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表裏一体

お待たせしました。

徐々に役者がそろってきてます。

ゾンビ成分より猟奇成分の方が強いかも。

どうぞお楽しみください。

少女は怯えていた。

今もドンドンと部屋の扉は叩かれている。

以前、少女が荒れていたときにつけてあった鍵が頼りなくもあり頼もしくもある。


首からいつも下げている祖父母からもらった大切なロザリオを祈るようにそっと胸元で握りしめる。

彼女はロザリオを渡されたときに言われた言葉を思い出していた。


『もし、儂らがお前を守ることが出来なくなった時はそのロザリオを首から外して祈りなさい。そうすればきっと天使が助けてくれるよ』


『わかった、おじいちゃん』


最後に残った心のよりどころに縋る少女の心は次第に闇に飲まれていった。


少女の名前はミーナ、18歳。

彼女は二人兄弟の四人家族だったが、両親と弟は三年前に他界している。

彼女が友人宅から帰ると家は惨状と化しており、リビングには性器が繋がった状態で抱き合うように縫い付けられ、天井から吊るされた両親の遺体があった。

一緒に居た筈の10歳の弟の姿はどこにも無く、また、一人でどこかに出かけたという姿も見られなかった。

警察も不審に思い、行方不明として捜索を出そうかと思っていたとき、弟は意外な場所から発見された。

縫い付けられていた両親の腹部が抉られており、弟はその抉られた腹部にバラバラにされて収められていたのだ。

その口にはラミネートされ「愛の結晶」と書かれたメモが入っていた。


巷で恐れられている「マッドアーティスト」の仕業だった。

彼は作品を作る上で、誰に一番見せたいかを考えて殺害に及ぶ。

この哀れな少女ミーナはその閲覧者に選ばれてしまったのだ。


その後の彼女の記憶は定かではない。

祖父母が引き取りそのことを刺激せぬように、それでいながらもしっかりと愛情をこめて心のケアに努めた。

初めは誰彼構わず暴力をふるっていたミーナも敬虔なキリスト教徒である祖父母に見守られ、次第に落ち着きを取り戻し、18になるころには彼女自身も祖父母からもらったロザリオを大切にし、祈りを捧げるようになった。


しかし、それは脆くも崩れ去る事となる。

ある日、日課である散歩から帰ってきた祖父は怪我をしており、血にまみれていた。

なんとか家の前にたどり着いたところで絶命し、祖母は抱き起して悲しんだ。

ミーナも何が起きたかわからず、ただただ優しい祖父が死んでしまった事に心を痛めた。


二人が亡くなってしまった祖父に祈りを捧げた時、確実に死んでいたはずの祖父が身体を起こした。

そして、一番近くにいた祖母に食らいつき、貪り始めたのだ。

ミーナは目の前の光景に茫然としていたが、ハッとして後ずさる。

ひとしきり食事を終えた祖父が立ち上がりこちらを見た。


――祖父の亡骸に悪魔が憑りついた。


ゆっくりとミーナに近づく祖父から逃れるために家の中へと逃げ込んだ。

本気で逃げたいのなら逆に外へ向かう方が正しいのだが、その時は家の中の方が安全に思えたのだろう。

祖父の伸ばした手がミーナの首に触れる直前で彼女は何とか自分の部屋に逃げ込み鍵をかけることが出来たのだ。


(怖い、怖い、助けて、お願い、神様)


心の中を絶望という闇が支配し続ける中、彼女は必死に神へ助けを求めていた。

果たして、祈りは届いたのか彼女の頭にメッセージが響く。


『大丈夫か?』


自分を心配するその声は、どこか懐かしくてかつての父親を思い出させるようなものだった。


『……状況は分かった。ちょっとまってろ、今そっちに行って助けてやる』


ミーナはなぜかわからないが、その言葉を聞いて安心し、気絶するように意識を手放した。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



ほんの少し、時間にして数秒にも満たない後にミーナだった少女は目を開ける。


(さてっと……悪魔憑きっつーかありゃ化けモンだな……倒す方法は不明、扉は間もなく壊れそう、武器になるようなものは椅子くらいか……助けるって言った手前やるしかないが、状況は絶望的だな)


