跳梁跋扈
胸糞パート。
心が荒む~……。
ジェニファー一行→拠点に食料を運び込み、弾薬などの物資も補充。生き残りを保護しようと画策。
トニー達→落ち着きを取り戻したジョン。悲しい気持ちが思い出される家を出て別の拠点を探しに。
→ゴードン&ビリー→シナリオ進行中
「はあ……はあ……」
女は逃げていた。
徐々に日が傾き、視界が悪くなる。
街の灯りが灯り始める時間。
灯りは夜目が効かない生物の助けとなる大切なもの。
でも、今追って来ているのは目を必要としていない。
ピット機関とよばれる部分を使い、体温を判別して獲物を狙う狩人。
それは唐突に現れた。
生き残った者たちで隠れていたスーパー。
ゾンビからの襲撃を防ぐバリケードを構築し、油断していたところを頭上から狙われた。
いや、アレは初めからそこに居たのだろう。
塒に食料が大勢で現れただけなんだろう。
――巨大な蛇。
身を寄せ合っていた仲間は全て腹に納められた。
膨らんだ腹はモゴモゴと蠢いている。
中がどうなっているのかは想像したくない。
立ち止まれば蛇の中。
周囲からはゾンビの群れ。
必然大きな通りは通過できずに路地に入り、結果として
「行き止まり……」
振り返れば獲物を追い詰めた余裕なのか、鎌首をもたげて舌を出す巨大蛇。
腹はもう動いていない。
中に居た人は既に絶命したのだろう。
これから彼女はそこに納められ、先に放り込まれた者たちと同じ末路を辿るほかない。
「は……はは……」
自然と乾いた笑いが漏れる。
もう終わりだ。
そう思って静かに目を閉じて最後の瞬間を待つ。
願わくば苦しまないようにしてほしい。
蛇はゆっくりと顔を近づけてその大きな口を開く。
血と胃液が混ざった生臭い臭いが鼻を衝く。
「おい、女。こっちを向け」
唐突に声がかけられて驚いたが、即座に正気に戻り声の方を見る。
行き止まりだと思っていた場所の一部が開いていて、男が二人立っていた。
見えなかったが扉があったようだ。
「これはこれは……なかなか素敵な生物に追いかけられてますねぇ」
飄々とした雰囲気でそう言いながら手に持ったショットガンを蛇の顔に向けて放つ細身の眼鏡の男。
「おや? 吹き飛びませんか。随分と硬いですね」
慌てた様子もなく、コッキングしては撃つを繰り返す男。
流石に何度も銃弾を浴びれば嫌になるのか、蛇は女から少しだけ距離を取る。
「腰でも抜けてんのか? おら、とっとと来い!」
口調は乱暴だが、もう一人の頭部に刺青をしたスキンヘッドの大柄な男が女の腕を掴み、強引に立たせて扉の中へと引きずり込む。
「残念でしたね、見ればたくさん食事なさったようですし……一食くらい抜いてもいいんじゃないですか?」
いつの間にかショットガンからライフルに持ち替えていた男が軽口をたたきながら蛇に発砲する。
弾丸は偶然にも目に当たったようで、突然訪れた痛みに蛇はもがき、のたうち回った。
「さ、今のうちに逃げましょうかゴードンさん」
「医者にしとくのが勿体ねぇ腕だなビリー。女、逃げんぞ」
「え? あ、はい」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ここは?」
「ここは私たちが塒にさせていただいている場所ですよ」
扉は精肉店の裏口だったようだ。
そこを抜けてバリケードで固められた通路といくつかの家を通り、そこを抜けた先にゴードンたちの拠点はあった。
――ゲーティア美術館。
そこの二階にある職員の部屋を改装(というほど凝ってはいないが)して使っているようだ。
出入りは二階から。
入り口は固められ、入れないようになっている。
脚立を使い木の上へ移動し、そこから二階の窓に伸びている板を使って中に入る。
これならば仮に大挙して押し寄せられても入り口からは侵入できない。
入り口に繋がっている木は、さらに隣の木にも板が渡され、そちらの方はほかの建物に繋がっていた。
「すごい……」
「慣れれば逃げ出すのも容易ですからね」
「なんで美術館なんですか?」
「俺の趣味だ」
スキンヘッドの厳つい方が答えた。
普通逆じゃないのか? と女は考えたが、人は見かけによらないので何も言わなかった。
ゴードンはカセットコンロ二台を使い、食事を作る。
一体どこから調達してきたのか食材は日持ちするものから日持ちのしないモノ、保存食に至るまで完備されており、三人で居たとしても一週間は取りに行かずとも過ごせる量が確保されていた。
「本当に見かけによらないですよね、ゴードンさんは」
「ほっとけ」
「……おいしい」
女はなんだか負けたような気分になった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
美術館に来てから数日。
女は風呂こそないものの、概ね不満のない生活を送っていた。
気になる事と言えばゴードンが一日一回は必ず一階に行って何かをしているという事だけ。
ビリーはビリーで何をしているのか一日に一回のペースで外へ出る。
女は養われている状況がいたたまれず、自分に出来ることは無いかと尋ねたが、特に無いから適当に過ごしておけばいいと雑誌等の書籍を渡された。
一週間がたった。
