第14話
「君はあの時の。」
男は怒っている様子はなく、驚いていた。僕はそれ以上に驚き、肩の力が抜け棒立ちのまま、あぁ、と力無く呻いていた。男は溜め息をつき僕に近付くと、ここは危ないから外に出ようね、と子供に話しかける優しい口調で言った。
「り、りえ、ちゃんは、来てない、の?」
僕は言葉を振り絞り男に尋ねた。男は首を振り、さぁ早く出よう、と僕の手を取って外へと向かった。外に連れて行かれる前に僕はこの男に何を聞けばいいか必死で考えた。考えた結果、
「りえちゃん、おじさんが誘拐したの?」
そう聞いた。僕は聞いた瞬間この質問はまずかったなと後悔した。もし仮にこの男が本当にりえを誘拐した誘拐犯なのであれば、その事実を知っている僕は男にとって都合が悪い。よって僕の事も消してやろう、と思うに違いないと小学生名探偵ゆうたは推測し唾を飲み込んだ。
男は立ち止まり、くるっと回れ右をし僕の方を見た。やられる、僕は覚悟した。が、男はまた大きな溜め息をつき下を向いた。予想とは違う反応に僕は唖然とした。
「はぁ、りえは俺達の世界に迷い込んじまったんだよ。俺のせいだ。」
僕は落ち込んだ様子の彼を目をパチパチさせながら見た。
「あの時俺がしっかり確認していれば、あの子があんな目に合う事はなかったんだ。」
半年程前、りえは祖父の火葬の為ここに来ていたという。彼女は好奇心が旺盛で、男の変わった容姿に興味を持ちひっきりなしに男の後を付けて来たらしい。もちろん、変換室にも。仕事があるから、と言って部屋を追い払った後故人をそこに乗せて未来に送ったんだよ、と言ったところで男ははっとした。
やってしまった、という顔をしていた。恐らく故人を未来に送ったりする類いの話は秘密事項なのだろう。
「大丈夫、僕見たから。」
僕は冷静さを取り戻し、そう答えた。彼はまた溜め息をつき、長い腕で頭を抱え込んだ。なんだかこの男が哀れに思えてきた。
男は何かのネジが外れてしまったのか、ベラベラと未来の事について話しまくった。僕が今いるのは、未来の学者達が研究や実験を目的として作った世界だという。
他にも似たような世界がいくつもあり、動物だけの世界や、微生物だけの世界などもあるそうだ。そして、その実験世界で死んだものは変換室から未来へ送られ、また別な世界に別なカタチに変換され送り込まれるんだ。僕は嘘だと思ったが、男は嘘をついてる様には見えなかった。