第10話
「見ない顔だね。どこから来たんだい?」
腰を摩りながら放った老人の声は優しく耳に響き、不思議と僕の心を落ち着けた。容姿はまだ怖かったが老人の表情からは優しさが滲み出ているようだ。
落ち着いた僕は自分がこの世界の人間じゃない事と、この喫茶店に来たワケを話した。この老人は味方だ、と僕は安心した。
「なんだい、りえちゃんのお友達かい。そうかい、そうかい。」
どうやらりえも良くこの喫茶店に来るらしく、老人は彼女の事をよく知っていると言う。汗だくの僕を見た老人は一杯の水を出してくれた。僕はそれを勢い良く飲み干し、その後でありがとうと言った。
老人は空のコップにもう一度水を注ぎ、自分にはコーヒーを淹れ僕の座っている反対側に腰掛けた。
「ここの世界の人間じゃないと言ったね。君が住んでいる世界はどんな所なのかい?」
コーヒーを啜った後に僕にそう尋ねた。
「二千十九年の世界です。車は飛んでいないし、ロボットもそんなにいないです。」
「そうかい、君はそんな大昔から来たのか。今は三千四年じゃ。」
そう笑いながら老人は言った。僕もつられて笑った。それから老人はこの世界の事について話してくれた。
車が飛び始めたのはつい最近で、ロボットはもっと昔から街を歩いていたという。この喫茶店はわしの家族が代々受け継ぎ営んできた、このテーブルも椅子も良い感じじゃろ。自慢気に話す老人に、僕もこの店好きです、と元気良く言うと二人で笑い合った。
「気になってた事があるんですけど、どうしてこんなにも体の形が違うんですか?」
僕は学校の先生に答えを教わる時のように老人に尋ねた。んん、と唸った後老人は口を開いた。
「聞いた話しによるとな、六百年程前から人間の頭にはチップが埋め込まれるようになったんじゃ。そのお陰で人間は紙にものを書かなくても、口から言葉を出さなくても頭の中で会話出来るようになった。」
僕はりえとあの男がしていた会話を思い出した。あの途切れ途切れの会話はそう言う事だったのか。
「でもそのせいで昔より頭が大きくなったらしいがな。」
老人はまた長い手で照れながら頭を掻き回す。