿な事を言うんじゃないだろうか。それを想像して、僕は笑った。キャンプ楽しんでるかな、とたろうの事が少し恋しくなったところで喫茶店に着いた。
カランコロン。被っていたフードを外しながらドアを開くと、カウンターに立つゆめさんが真っ先に目に入った。おぉ良く来たね、そう言うとカウンターの席に僕を招いた。客はゆめさんと同い年くらいの老人が、五、六人。テーブル席に座って談笑を楽しんでいる様に見えた。
カウンターの席は足の短いこの時代の人に合わせて作っているみたいで、子供の僕でも足が届いた。水でいいかい?とゆめさんが尋ねたので、こくっと頷いた。長い腕が僕の目の前に水を置いた。
「今日はりえちゃんは来てないんですか?」
「あぁ、りえちゃんなら研究所だと思うよ。3日程来られないと言ってたなぁ。」
なんでも、りえは毎日あそこに行っているんだとゆめさんは言う。
「はてな、あの子はあそこで勉強でもしてるのじゃろうか?」
コーヒーを飲みながら、遠くを見つめていた。小さな口は老人特有の震えで小刻みに揺れている。僕も水を少し口に含んだ。
カランコロン。扉が開く音がした。僕はりえが来たと期待しながら扉の方を見たが、そこには背の高いがっしりとした男が立っていた。大きなサングラスをしていて、無精髭を生やしている。なんだ、とがっくりと肩を落としまた前を向き直した。男はどしどしと店内を進み、僕の隣の席に腰掛けた。コーヒーをオーダーすると煙草の様なものを吸い始めた。その煙草からは煙が立っていない。
「お前、ここの人間じゃないな?」
男は僕を見ずにそう言った。