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やっぱり我慢できませんでした。
不定期更新になります。
お楽しみください。
「異常なし、先に進むぞ」
「りょーかーい」
「……」
「おいジェニファー、なんだその返事は。グスタフは返事くらいしろ」
「こんなとこに何があるっていうのよ、だーれもいないし」
「つべこべ言うな、俺だって面倒なんだ」
「非番の日に呼び出されたと思ったら廃屋の調査ってなによソレって感じなんですけど」
「公僕の辛いところだな。街の住人からこの廃屋で抗争があったという情報が入った……。その報告の後、割とすぐに調べたんだが血の跡以外に一切の痕跡が無かったらしい。まったくキナ臭いにもほどがある話だ。だが、俺たちが呼ばれたという事は」
「荒事の可能性が高い案件ってわけね」
「そういう事だ」
「しっかし、何があったのかしらね」
「どうした?」
「だって、考えてみなさいよ。大した時間も経ってないのに血痕以外見つからないっておかしくない? こんな街の郊外にある廃屋で、隠れるところもほとんどないのに合わせて40人前後が揃って行方不明なのよ? なにか陰謀を感じるわ」
「……三流小説の読み過ぎだ。俺だって面倒なんだ、とっとと調査して帰るぞ」
「はーいはい……それにしてもノリ悪いわね、レナード。あんた、そんなんじゃモテないわよ?」
「ほっとけ」
――アーカムシティの郊外にある廃屋。
270㎡ほどの割と平均的な敷地の二階建て。
一体いつからあるのか、誰が建てたのか全く分からない家。
少なくとも50年以上は誰かが住んでいたという記録はなく、かといって打ち捨てられた感じもあまりない。
廃屋と言えば廃屋なのだが、誰かが定期的に整備しているような綺麗さが端々に見える。
もし管理しているものがいるならば、何の目的でこの建物を残しているのか分からない。
「……変……」
「アンタもっと喋んなさいよ……でも確かに変ね、レナード」
「ああ……なにもなさすぎる……アニー、ボストン、裏の様子はどうだった?」
「なにもねえよ」
「なにもなさ過ぎて逆に不気味よぉ……」
「こっちも同じだ、とりあえず中に入るぞ」
「「「了解(よぉ)」」」
「……グスタフは返事しような」
「……了解」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「どうしてここで抗争があったのかしら?」
「確かに変よねぇ……お宝を巡ってとかぁ?」
「お宝か、あるとすりゃ地下か?」
「まあ、お宝は別としても二階にはなにもなかったしな」
「一階も血だまり以外面白いモンないしな……お?」
「人……?」
「馬鹿な、最初に調査に来た奴は誰も居なかったって言ってたぞ」
五人は周囲を警戒しつつ、倒れている人物を取り囲む。
血だまりのなか、うつ伏せに倒れたまま動かない人物は間違いなく死んでいると思われる。
よく見れば、身体の下にハッチ扉のようなものが見えた。
「あったわね、地下室」
「入ろうとしたのか?」
「どっちかというと隠しているように見えるわぁ」
「……封印?」
「アニーやグスタフのいう方が合ってるように思えるな……退かしてみるか、ジェニファー」
「あんまり触りたくないわね。現場荒らしていいの?」
「これくらいなら仕方ないさ」
「はいはい、よっこらせっと……うえ!?」
ひっくり返した遺体は常軌を逸した様相をしていた。
皮膚は顔から胸まではがされ、むき出しになった肉が痛々しく腹は破けて中身が露出している。
胃は見当たらず、腸も半ばで無くなっていた。
「抗争にしたってやり過ぎよぉ……」
「晒しもの……という感じではないな」
「……サイコパス?」
「にしたってこりゃひでぇぜ……」
「レナード……下に行くの?」
「い、行くしかないだろう……」
凄惨な遺体が死して尚、中に居るものを閉じ込めようとした場所。
憶測でしかないが、そんな気配のする場所に五人は足を踏み入れた。
梯子を下り、奥へと続く廊下を並んで歩く。
何処から電気が来ているのか分からないが、ポツリポツリと設置されている電灯のおかげで最低限の視界は確保できている。
「こんなところをあんな怪我で歩いたのか……」
「それほどこの中に居るのを出したくなかったのかしら」
「憶測だけどねぇ」
「執念みたいのを感じるな」
暫く進んでいくと開けた場所に出た。
