邂逅
お待たせしました。
四文字思い浮かばなかった。
「くそ、拙いな……」
「これは車捨てて一旦街中に潜む方がいいかな」
レナードたちは街を抜けるために車を走らせていたのだが、現在は立ち往生していた。
抜ける道はいくつかあったのだが、一番ちかい場所から抜けようとしたのが失敗だった。
「この非常時に検問とか……軍の奴らは何やってんだ……」
「ホントにね……」
噛まれた人物が避難先に入ればそこも死地と化してしまうのを危惧しての検問だった。
誰かが情報をもたらしたのだろう。
かなり素早い対応だったのだが、レナードたちはそれを知らない。
「早くしないと犠牲者が増えるぞ……」
「一応後ろで抑えてくれてるみたいだけどね」
「時間かければ増えてヤバくなるのにな……」
本来であれば彼らも非常時という事で駆り出されるはずなのだが、あまりの人の多さに大したチェックをすることなく車を通していたために一般の人に紛れ込む形になっている。
車のデザインも全然違うのに一体何をしているのだろうか。
「……あの……」
「何、クリスくん」
「何か聞こえません? あと地面から何か震動が来るんですが……」
「そう?」
「何も感じないぞ? どっから何が聞こえる?」
「えと、後ろの方から何か大声で喋ってるような」
「「後ろ?」」
クリスに言われて振り返った二人は違和感を感じた。
遥か後方でゾンビを抑えていた軍の人たちがあわただしくしているのが見えたのだ。
「なんか慌ててない?」
「そうだな……な!?」
「どうしたんですかレナードさん……え?」
「なにあの状況……」
必死に何かと戦う軍の人々。
それが突如銃を取り落とし、後ろに駆け出した瞬間吹き飛ばされるように宙を舞った。
「人が……飛んでる……だと?」
「なんかヤバげな雰囲気?」
「何か近づいてきますよ!」
車を蹴散らし、人を弾き飛ばしながら悠然と現れたソレは体長3Mはあろうかとういう巨大なゴリラだった。
ソイツはゆっくりと足元の車を踏み潰し、手で払い、こちらへと進んでくる。
「なあジェニファー。キング〇ングって本当に居たんだな」
「馬鹿の事言ってないで早く車から降りるわよ! このままなら車ごと潰されるわ! クリスくん、コレ持って」
「は、はい! でも降りてどこに行けばいいんですか!?」
「あっちの路地よ! あそこなら万一でもアイツは入ってこれない幅しかないだろうから! ほらレナードもとっとと武器もって!」
「お、おう!」
三人は勢いよく車を飛び出し、横合いの路地を目指して駆ける。
レナードは何げなくチラリと検問の方に目を向けるとそこには戦車の姿があった
「おいおい、どこに用意してあったんだよあれ」
「なによ……はあ? ちょ、馬鹿じゃないの? まだ生存者が居るってのにこっちに砲身向けてるわよ!?」
「狙いは間違いなくゴリラだろうが、こっちの事はお構いなしかよって、マジで撃つ気かよ! お前ら跳べ!!」
「へ? え? あ、ジェニファーさん?」
「世話が焼けるわねクリスくんは!」
ジェニファーはクリスを抱えて彼の頭を守りながら器用に前方に跳躍した。
遅れてレナードも跳び、転がり込むように路地に入るとほぼ同時にドッ! という衝突音、そして衝撃波と砲弾の破裂による爆音が鳴り響く。
「きゃあ!」
「いっ、耳が!」
「……マジかよ……あのゴリ、ピンピンしてるぞ」
レナードの言葉にジェニファー達も確認してみると、なるほど、ほんのり毛皮が煤けてはいるがまったくダメージはなさそうだ。
「お、怒ってる?」
「それも激おこって奴ね」
「間違っても対峙したくねえな……うお!」
怒り心頭で戦車に向かうゴリラが弾いた車に危うくぶつかりそうになったレナード。
あともう少し頭を出していたら今頃柘榴のようになっていただろう。
「あ、あぶね~」
「ちっ」
「ジェニファー、今舌打ちしたろ」
「いいえ」
「……おぼえてろよ」
「うわ~……見る見るうちに戦車が破壊されて……あ、人が捕まった……あ、ああ……」
「クリスくん!」
軍の様子を眺めていたクリスの様子が変わった事に気づいたジェニファーは即座に彼の目を塞ぎ、頭を抱きかかえるように引き寄せてなだめ始めた。
彼は見てしまった。
軍の精鋭たちが巨大なゴリラに捕まれ、割かれ、潰され、食われる様を。
一瞬とはいえ目にしてしまった。
今は考えないようにしていた大学での出来事も相まってカタカタと震えている。
「こりゃヒデェ……とりあえず落ち着けるところ探すか」
「そうね。大丈夫、大丈夫だよクリスくん」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「やっと一息つけるな」
「鍵が開いていて幸いだったわね」
三人はとある民家に目星をつけた。
クリスは未だに震えて動けないのでジェニファーが背負っている。
ゴリラが出た場所からはそう遠くない。
「とりあえず食い物探してくるわ、坊主たのんだ」