ぐるりと部屋を見渡し今の状況を分析する()

彼の名はイースレイ、家族惨殺事件の後ミーナが周囲に手が付けられないほど荒れていたと思わせた原因(・・)だ。

15歳だった彼女にとって家族の死は抗いがたい精神的苦痛を及ぼした。

普通の死ならばまだいい。

それが、もてあそばれて「作品」となった死体だったのが拍車をかけた。

彼は彼女が生み出した精神的苦痛から逃れるための防衛機構。

もう一つの人格。


生まれた彼の目的は「ミーナを全ての苦痛から守る」だった。

それゆえに当時は目に映る人物が全員敵に見えたために暴れたのだ。


彼の存在を彼女は知らない、朧気に兄のように頼もしい存在が守ってくれていると思い込んでいる。

今は神が遣わした天使だと信じている。

それでいい。

自分は本来いてはいけないモノなのだとイースレイ本人は自覚している。

祖父母が愛情をもってミーナに接し、守ってくれていたからこそ彼はなりを潜めた。

もう二度と出てくるつもりもなかった。

彼女が、ミーナが幸せになれるなら自分は必要ないと。

それが今、再び表に出なければいけない事態が起きている。


(二階に逃げたのは痛てえな……。ん? そうか、直接戦おうとするから拙いのか)


あくまでも身体能力は少女のソレ。

彼はなんとか扉が破られる前にベッドを移動し、バリケード代わりにすることに成功する。


(さて、これで破られても即座に入ってくることが無くなった。その間にやれることは……椅子よりコイツのが使えるか)


ベッドをずらしたときに目についた電気スタンド。

それを台座から取り外して槍のように構える。


(台座ごと重量で振り回してもいいが……オレの筋力じゃ隙がデカい。万が一一撃で殺せなかった時には危険だ)


狙うは目や口などの貫きやすい部分。

ミーナの記憶から見るに動き自体は大して早くもない。

ならば勝算は十分すぎるほどにある。

そうして彼は扉が破られるのをひたすらに待った。


そして、待ち望んでいた状況は訪れる。

鍵が破壊され、扉が開く。

ベッドが完全に開くのを阻み、祖父は頭と左手のみを部屋に入れる形でこちらに手を伸ばしている。


「じいさん、ミーナを今まで守ってくれてありがとな」


口を開け、必死に手を伸ばしている祖父の口内目掛けて武器を突き出すイースレイ。

人間だったならば目の前に差し迫る脅威を回避するだろうがゾンビとなってはそんなこともあり得ない。

全体重を乗せたイースレイの刺突は祖父に容易く突き刺さる。


「ふん!」


貫いただけでは安心できない。

なにせ一度死んだ者が起き上がってきているのだから。

イースレイは頭の中をかき回すように武器をこねる。

ガボガボと嫌な音が耳に届くがそんなことは構っていられない。

やがて、伸ばしていた腕をだらりと下げて祖父は全身の力を抜き、うなだれた。

口から大きく開けられた穴からはどろりとした粘液が滴っている。


「まったく、しぶといにも程があるだろ……じいさんは散歩にいって何かに襲われてこうなったんだよな? はあ……外にもこんなのがうろついてるのか……とりあえず誰かに保護されるまではオレが何とかするしかないか……」


ゾンビとなった祖父を殺し、一息ついた後落ちているロザリオを拾い上げて彼はポケットにねじ込んだ。

このロザリオは先の説明の通り祖父母からもらった大切なもの。

いわばミーナにとっての最後のよりどころだ。


祖父母の愛に包まれ、神への信心があったからこそ保たれていた平穏。

しかし、これはミーナを必ず守るとイースレイと約束してくれた祖父が残した鍵でもあった。

このロザリオを首から下げている間はミーナの心が守られているので彼は意識の底に沈むのだ。

これを外すときは何らかの状況によって祖父母がミーナを守れなくなったという事に他ならない。


(じいさん、アンタとの約束通りオレはまたミーナを守る。だからゆっくり休め)


