平凡中学生が桁外れの力を手に入れてしまったようですよ
西暦3094年。ほとんどの人は現実を捨て、ゲームの仮想空間に身を投じていた。科学の進歩により人々は「MC」(マスターチップ)という画期的な発明をしていた。
MCは大きさ1平方センチメートル、厚さ0.5mm程の黒いチップで脳に埋め込むことで、携帯電話やパソコン、テレビなどすべての機器に接続して扱うことができる。
そしてそのチップを使い遊ぶゲーム。それがRLRPG、リアルライフロールプレイングゲーム。通称「WR」。WRはゲーム機から出す音波によりMCに接続し、プレイヤーがゲーム世界を実体験できるゲームなのだ。
そしてその中でも、圧倒的なプレイヤーの自由度、現実の近さから人気を集めているゲームがある。それが「WP」(ワールドパラディン)だ。このゲームは全てプレイヤーが1つのマップで旅をして1番を争うゲームだ。一応魔王や神もいるが、プレイヤーはあまり気にしない。このゲームは現実とよく似ていて、食事をしなければ死ぬ。死ぬというのは、もう2度とWPをプレイできなくなるということだ。それに食事をするにはお金がいる。お金を稼ぐには働く。などとても現実感あるゲームなのだ。そしてWP特有のストーリーが「自分の国を創る」ということだ。
プレイヤーは異性のプレイヤーとパートナーを組み、そのパートナーと国を作り、WPのマップを制した者は、現実とゲームの世界共に10億円の賞金がもらえるという仕組みだ。その夢に向かい、今も約10万人のプレイヤーがWPをプレイしている。
〈第1章 神越神〉
僕の手の中にはずっと欲しかった「WP」が入っている。1年バイトして貯めたお金で買ったから大切にしようと思う。
「絶対王になってやる」
そう呟き部屋に入るとすぐゲームを始める準備をした。
ベットに横になりMCでゲーム機の電源を入れた。すると意識の中に設定画面が出てきた。
『名前を入力してください』
(うーん。名前かぁ。本名は翔真だけど...)
そんなことを考えながら何かないかと部屋を見回しているとふと古びた絵本を見つけた。昔何度も読んだ勇者のお話だ。小1の時に買ってもらったのだがとても気に入り8年経った今でも捨てられない。
(よし、あの勇者の名前にしよう)
『アルクシオン』
よし、始めよう!
僕は意識の中のスタートボタンを勢いよく押した。意識が遠のいていく。
気づくと僕は地面に横たわっていた。とても頭がいたい。ログインした時頭を打ったのだろう。僕は頭をさすりながらゆっくり立ち上がり空を見上げる。時間は昼ごろだろうか。太陽らしきものがほぼ真上にある。
体は動く。異様なほど軽く。
(ここはどこだろう)
そんなことを考えていると
ズバッ
自分のすぐ横を後ろから斬撃のようなものが飛んで行き、目の前の大木を軽々しく真っ二つにした。慌てて後ろを振り向くとそこには美少女という言葉がぴったりの女の子が立っていた。すると突然
「貴様は誰だ」
僕の方を向いているから多分僕のことだろう「僕はアルクシオンだ」
「聞かん名だな」
「さっき来たばかりですから」
嘘は言っていない はずだか.............
