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tinkerの聴取記録

作者: LE-389

「まず、あなたの役職を述べてください」


「所属や個体名は?」


「必要ありません。それらは記録しない情報に指定されています」


「『tinker』だ」


「『ヒト』の軍事組織における、類似する役割は分かりますか」


「『衛生兵』だと聞いている」


「では、問題の戦闘におけるあなたの行動を述べてください」


「一点を除いてそれ以前と違いはない。scavengerが回収した同胞を修復していた。ただ一つの違いは、それが新たな同盟者である『ヒト』との、初めての共同戦闘だったということだ。この戦闘では『ヒト』の修復も手がけた」


「その修復に関して、事前に教育を受けていましたか?」


「私は受けていた。当日同じworkshopにいたtinkerの中には、他にも何体かいたはずだ。我々と『ヒト』の構造は大きく異なる。適切な手段についての知識がなければ、『ヒト』の修復はできない」


「では、あなたは修復をどのような手段で行いましたか?」


「それは、当日の全ての記録を口述せよということか?」


「いいえ。個々の事例を挙げる形でお願いします」


「基本は我々と変わらない。軽微な損傷なら、『ヒト』から供給された充填剤や接着剤を使った。表面の穴を塞ぎ、抉れた内部を補ってしまえば、そのまま戦闘を続行できる」

「より重い損傷なら、部位を丸ごと交換した。機能を失った箇所を丸ごと切り離し、彼らから供給された予備パーツを取り付ける。交換の後に慣らしが必要で時間はかかるが、十分な能力を取り戻せる処置だ」

「それ以外は……、修復用の物資が欠乏したので、能力の回復よりも生存を優先するように処置を切り替える、という事があった」


「……その場合は、どのような処置を?」


「『不可逆的機能停止』、彼らの言う『死亡』さえしなければ詳細な手段は問わないとの事なので、欠損部の形を整え循環液が漏洩しない状態にした」

「また、戦闘能力を回復させられた場合もあった。『複数体を一体へ統合する処置』の結果だ」


「それは、具体的にどのような処置ですか?」


「破損箇所を取り除かれた者の中で、無事な箇所が重複しない者同士を一体にまとめる。支給された接着剤さえ残っていれば、異なる個体同士の部品でも互換性を保てるからだ。あれだけは量に余裕があった」


「事前の教育で規定された処置では、ありませんね」


「だが、ネガティブリストにある行為でも無いぞ。このような場合を想定して、彼らの構造に関する知識と裁量権が我々に与えられたはずだ。……まどろっこしいやり取りは、もういい。この処置に問題があったのは知っている。それは一体、どの部分だ?」


「その前に、もう一つだけ質問に答えてください。あなたの手によってこの処置を受けた者は、どのような反応を示しましたか?」


「我々の場合と、重度損傷から回復させた者と違いは無い。装備を受領し、再度戦線へ復帰していった。多少、記憶の混濁があったくらいか」


「そこに我々と差はない、と。これは意外だ」


「何?」


「あなたの質問は、『この処置のどこに問題があったか』でしたね。……彼らは『複数個体を一体へ統合できる技術』を持ってはいても、それを実行した事がなかったのですよ。そして我々にも、実行させる気はなかった」


「なら何故、それを可能にする知識を教えた? するなと伝えなかった?」


「我々も彼らも、お互いの事を知らなかったようです。『複数個体を一体へ統合できる技術』も、ひとつひとつの要素は別の処置に使用するもの、だったそうで。そう教えられているはずですよね?」


「ああ。知識を応用して『可能な限り戦力を維持し、死亡する者を減らせ』と指示されたから、統合も実行した」


「我々にとって、『個体の統合』は当たり前のことだと『ヒト』は知らなかった。おそらく、実行するとは思っていなかったのでしょう。」


「詳しいことを聞いちゃいないが、『ヒト』はこの件をどう捉えているんだ」


「理性と感情に食い違いが生まれています。この事件が起こってしまった原因は、我々だけの落ち度ではないと理解している。しかし、複数の『ヒト』を結合したという行為への嫌悪は、抑えきれない」


「だから、この記録を取っていると。……今回の件は、敵対へと繋がるだろうか」


「短期的には無いでしょう。結合されたヒトの扱いをどうするかというルールの整備や、我々がどういう存在かの周知が始まっています。それに応えて我々も、ヒトをより知ろうと努めていく。そんな相互理解の先に、決定的な断裂があるか。我々には予測できません。『双方をよく理解した第三者』が居たとしても、それは難しいでしょう」


「やれる事をやるしか無い、か」


「……記録を終了します」

tinker:修繕する,(修繕のつもりで)下手にいじくり回す

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― 新着の感想 ―
[良い点] 価値観という難しいジャンルに真っ向から挑んでおられるところ、どちらか一方が悪いというのではなく、あくまで中間的な視点に立った点 [気になる点] LE-389先生にしては、毒が足りないとも感…
2020/11/22 11:29 退会済み
管理
[良い点] 常識の違う者同士の相互理解って大変ですね。 悪意がないからこそ怖い部分もあります。 キーワードに「サイコホラー」があっても良い気がしますが、ネタバレになっちゃいますかね? 面白かったです。…
[良い点] 種族による価値観の違いゆえの軋轢。 聴取記録という淡々とした事務作業の中で少しずつ明らかになっていくところ、流石です。 色んな想像をさせてくれつつ、聴取としての作品はこれで終わり。そこも…
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