その日はゴードンに呼ばれ、一階の大広間に来ていた。
目の前には大きな何かがある。
幕が掛かっているのでそれが何かは確認できないが、ゴードンによれば彼が作った作品らしい。
こんな状況でも趣味を見失わないほど心に余裕がある彼を女は頼もしく思っていた。
ゴードンは完成間近だが、あと一つの手を加えることで完成するから見て欲しいとのことだった。
御開帳前にビリーが飲み物をくれる。
世界がゾンビに汚染されてからこんなに穏やかに過ごせたのは彼らのおかげに他ならない。
二人に感謝して女は飲み物を口にして、そこで世界が暗転した……。
「う……うう……」
「気分はどうですか?」
「あれ? 私……いったい……え? これは何なの?」
女は手足を縛られて床に転がされていた。
まったく状況がつかめない。
混乱しているとビリーは女の前にピンク色の肉の塊を差し出して来た。
「これ、何かわかります?」
「わからないわ……ねえ、ビリーさん。冗談はやめてください」
「く……くくく……くははははは!」
「ど、どうしたんですか……? いきなり笑いだして……」
「いやぁ、本当に心の底から私たちを信頼してくださったんですねぇ……くくく」
「え? え?」
状況が一切つかめない。
「ビリー・ディランス」
「え……?」
「聞き覚えありませんか? ビリー・ディランス」
女にその名前は聞き覚えがあった。
むしろ女性だったからこそ聞き覚えがあったともいえる。
外科という仕事をしていながら陰では女性を辱めて殺すシリアルキラー。
「捕まったはずじゃ……」
「出てきたんですよ、拘置所がゾンビに襲撃されましてね? まあ、普通は出てこれませんよねぇ……懲役300年なんて」
新聞でもテレビでも彼の顔は見たことがある。
なぜ今まで気づかなかったのだろうと女は激しく後悔した。
「ああ、それで、もう一度聞きますね。私がビリー・ディランスだと知った今ならわかるでしょう? コレ」
ビリーの手口は有名だった。
しかし、その手口を認めるという事は。
「そ、それは……」
「ご明察! そう、貴方のですよ!」
「や……やあ……返して……返してよぉ!!」
「くははははは! いい! いいですよその表情!! まだ使ってもいないのにイってしまいそうですよぉ!」
そして、見せつけるように自分のを露出させ、彼女のをあてがう。
泣き叫ぶ声が美術館にこだました。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「いいご趣味だな、センセー」
「ええ、久々に楽しませていただきました」
「しかし、悪いな。締めを譲ってもらって」
「いえいえ、貴方もゾンビばかりでは飽きてくるでしょうから」
「すまねぇな、おら起きろ」
「あ……ああ……嫌……いやぁ……」
女は虚ろな目をして魘されながら目を覚ます。
「お前さんに俺の傑作を拝ませてやるからな」
そう言ってゴードンは幕を外す。
そこには絵画のように様々なパーツに別れ、蠢くゾンビたちが居た。
「ひ……」
彼女はもう一人の男を思い出した。
――ゴードン・ハーディ
世間を恐怖に陥れたマッドアーティストの存在を。
「コイツは未完成でな、あと一つのパーツで完成するのよ」
その言葉を聞いて女はゾンビ絵画の天辺に人ひとり分のスペースが空いている事に気づく。
「やだ……やめて……やめてよぉ……」
ここにきてあの巨大蛇に食われていた方が万倍マシだったという事を理解した。
「さて、動くなよ? 手元が狂えば苦しいだけだからな」
ゴードンはどこから持ってきたのか分からないほど大きな鉈を振りかぶる。
「やあ! やめげぇあ!」
女は背中側から腹にかけて斜めに切り落とされた。
「あ、ああああ! あああああ!!」
ショック死しなかったのが彼女にとって不運だっただろう。
いや、ゴードンたちに出会ってしまった段階で最高に不運だった。
「綺麗にいったなぁ」
「しかし、最初はもてなすって言った時は何を言っているのかと思いましたが……思いの外よかったですね」
「上げて落としたときの絶望の表情がいい作品になるんだよ」
「私もいつもより興奮してしまいましたよ」
「ははは! センセー楽しそうだったもんな」
「癖になりそうでしたよ?」
「よし、完成だ」
「防腐処理の手際が素晴らしいですね」
「作品は長く残したいからな」
「よくこれだけのゾンビをバラシて貼り付けられましたね」
「なんどか噛まれそうになったがな」
「私に芸術は分かりませんが……これはいいですねぇ」
「お? わかってくれるかい?」
「ええ、あの女性……ああ、名前聞いてなかったですね。あの苦悶と絶望の死に顔を見ていたらまた勃起ってきましたよ」
「ふは! イカレてんな」
「貴方こそ」
「「はははははは!」」
――作品名「地獄の楽園」
中心部分の天辺に添えられた絶望と苦悶の表情を浮かべる女性を囲み、縋るように手を伸ばす亡者をイメージしたもの。
亡者は必死に地獄の女神に手を伸ばして捕まえようとうめき声を上げる。
すみわけが出来始めた気がします。
ジェニファー=ほのぼのパート
トニー=シリアスパート
ゴードン=胸糞パート
次回はジェニファーの予定。
お付き合いありがとうございました。