祖父母がイースレイと交わした約束。

それはミーナを守る事、ただそれだけ。

しかし、人間60を過ぎればいつ迎えが来てもおかしくない。

寿命がむかしよりも伸びているとはいえ、突然事故に遭ってしまう事だってありうる。

だからイースレイは逆に祖父母ともう一つ約束を交わした。

ミーナが幸せを掴む前に逝ってしまった時は再び表に出る事。


何事もなければきっとミーナは20歳になり、恋をして家庭を築いていたかもしれない。

親兄弟の代わりに晴れ姿を見て祖父母は涙していたかもしれない。

だが、それはもう一生叶う事は無いのだ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



(ちっ、ここにも居やがる……一体見たら百は居ると思わねえとな……)


まるで黒光りする足の速いアレのような扱いだが、そう思われても仕方ないのかもしれない。

奴らは今なお生者を襲い、その数を増やしているのだから。


(くそ、飯は酒好きだったじいさんのジャーキーがあったから少しはもつが……この調子で居たら無くなるな)


あんなスプラッタな事をしておいてよく肉が食えるなと思う。

だが、そう言った心の機微は彼には無縁のものだ。

ジャーキーを食みつつ薄暗い路地のその場から動くことが出来ないかった。


(とりあえずは水だな……)


ミーナはそれほど運動が得意という訳ではない。

その身体を使っているイースレイもまた、体力は少ない。

なので水分は重要だがそれほど多く持っては来れなかった。


(何とか水を手に入れないとな、まあイザとなればどっかの家に転がり込めばいい話なんだが……っ!? しまった!!)


考え事をしていたのが仇となったのか、足元の空き缶を蹴飛ばしてしまったイースレイ。

音を聞きつけて前後からゾンビが発生源を確かめるべく歩いてくる。

隠れる場所もあり、薄暗いので見つかりにくいと路地裏を選んだのが失敗だと歯噛みする。


(ちっ、このままだと見つかるのも時間の問題だ。どうする?)


周囲に何か使えそうなものは無いかと見回すとやや上の方に避難用の梯子があるのが目に留まる。

しかし、側にあるゴミ箱から飛んだとしても微妙に届かない。

何とかして下ろす必要がある


(なにか手段は……そうだ! 届かないなら届かせればいい)


イースレイは急いで着ているものを脱ぎ、合わせることで長さを作る。

続いてジーンズの裾の部分を縛り、その中に落ちていた石を詰めて梯子に向かい投げつける。

狙い通りに引っかけることに成功した。

石の重さを使いながら左右の長さを揃え、体重をかけて下に引くとすこし錆びて重たかったが梯子は降りてきた。


(よし、これで!)


梯子を下ろしたときに鳴った音で初めに向かってきたゾンビはこちらの存在に気づき、遠巻きに居たのも音を聞きつけて集まりだした。

イースレイは使った衣服を外して即座に梯子の上に昇り、再び引き上げる。

間一髪で梯子に手がかかる前に上げることができ、そこでやっと安堵した。


(はあ……すこし服が伸びちまったか……ここの家でかっぱらうかな……あと、いつまでも下着姿のままって言うのもミーナに悪い。とっとと着よう)


「なんの音だ!?」


「わぁ!」


頭上から突如声がしてイースレイは驚いた。


「な!? 下着姿の……女の子?」


「おい、アイツらが来たんじゃ……トニー、お前……」


「ち、違う! この子が下着姿なのは私のせいじゃない!!」


「じゃあなんでこの子は下着姿なんだよ!」


「私だってさっぱりだよ!」


「おい! そこの厳つい髭オヤジと黒マッチョ!」


「髭オヤジ?」「黒マッチョって俺か?」


「とりあえずオレを中に入れるか黙るかしてくんねーか?」


「「ア、ハイ」」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「なるほど……それであの音か……スゴイ機転の利く嬢ちゃんだな。私はトニー、トニー・ジェファーソン。科学者だ」