右へ進む道と左に進む道、そして正面には扉がある。
「三択ね……レナード、どこから行こうか」
「なんで俺に聞く……ここは右の方からか?」
「……右手の法則?」
「ダンジョンものの基本ね、レナードも結構いける口?」
「ソレ系の小説、ジェニファーの家で見た事わるわぁ」
「ち、違うぞ! なんとなくだ! なんとなく!!」
「何でもいいから行こうぜ……お、生存者か?」
再びボストンが一番に気づいた。
今行こうと話していた右の道から一人の男がフラフラと歩いてきたのだ。
男は怪我をしているのか、足を引きずりながら辛うじて歩いている。
「おい、大丈夫かアンタ」
「ボストン、何か様子がおかしいわ」
「おい! 離れろボストン!!」
「あ?」
『SYAAAAAAAA』
「ボストン!!」
「ぐあああ! こ、コイツ噛みつきやがった!」
「離れなさいよぉ!」
数発の弾丸が男の身体を貫くき、大きく後方へと吹き飛んだ。
しかし、男はダメージを負った様子もなく立ち上がり、再び向かってきた。
心なしか出血も少なく感じる。
「嘘だろ?」
「なんでよぉ……今当たったでしょう!?」
「クソが! よくもやりやがったな、死にくされ!」
ボストンの放った銃弾が男の頭に命中し、膝をついて崩れ落ちた。
「イカれてやがったのか? いてえな……くそ」
噛まれた腕を布で保護しながら倒れた男に蹴りを入れるボストン。
どうやら完全に沈黙したようだ。
「アタシの弾、当たってたわよねぇ……」
「間違いなく当たってたわ」
「じゃあなんで動けたんだ? 痛みで怯む様子もなかったが……」
「クスリでもキマってたんじゃねえか?」
「……謎」
「麻薬の常習犯とかかしら?」
「思わず殺してしまったな、始末書か?……情報は何も手に入らなかったか。ボストン、行けるか?」
「ああ? こんな程度の怪我で俺がリタイヤするかよ! オラ、とっとと行くぞ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「右の道は行き止まり、正面の扉はただの倉庫部屋……」
「あとは左か、めんどくせえなぁ」
「仕方ないわよぉ……」
五人は先の分かれ道に戻って来ていた。
レナードが言ったように右は何もなく、何のための通路なのか不明な行き止まり。
扉は倉庫に使われているらしい部屋、なにやら工具などが所狭しと放置されていた。
残るはあと一つ。
「人影はなし」
「居たとして、またさっき見たいのじゃないといいけど」
「ああ……思い出したら腕が痛くなってきたぜ……クソが」
「ボストン大丈夫ぅ?」
「アニーのおかげで大丈夫だぜぇ」
「イチャつくなら帰ってからにしろ……職場恋愛の弊害だな」
「……同感」
右へ左へと何度かの曲がり角を越えていきついた先はさらに地下へ降りる階段だった。
なぜこうもややこしい構造なのだろうか。
「ま、行くしかないわね」
「さて、なにが出るやら」
「早く終わりてえな」
「ねえボストン、ホントに大丈夫? 顔色悪いわよぉ……」
「あ? 心配すんなって」
「……無理、禁物」
「グスタフのいう通りだな、とりあえずとっとと終わらせるか」
「とっとと終わればいいけどね」
下りた先にあったのは大広間。
それだけなら良かったのだが、そこにはたくさんの死体とそれを貪るナニカがひしめいていた。
そのナニカたちは上からの侵入者にまだ気づいていない。
食事を取るのに必死のようだ。
そして、そのナニカはどう控えめに見ても生命活動をしているようには見えなかった。
――ゾンビ――
誰ともなしにそうつぶやいていた。
上の部屋に居た死体が閉じ込めたかったのはコイツらだろう。
この動く死体たちを閉じ込めるために致命傷にも関わらず最後の力を振り絞って、文字通り命を懸けて封印したのだ。
それを見ていた全員の顔色は青ざめていた。
「……なあ……これ拙くないか?」
「気づかれていない今ならまだ逃げられるか?」
「流石にこの数は無理よぉ……」
「出てこれないように上をふさぐしかないかしら……」
「……それが賢明」
「よし、音を立てるなよ……ゆっくり上に戻るんだ」
「あは……ゆっくりより急いだほうがいいかも?」
「ジェニファー?」
「今、バッチリこっち見てるのよ……」
「OH……」
「逃げろぉ!!」
動物的な本能なのだろうか、背中を見せると襲いたくなる習性でもあるのか逃げ出した途端に食事を止めて一斉に襲い掛かってきた。
