第13話
家に帰り着きドアを開けると心配して怒り気味の母がそこには立っていた。ヒーローはあっけなく変身が解け、普通の小学生ゆうたくんに戻った。考えついた言い訳を必死に話しなんとか母の怒りは収まった。
遅めの夕御飯をささっと済まし、風呂場に向かった。体を洗い湯船に浸かる。今日は走ったり、自転車を漕いだりで疲れていた。そのせいで湯の熱が骨まで染みてくる感覚があった。そのまま溶けてしまいそうだった。
ふと、りえの事が頭に浮かぶ。何故彼女はあの世界に連れて行かれ、あそこに住んでいるのか。そもそも何故ここに戻って来る方法を知っていながら、この世界に逃げ帰って来ないのか。記憶がが無いとはどういう事なのか。
「あいつが怪しいな。」
僕はあの男がこの事件に関与していると睨んだ。奴から話しを聞き出してやろう。よし、と勢いを付けて湯船に潜った。息が限界になりぷはー、という声とともに湯船から飛び上がった。頭がくらっとしたが、それに耐え風呂から上がった。
翌日、ラジオ体操に行き朝御飯を食べ、母を見送り僕は火葬場に向かう支度をした。ナップサックにお菓子とペットボトルのジュースを入れ、ズボンのポッケに水鉄砲と野球ボールを仕込ませた。
完璧だ、と格好付けて言い僕は家を出た。外は真夏日だった。激しく照りつける太陽の下、僕は自転車に跨り火葬場へ向け出発した。
火葬場に到着した。誰もいない。自転車を置き、あの変換室へ向かった。火葬場の空気はやはり重かった。暑さのせいか、ここが発する異様なプレッシャーのせいか、喉が渇いてきた。僕はナップサックからジュースを出し口に含んだ。
変換室に着くとまずあの男がいないか怯えながら覗き込んだ。いないようだ。安心して中へ入り、名探偵になりきり周りをよく探索した。その名探偵はりえがエレベーターを操作する時に使っていたディスプレイに目をやった。
そこには、第三十二実験世界変換室、と書かれていた。第三十二、実験、世界?意味を理解しようとはせず、とりあえずりえの真似をしてディスプレイを指で触れてみた。認証出来ません、と出てきた。これ以上はよそう。そう判断して、今度はエレベーターを調べる事にした。
これがいわゆる本物のエレベーターなら、上の階や下の階に繋がっているのだが、あいにくここには二階も無ければ地下もない。名探偵気取りの僕はどういう仕組みになってるのか、顎を摩りながらエレベーターを眺めていた。
すると、エレベーターは強く光り始めた。それが眩し過ぎて僕は思わず腕で目を覆った。光が収まった事を確認し、腕の隙間から恐る恐るエレベーターを覗いた。
そこにはあの男が一人で立っていた。