「そんなギリギリでやる度胸もスゲェよな。あ、俺はジョン・ステイクだ。ベースボールの選手だぜ」


「元な、肩を痛めて先日引退したろう?」


「引退じゃねえ、オーバーホール中だ」


「復帰出来なきゃ変わんないだろう」


「うるせえな」


トニーは隣町の自宅に奥さんがいるらしく安否を確かめるために向かっているのだという。

ジョンは医者にかかるために出てきて巻き込まれた、家に残して来た妻と子供が心配だという。

二人は逃げてる最中に出会い、お互いの目的が似ている事もあり協力関係を取っているらしい。

確かに単独よりかは若干の制限があるが、こと戦闘になれば仲間の存在はありがたい。

似たもの同士なのか、長年の友人のようにぎゃあぎゃあと言い合いをしている二人をしり目にイースレイは考えていた。


(悪いやつらじゃなさそうだが……ミーナを任せられるのか?)


このままずっと自分で居るのはよろしくない。

イースレイが表に出ている間はミーナは眠っているような状態なので、長期間彼が出ていると時間と記憶のズレがどんどん広がっていく。

以前は事件の事もあり、誤魔化すことが出来たが今回はそうもいかない。


「コイツの事はどうでもいいからほっておくとして、嬢ちゃんの名前は?」


「どうでもいいってひでえなトニー……あ、名乗りたくないなら別に無理には聞かねえぜ?」


イースレイは覚悟を決めて二人を信じ、ミーナを託すことにした。


「……これから話す事は信じられないかもしれないが、とりあえず聞け。まず、オレの名はイースレイ・ハミット」


イースレイは自分の素性を包み隠さずに話した。

自分がいる意味、目的、経緯、今に至る全てを。


「俄かには信じられん……」


「アレか? なんちゃらミリガンみたいな感じなのか? すげえな、初めて見たぜ」


「信じられないのも無理はねえが、信じてくれというしかないな。とりあえずオレは少し眠るから打ち合わせ通りに説明してくれよ?」


「む……」


「わかったぜ」


科学者という職業柄なのかトニーはいまいち信用していない様子だが、ジョンはこの状況で嘘をつくメリットがないと全面的に信用してくれた。

イースレイは無くさぬようバッグに移し替えておいたロザリオを取り出し、首にかけて目を閉じる。

彼に変わった時と同じように数秒にも満たない時間で彼女(・・)は目を覚ました。


「……うぅ……? ひっ!!」


先ほどの強い意志を秘めた目ではなく、明らかに怯えた目。

それを見た瞬間表情にこそ出さなかったが、あまりの変わりように二人は驚いた。


「(これほど違うのか……演技には見えない……)」


「(これが演技ならアカデミー賞もんだぜ? マジモンだよこいつは)」


「あ……あの……あなた方は?」


気が付けば見知らぬ場所、目の前には強面二人。

怯えるなという方が無理があると思われる。


「あー……大丈夫か? 私はトニー」


「俺はジョン、逃げてる途中で家の前に倒れているアンタを見つけて保護したんだよ」


「あ、それはありがとうございます。私はミーナ・エステスです……ここは?」


「私たちが宿代わりにさせてもらった他人の家だ。誰のものかはしらないな」


「そう……ですか……あの、逃げてるとおっしゃってましたが……何から逃げてらっしゃったんですか?」


「うん? 歩く死体、ゾンビだぜ」


「夢……じゃなかったんだ……おじいちゃん、おばあちゃん……」


そういうと少女は俯いてポロポロと涙を流し始めた。


「(こ、こういうの苦手だ……ジョン、任せた! 子供の相手は慣れてるだろ?)」


「(馬鹿いえ! うちは息子だ、女の子の扱いなんてわかるか!)」


厳つい男とマッチョな男が少女の涙一つでオロオロする様は些か滑稽であった。

ゴードンェ……。

もう少し人が増えます。

果たして作者の技量で書き分けきれるのだろうか……。

お付き合いありがとうございました。

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