「そうね、クリスくんはとりあえずそこのソファに寝かせ「動くな!」」
クリスを落ち着かせようとしたジェニファーの頭部に銃口が突き付けられた。
「な!?」
「銃をおいて手を上げろ」
レナードは渋々だが、逆らって相手を逆上させるのは得策ではない。
ここは大人しく従って相手の警戒を解く方が結果が良くなると判断した。
ゾンビの脅威に晒されている今、人間同士で争うのは愚の骨頂なのだ。
「ちょっと、ジャックス」
「おい、俺の名前をばらすな! ったく……おい」
「なんだ」
「そこのガキ、噛まれたのか?」
「いや、恐怖でフラッシュバックを起こしてるだけだ」
「ちょっと、かわいそうじゃない! ジャックス!!」
「おいおい……俺が悪者かよ……あーもう! わかったよ、悪かったなアンタら。俺はジャックス・テイラーだ」
「いや、この状況なら正しいと言えるだろう。俺はレナード・グレイブだ」
「私はジェニファー・ロウウェル。この子はクリス・ロンド」
「アタシはサンドラ・ルイスよ、よろしく」
それぞれ自己紹介を終え、クリスを休ませたあと四人は状況のすり合わせを行った。
レナードたちが署を逃げた後、それこそ爆発的に街中にゾンビが広がり、今は死の街と化しつつあるそうだ。
「天然痘も真っ青な感染速度ね……」
「致死率はエボラ以上とかふざけてるな」
ジェニファーやレナードの意見も尤もである。
ただ、感染経路は噛まれる事一点なので噛みつかれなければどうということは無い。
とはいえ、ここまで増えてしまえばもはや数の暴力で瞬く間に仲間入りだろうから脅威であることは変わりなく、そもそもの原因も未知のウィルスっぽいとしかわからないので厄介極まりない。
「あれも感染してたのかしら?」
「ああ、あのゴリか?」
「そう」
「「ゴリ?」」
「ここに逃げてくる前に出会った巨大なゴリラだ。まさにキング〇ングって感じだったな」
ジャックス達に先ほどの出来事を説明するレナード。
二人は神妙な顔で話を聞いていた。
「戦車でも勝てないとか……絶対に出会ったら逃げるな。な、サンドラ……サンドラ?」
サンドラはゴリラの話をきき、何かに耐えるように頭を抱えている。
「ゴリラ……巨大な……そう言えば病院のも見た事が……痛っ! 」
「サンドラ、大丈夫か?」
「ジャックス、もしかしてサンドラは?」
「ああ、記憶喪失らしい。名前以外……いや、名前すら憶えていなかったそうだ」
その後、頭痛から回復したサンドラは病院であったブギーマン(仮)の事を話す。
新たな化け物の話にレナードたちは驚いていた。
「巨大なハルバードを携えた大男か……」
「見た感じ頭は良くなかった、鍵のかかってないドアを破壊して入ってこようとしてたから」
「話しだけだとゴリの方が賢そうね……」
「考えても仕方ない、とりあえず今日は休もう。ところで、俺たちは街を出て人が少ないところに拠点を作ろうと思っているんだが……一緒に来るか?」
「アタシは目的なんて無いからジャックスの好きにするといいわ」
「なんで俺なんだよ」
「いいじゃない、アタシはアンタに命を救われた。ならか弱いアタシは守ってもらうのが得策よ?」
「……お前ら付き合ってんのか?」
「「いや?」」
「息ぴったりね……で、どうするの?」
ジャックスは少しだけ悩んでは見たが、自分もサンドラと同じく特に目的がなかったのでついて行こうと決めた。
それに、記者としての勘なのかこのメンバーについて行くことでこの事件の真相に近づける気もしたのだ。
「俺も協力しよう、サンドラもいいんだな?」
「ええ、協力すれば一人でいるより寂しくないし心強いわ」
あの病院での出来事は相当寂しかったと見える。
出なければ第一街人発見といってうっかりゾンビに話しかけたりしなかっただろうから。
「そのうち記憶も戻ると思うし、アンタたちと居たら戻りそうな気がするし」
「サンドラは強いな」
「アタシは弱いわ」
「ねえ、やっぱり貴方達付き合ってるでしょ?」
「「いや?」」
「はあ……もういい、とりあえず寝るぞ。ジェニファー、明日坊主に説明頼むな」
「りょーかい、面倒はすぐ押し付けるんだから……鈍感だし」
「何か言ったか?」
「いーえ、何も」
「(もどかしいな)」
「(ジェニファーのレナードに対する視線や態度でバレバレなのにね)」
街はゾンビだらけ。
さらに得体のしれない化け物の出現。
こうやって軽口をたたくのは不安の表れだろう。
誰彼ともそのことは口にしようとしない。
それは務めて明るく、ネガティブな発言を避けているように思える。
朝起きたら囲まれてるかもしれない。
夜中に化け物の癇癪に巻き込まれて死ぬかもしれない。
考えれば不安要素はどんどん溢れてくるから。
皆、どことなく緊張した面持ちのなか、今日が終わり明日が来る。
お目汚し失礼しました。
ブックマーク、評価感謝です。
サンドラが出るとコメディ色が少し強くなるなぁ。
好き。




