嵐前静寂
大変お待たせ致しました。
ジェニファー一行⇒ルドマンを保護し、新たな救助者と物資の調達。
▶トニー達⇒シナリオ進行中。
ビリー&ゴードン⇒一向に姿が見えない、美術館から出た形跡はない。
「どこに向かってるんだ?」
ゾンビを避けつつ、黙々と何処かへ向かっているトニー。
目的地の詳細は一切二人は聞かされていない。
「ジョンに目的があったように、私も目的がある」
「どんな目的か聞かせてはもらえないですか?」
このメンバーで唯一戦力外のミーナは周囲のゾンビに怯えながら尋ねる。
「私の目的はある男を殺す事だ」
「え?」
「おいおい、ミーナちゃんにストレート過ぎんだろトニー」
「それ以上にどうやってオブラートに包める?」
「いや、そうだけど……」
「わ、私は大丈夫です。ただ……」
足手まといの自分がここに居て邪魔にならないかが心配だと彼女は言う。
「本当はどこか安全な所に避難させたいところなんだが……」
今の街の状態では安全な場所などない可能性の方が高い。
事件発生から大分すぎた今、生き残った人間で拠点が築かれているとは思う。
だが、人間は生きているだけでも食料を消費する。
非戦闘員であってもそれは変わらない。
つまり、人数が多くなれば守りやすくはなるが、食料の消費が大きくなる。
食料の供給が間に合わなくなれば暴動が起きてたちまち瓦解するだろう。
「まあ……確かにトニーのいう事には一理ある……俺たちと一緒に居る方が安全なのかもな」
ジョンはトニーの話を聞いて納得した。
少数であれば食料の調達は容易であり、かつ戦闘員が精鋭であればある程安全率が跳ねあがる。
それは道理である
「なあ、結局どこにむかってるんだ? 目的はわかったけどよ、目的地がハッキリしない」
「美術館だ」
「美術館だぁ? 芸術鑑賞してる暇があんのかい?」
「勘違いするな、美術館の地下に用事があるんだ」
「地下になにかあるんですか?」
「研究施設がある」
「なんで知ってるんだ?」
「私はそこの研究員だった」
トニーは秘密裏に進められていた極秘研究プロジェクトメンバーの一人だった。
その研究は宇宙から飛来した隕石に付着していた原生生物――所謂アメーバの調査。
「その生物は燃やしても、凍らせても、感電させても、切り刻んでも生きていた」
「おいおい、無敵か?」
「ああ、宇宙でも生きられたから真空もダメ。っと……よくよく考えれば大気圏との摩擦に耐えたんだから熱にもつよいわな。はは」
「他にメンバーはいたんですよね?」
「ああ。俺と彼女のミレーナ・ウラガン、サンドラ・ルイス、そして俺の仇敵……ビリー・ディランスだ」
「ビリー・ディランス? 外科医で犯罪者の?」
「外科医は表の顔だ、アイツは俺たち研究チームの資金提供者だった」
ビリーは外科医を隠れ蓑に女性を殺していたのは最早周知の事。
彼は殺した女性の臓器を密売して売り払い、それを資金に不死の宇宙生物の……そう、人類の不死化の研究をしていた。
最も、犯罪が露見してからは資金提供は止まっていたのだが。
「アイツは私の彼女ミレーナを凌辱して殺害した……ずっと狙ってたんだ……」
研究資金が臓器密売によるものだとわかったのも犯罪が露見した後。
「潤沢に支払われる資金に私たちはそのプロジェクトが国営だと信じていたのだがな……」
国には宇宙生物の事は何も伝わっていなかった。
研究内容も不治の病を克服する研究と言われていたのだ。
「すっかり騙されていた……どこで見つけて調べたのかは知らないが、ミレーナが私たち研究員の一人だと知って近づくのも目的だったんだ」
「でも、そいつが美術館の地下に居るとは限らないだろ? もしかしたら死んでるかもしれない」
「確かにその可能性はある……だが、この事件が起きた原因がアイツだとしたら?」
「この事件って……今のこの状況の事か!?」
「そうだ。元凶はアイツだ……なら生きてて不思議はない」
「そうか……ビリーの野郎が俺の大切なものを奪った元凶か……」
「でも、どのようにしてこの事件を起こせたのですか?」
「それは、アイツがあるとき持ち込んだ虫から始まったんだ」
研究が行き詰り、もはやすることが無くなった時ビリーは虫を研究室に持ち込んだ。
その虫は日本で見つけたのだという。
やることが無くなっていたトニーらはさっそくその虫を解析。
すると驚くべきことが判明する。
「原生生物とその虫の塩基配列……DNAが酷似する部分がみつかったんだ」
それが導き出した答え。
それは原生生物が寄生生物だという事。
他の生き物と同化して共存する類のものだという事だった。
「さっそく私たちはマウスに原生生物の細胞の一部を寄生させた」
結果は大当たり。
寄生マウスは驚くべき再生力を見せ始めたのだ。