足はそこまで早くはないが、頭部に弾を当てない限りは決して止まることが無い。
冷静に対処すれば問題ないかもしれないが、焦っているときにこの特性はかなり厄介だ。
「うおおお、来るな来るな!」
「レナード、アニー。早く下がりなさいよ! どんどん来るわ!」
「前からも来てるぞ!」
「何処にいたのよぉ!!」
「なんでもいいから早くして」
「こっちの方が物量ヤバいんだから頼むぜ!!」
「……レナード、落ち着く」
ほんの少しパニックになりかけていたレナードにグスタフの叱責が届く。
彼は冷静にジェニファーとボストンの援護をしつつ、レナードに一番近いゾンビの頭を撃ち抜いた。
「流石ウチの狙撃マシーングスタフ様だぜ。レナード、シャキっとしろオラ!」
「あ、す、すまん! アニー、今援護する!!」
「道が開けたわぁ!」
「よし、下がんぞ!!」
這う這うの体になりながらもなんとか出口にたどり着き、梯子を上る。
全員が脱出したのを確認し、ハッチ扉を閉めて上から重しになるようにテーブルを置いたところで一気に気が抜けて全員がへたり込んだ。
「なんとか助かったな……」
「あれってゾンビかしら」
「映画の見過ぎ……じゃねえよなぁ……」
「私たち全員が見てるものねぇ……」
「……ぐぅ!」
安堵して気を抜いていたのが災いした。
くぐもったうめき声が聞こえ、その方向に全員が目を向ける。
そこには扉をふさいでいた男の死体に覆い被せられているグスタフの姿があった。
「グスタフ!!」
「テメエ! グスタフから離れろ!」
ボストンはすぐさま男を蹴り飛ばし、反応を示す前に頭を撃ち抜いた。
「アニー、グスタフは?」
「……」
アニーは言葉を発することなく、頭を振ることで手遅れだという事を伝える。
「クソが!」
「俺が油断したからだ……グスタフ……すまない」
「違うわ……油断してたのは私たち全員よ……」
「ち……なんて報告すりゃいいんだよ……」
「とりあえず……帰還するわよ……」
呟くように言ったジェニファーの言葉に否という者は居なかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
生き残った全員が帰還し、報告を終える。
その報告を信じる者は誰もおらず、仲間が一人死んでしまったことについて言及される。
どれだけ訊ねられようとも報告したことが真実であり、偽りがないためにそれ以上が無い。
今回の件は表に出ることなく、秘密裏に処理されることとなった。
「ボストン、大丈夫ぅ?」
「ああ……」
「顔色わるいわよぉ?」
「ああ……」
「今日はあんなことがあったし……私も気分が乗らないから今日は帰ったらゆっくり休みましょう?」
「……ああ」
「ねえ、本当に大丈夫?」
「……」
「ねえ、ねえってばぁ」
『あ……ああ……あ”あ”あ”』
「え? なに、冗談やめてよぉ! あんなことあったんだから洒落で済まないわよぉ!」
『GAAAAA!』
「止めて! や……あ……ボス……ト……」
「なんだ今の声は! ……ボストン? アニー?」
『GAAAAA!』
「おい、何をする! う、うわあああああ」
署内に悲鳴が響き渡る。
その声は帰り支度をしていたレナードとジェニファーに耳にも届いた。
「なに?」
「……ジェニファー、念のため武装するぞ」
「え? わ、わかったわ」
最低限の装備ではなく、鎮圧用の装備に変え、現場と思しき場所に向かった。
二人はそこで、見たくない現実を突き付けられた。
「ボストン……アニー……」
「嘘でしょ……アドルフ、チェルシー……皆……」
「駄目だ、この数は手に負えない。ジェニファー、逃げるぞ!」
「ちょ、ちょっと! 置いてかないでよ!」
感染は爆発的に広がっていた。
二人が駆け付けた時にはすでに署内の半数以上の人間がゾンビになっていたのだ。
「クソ、どんどん増えてるのか? 限が無い!」
「どうするの?」
「とりあえず生存者を探しながら拠点を作るぞ!」
「何処に!?」
「知らん! だが、街中に居たらどんどん逃げ場が無くなる!」
「そうね! 皆ごめんね!」
襲い来る元同僚のゾンビの頭を容赦なく撃ち抜きながら二人は街から離れるように移動を開始した。
作者が楽しめる作品にしていこうと思います。
変なとこもあるかもしれませんが、目に余るようなら是非指摘してください。
お付き合いいただき有難うございます。