第11話
「この時代での栄養補給はサプリメントで全部済ませられる、移動だって足を使わなくても乗り物があるから簡単じゃ。」
噛む必要がなくなってきた顎は徐々に小さく、歩いたり走ったりする必要がなくなってきた足は徐々に短く、どちらも退化していって今の容姿になったのだと言う。
未来では美味しい料理を食べたり、友達と走り回ったりしなくなるのかと僕は溜め息混じりに言った。
それを見た老人は、コーヒーならあるぞ、と高笑いをしまたコーヒーを啜った。もう一つ聞いてもいい?僕はそう言い、火葬場で見た事を話した。
死んだ人が消えた。口をしぼませながら老人は考えた。それから、分からん見間違いじゃろ、と言った。見間違いじゃないと思うんだけどな、と眉間にしわを寄せながら水を含んだ。カランコロン。
「ゆめさーん。」
ドアが開く音と一緒に元気な声が店に入って来た。りえだ。彼女は僕の方へ駆け寄って来て涙目になった。迷子になっていないか心配していたんだと言う。
「良かった、ちゃんとここみつけれたんだね!」
街の人に怯えて死ぬ程走り偶然ここに辿り着いたとは言わず、まぁねとだけ照れながら答えた。彼女はゆめさんにオレンジジュースを頼み僕の隣に座った。
ゆめさんが長い腕でオレンジジュースをりえの前に置いた。ありがとう、と言いオレンジジュースを飲む彼女を見て僕も水を飲んだ。
「やっぱりこの店が一番。」
とゆめさんを見ながらりえが言うと、老人はくしゃりと笑った。
オレンジジュースを半分程飲んでから彼女は話出した。
「私、昔の事あまり覚えていないの。ただこの世界にやって来たのはつい最近で、昔は私もゆうたくんと同じ世界に住んでいたって事だけはぼんやりわかるの。」
その話を僕は水の入ったコップに口を付けながら聞いていた。彼女の目はどこか遠くを見ていた。そんな彼女に僕はまた見惚れていた。可愛いな、心の中で言った言葉が聞こえたのか突然りえは僕の方を見た。僕は慌てて目をそらしコップを傾け水を飲んだ。
「家に帰らなくても大丈夫?」
心配そうに彼女は聞いた。すっかり忘れていた。もう帰らなきゃ、と立ち上がるがどう帰れるのかわからなかった。それをお見通しだったのか、りえが送ってあげる、と笑いながら言った。