第16話
僕はエレベーターから降りると、部屋の出口とは反対の方にある鏡に気が付いた。鏡には僕の全身が写し出されている。気を付けろ。上の奴らは何をするかわからないからな。男の言った言葉が頭で繰り返される。
その上の奴らにここの人じゃないってバレたらまずいかも。そう内心思った僕は体を隠す物が無いか部屋の中を見渡した。椅子に水色のフード付きのパーカーが掛かっているのが見えた。
りえの物だろうか。僕はそれを着て鏡の前に立ち、フードを被ってみた。サイズは僕でもぴったりで、顔も隠れる。これならいけるな、と満足していると背後から声がした。
「りえさん、何をしているの?」
僕は驚き後ろを振り返った。そこにはフリスビーのような乗り物に乗り、大きな眼鏡をかけた女性が僕を見ていた。容姿はやはり僕とは違う。それから、あの男とは違った雰囲気が漂っている。どうやら僕をりえと勘違いしているようだ。
「それを取りに来たのね。」
僕は声は出さず頷きその部屋を出ようとした。りえさん、もう一度彼女に呼ばれたので振り向いた。彼女はじっと僕の方を見ている。三秒程経っただろうか、間を置いてから、
「またね。」
と微笑んだ。僕はぞくっとした。また首だけ動かし、僕は急ぎ足で部屋を出た。
昨日はいなかったはずのロボットが通路を練り歩いている。僕は出来るだけ壁に体を寄せて、肩を擦り付けるようにし忍び足で進んだ。そうしたらロボットには気付かれないだろう、と思ったからだ。連れ違いざま僕は息も殺した。
ロボットは僕の方には目もくれず、仕事を遂行する為に通路を歩き続けた。それを見て安心した僕は足を前に進めた。角を曲がると少し先の部屋の前で何かを話している二人組の男達が見えた。慌てて角に身を隠した。
記憶が正しければ、外に出るにはあいつらの前を通らなければいけないはずだ。居なくなるまで待つか、別の道を探すか。迷っていると反対側から大きな荷物を押して歩くロボットがやってきた。
これしかない、とロボットの押している荷物の陰に隠れて、一緒に通路を進んだ。よしよし、これで一件落着。僕は勝ちを確信した。しかし、ロボットは二人の前に差し掛かった所で歩くのをやめた。
ロボットが押していた荷物の届け先は、この部屋だったのだ。