「私たちは研究が進んだことに歓喜した」
暫く寄生マウスを経過観察していたときに事件は起こる。
マウスの暴走。
マウスはほかの寄生されていないマウスを襲い始めた。
最初は理由が分からなかったが、のちに判明したこと。
それは――。
「寄生すると無限の再生は行われないんだ」
「どういうこった?」
「細胞が再生するときにエネルギーを使う。寄生した原生生物は依り代となった生き物のエネルギーを消費して異常な再生力を出していたんだ」
「……はっ! まさか……」
「そう、いまミーナちゃんが思った通り足りない分をほかの生物を食らう事で補おうとしたんだ」
再生するにもエネルギーがいる。
今までは自身の細胞のみで出来ていたものが寄生することで依り代依存になってしまったが故の弊害。
「おいおい、それって……」
「何かに似てるだろ?」
「ゾンビ……」
「なあ、それならほっといたら勝手に全滅するんじゃないのか?」
ジョンが言いたいこともわかる。
しかし、トニーから聞かされたのは絶望。
「強靭な再生力を取り戻すために他から補おうを捕食する。だが、宿主のエネルギーを食らい尽くしても空気中の細菌等微生物を取り込んでいる為活動は止まらない。あくまでも強靭な再生力が無くなるだけなんだ」
実際ゾンビは倒せる。
無敵の生物ではないという事は実体験として理解しているのだ。
「原生生物を倒す方法は一つ、微生物を取り込んでも間に合わないほどのダメージを与える事」
「じゃあゾンビの頭を吹き飛ばしてもその原生生物は死んでないのか?」
「そうだ。吹き飛ばした後をしっかり見たことがあるか? 液体のようなものが流れ出るんだが」
「ああ、あのなんか気持ち悪いやつな……あれが?」
「それで間違いない。傷があるなら絶対にその液体に触れるな。寄生されるからな、口や目に入ってもダメだ」
「マジかよ……」
「でも、それが今回の事件と何か関係があるのですか?」
「私たちはマウス実験の段階で危険性について気づいた、だから厳重にその生物を封印し、マウスを根絶やしにしたんだ」
「ってことは……」
「ああ、ビリーはその封印を解いたんだ」
「封印を……ビリーさんもこの結果は予測できたはずなのに?」
「アイツの目的はミレーナと不死の研究だ」
「これはビリーの野郎の大規模な実験の結果ってわけか……ムカつくぜ」
トニー達が手を引いたあと、ビリーはひそかに生物を盗み出し、別の人間を使って研究を続けさせた。
結果、管理に失敗し、パンデミックが起きてしまったのだ。
「私たちが生物の存在に気づいたときは既にビリーは塀の中、生物がどこに行ったかもわからずに気が付けばゾンビが街に溢れかえってっていう状況だ」
トニーがほぼ確信をもってビリーの事を生きていると言ったのも、ほかの人間に比べて生物に対する知識があり、対処法も知っていたからだという。
原生生物が寄生している頭部による攻撃、「噛みつき」にさえ気を付けていれば多少の手傷は問題にならず、力は強いが足は遅いために囲まれなければそれほど脅威ではないゾンビ。
狡猾で他人を殺すことに迷いがない彼は何らかの手段を用いてでも生き延びている。
自らの不死をなすために。
「しっかし、この状況で死なない身体になってもなぁ」
「ソコは誤算だろう。予想だが、永遠に快楽を貪りたいが為だけに不死の身体を手に入れたいのだと思う」
「……最低ですね」
ミーナの胸がチクリと痛む。
軽い頭痛を覚えたが、本人にはそれが何なのかはわからない。
今の話から閉じ込められた記憶の中にある正常な狂人の事を思い出しそうになったから起きたものだ。
辛い記憶はイースレイが大切に抱えている。
「っと、美術館が見えてきたな」
「やっとか……なんだこりゃ」
「バリケードで囲まれた……道ですか?」
トニー達の眼前に現れたのはガラクタを使った壁。
軽く登ってみてみると反対も同じようになっている。
「こりゃまた結構な労力だなあ」
「この間だけは安全なルートってわけか」
自分たちが拠点にしている場所から一直線に伸びる左右の路地を封鎖された道。
これならばもし襲って来られてもいっぺんには来れずに対処も容易。
最悪は拠点に繋がる場所を封鎖しておけば別の方から逃げることも可能。
これが明らかにゾンビの対処を知っている人間が作り上げた道だという事は想像に難くない。
「こりゃあ……いるな……」
「ここまで見事なゾンビ対策出来る奴はそう居ない、奴は間違いなくここに潜んでる筈だ」
「ごめんなミーナちゃん、見せたくないモノを見せることになると思う」
「ジョンさん、トニーさん……私は大丈夫です」
そう言いながらも体は震えているのが見て取れる。
「……すまない、行こう」
お読みいただきありがとうございます。
次回未定