第12話
変わった容姿の人達にはあのゆめさんという老人のお陰で免疫が着いたのか、大分恐怖心は薄れていた。実際街の人達は僕達を見ても怒鳴ったり、襲って来たりはしない。別に怖がる必要はなかったのだ。
道中、彼女はこの街の事を地元を紹介するように楽しそうに話した。
「あそこはデパートで、あそこは花屋。あ、あそこのレストランは美味しいよ!」
そんな調子の良いガイドさんのお陰で、僕は目が回りそうだった。最初に来た建物の前に着くと、さっきまで楽しそうにしていた彼女は暗い顔になった。
「ここではね、人間について色々な研究をしてるの。頭のチップも、あなたの世界の事も。」
最後は聞き取れない程小さな声になり、聞き返そうとしたがその前に彼女が笑顔を見せたので辞めた。また会えるよね?変換室に入り僕がエレベーターの前に立つと彼女は寂しそうにそう聞いてきた。僕は、会えるよきっと、としっかりした口調で答えた。
元の世界に戻るとあたりはすっかり暗くなっていた。僕は帰りが遅くなった言い訳を考えながら自転車を漕いだ。友達と遊んでた。川で泳いでた。昆虫標本を作る為の昆虫を取っていた、それで道に迷った。よし、これだとアリバイを考え付いたところであるものが僕の目に入った。
そこは交番で指名手配された犯人の顔が並んでいる。それとは別に一枚顔の写真が載ったポスターがあった。僕はそのポスターを見て驚愕した。そこにはりえの顔が載っていた。行方不明、見かけたら連絡下さい。恐らくりえの親が書いたのだろう。手書きだった。
初めてりえと会った時見覚えがあったのは、このポスターのりえを無意識のうちに記憶していたからだった。僕が口を開けてポスターを見ていると、中から若い警察官が出てきた。
「どうしたの?迷子になった?」
僕は驚き、おはようございます、と大声で言ってとっさに自転車で逃げた。警察官は僕の方を見て目をパチパチさせている。犯罪を犯した訳ではないが、捕まんなくて良かった、と内心ホッとし、後ろを振り向き追っ手が来てないか確認した。見えたのは小さくなった交番と、その中にくるっと回って入って行く警察官だけだった。
僕は自転車を漕ぎながら、あのポスターを思い浮かべた。これは事件か?誘拐ってやつなのか?僕はアニメで聞いた言葉を頭で並べ、小学生なりに考えた。そして、その小学生は一つの決心した。
「りえを助ける。僕が一人で。」
ヒーロー映画の中で攫われたヒロインを助けに行くヒーローになった気分だった。そんな僕はヒーローになったつもりで残りの帰り道を全力で自転車を漕いだ。