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第1話

母が台所で朝御飯を作っている。僕はその包丁がまな板に心地よく当たる音、フライパンの上で油が跳ねる音で目が覚めた。

「ゆうた、朝だよ。」

僕は何か楽しい夢を見てた気がして思い出そうとしたが、無理だった。少し残念な気持ちを抱えたまま、寝室から出て台所を通り、そこで母におはようと言い、それからその先にあるトイレへ入った。魚と味噌汁の匂いが鼻に付いて来た。


僕は母と二人暮らしで、父は九州の方に単身赴任していて、年に一、二回は一緒に過ごす。十歳の僕にはあまりわからないが、コンピュータに携わる仕事をしてるらしい。母は美容師だ。おっとりしていて、四十手前にしては若く見られる。


僕は朝御飯を平らげると、皿を重ね台所に持って行った。偉いぞ、と満面の笑みで僕の頬を揉みくちゃにする。それを鬱陶しいと払いのけ学校へ行く準備に取り掛かった。


今日は火曜日だ。火曜日はいつもより一時限少なく、早く学校が終わる。その事を心の中で喜びながら、ランドセルを担いだ。行ってきます、と母一言かけ、行ってらっしゃいの声を背中で聞き、家の外へ出た。夏の太陽が朝だというのに忙しく輝いている。

「よぉ!おはよう!」

背後から大きな声とともに身体の大きな少年が現れた。たろうだ。彼は幼稚園からの仲で、いつも一緒だ。親友は誰かと聞かれれば、たろうかな、と答える。たろうは頭は少し悪いが、運動神経は良く発言力もあり、クラスのムードメーカー的な存在だ。

「今日で夏休みまで後八日!」

世界中の誰よりも夏休みを望んでいる、と言わんばかりの眩しい顔で空を見上げながらたろうは言った。そうだね、と僕も付け加えた。彼は今年の夏休みは家族でキャンプに行くんだ!と余程楽しみなのか7月に入ってからずっと言い続けている。お前はどこに行くんだよ?と彼は僕に訪ねてきたが、まだわからないと濁したところで学校に着いた。


教室に着いてからも、たろうは例のキャンプの話しを周りの生徒に向かってしている。それをまたかと思いながらも他の生徒は真面目に聞いてあげている。そんな姿を羨ましいと内心感じながら見ていた。


チャイムが鳴り、学校の終わりを迎えた。後七日だ、と喜んでいるたろうを横目に見ながら僕は下校した。

ただいま、と言いながらドアを開けると母の声がする。電話をしているようだ。

「そう、百歳近かったもんね。仕方がないよ。なら今晩行くね。」

声が震えて聞こえた。ただいまともう一度言いながら母のいる部屋へ入った。やはり、母は泣いていた。

「タエばあちゃん、死んじゃったんだって。」

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