「しかしこんなところからスタートするのはおかしい。やはり死ね!」
あの斬撃が正面に飛んでくる。しかし全然恐怖は感じない。そしてあろうことか僕は左手を出し受け止めようとした。そこで気づく。左腕に鎖の模様が入っていることに。
「よそ見をするな!」
そんな声を聞き前を向くと斬撃が目の前にあった。
勢いよく飛んでくる斬撃を僕は左手で受け止めた。
(あれ?痛くないし重くもない。普通に立っているのと同じ感覚だ。)
そして僕は左手で斬撃を握り潰した。
「バ、バカなっ氷帝の与罰がこんな簡単に防がれるなど!」
「結構簡単でしたけど?」
聞こえていないらしい。
「やはりお前は危険だ。一緒に来てもらおう!」
ガチャリ
僕の手に青い線の入った手錠がつけられた。
「その手錠は対魔法だ。絶対に壊せんぞ。」自信満々だ。
「じゃあ壊していいですか?」
「できるもんならやってみろ。それともう少しで迎えが来る。」
僕は腕に力を入れる。すると左腕の鎖の模様が黒紫色に光り、
「何しろそれは世界ランク1位の魔術師でさえ壊せなかった...」
手錠を木っ端微塵に粉砕した。
数秒間の沈黙が訪れる。すると
「お前!何をした!」
正直言うと僕は動いていない。力を入れただけだ。だから素直に答えた。
「いや、少し力を入れたらああなって...」
そこまで言い終えると目の前に水色の魔法陣が現れた。
「入れ」
「いや、入れと言っているんだ!」
「...はい」
半ば強引に入れられた魔法陣を通るとそこは綺麗な部屋だった。
(これが瞬間移動か。素晴らしい。でも20人くらいの銃を持った男に囲まれているのはなぜだろう)
そんなことを考えながら辺りを見回していると後ろから聞き覚えのない声がした。
「ごめんねーレリスちゃん。異属性の魔術師を呼ぶのに時間かかっちゃった。」
(レリス?あぁ最初斬撃を飛ばしてきた子か。でも改めて見ると綺麗だな。肩に少しかかるくらいの紅い髪、燃え上りそうなほど紅く深い瞳。綺麗の一言では言い切れない程の綺麗さだ。)
そんなことを考えているとレリスさん(?)が
「こいつはあの手錠を簡単に壊したんだ!母さん、もしかしたらあの剣も」
するとレリスさんのお母さんらしき人が僕に向かって
「君名前は?」
「僕はアルクシオンって言います。シオンと呼んでください。」
「私はエンド・アイスロードよ。この名前は好きじゃないからリアって呼んで」
「分かりました。それとリアさん。さっき言ってた剣ってなんですか?」
僕の質問にレリスさんが答えてくれた。
「邪剣『神越神』(トリニティ)今まで誰も扱うことのできなかった剣だ。それと私はレリス・アイスロード。お前の呼ぶリアとは現実の親子だ。」
(親子でゲームか。にしてもリアさんも綺麗だ。レリスさんと同じ色のロングヘアーで少しやわらかそうな人だ。)
「ちょっとついて来てくれる?」
僕とレリスさんはリアさんについていく。
5分くらい歩くと奥に大きな扉がある部屋に着いた。リアさんがそっとドアを開ける。
扉の向こうには見渡す限り青い宝石のようなもので埋め尽くされた洞窟のような部屋だった。その奥にはここには似合わない黒紫色に光っている、日本刀のようなものが刺さっていた。
リアさんが言った
「あれが邪剣神越神。今まで数え切れないほどのプレイヤーが挑んだけど誰も抜いたことのない剣よ。あれは2つの壁に守られているの。1つは魔壁。守備の術式なんだけどここのはとても強力で世界ランク3位以上程度の実力者じゃないと壊すことすらできないの。そして2つ目はあの剣自体。今まで抜けた人は1人もいないわ。」
長い説明が終わるとリアさんが
「レリス。ちょっとお手本見せてくれる?」
(え、でも世界ランク3位以上じゃないと...)
「わかった」
「えぇ!?」
思わず声に出してしまった。するとレリスさんは壁に向かって刀を構え、あの時とは比べものにならないくらい力を入れ刀を振り下ろした。その斬撃は地面を削りながら飛んでいき壁を少し削った。しかし人1人がギリギリ通れるくらいの穴でレリスさんが通るとすぐ閉じてしまった。
「それで僕にあの壁を壊せと?」
リアさんは上目遣いで
「お願いできる?」
といってきた。...断れるはずがない。僕は渋々「はい」と答えると壁に向かって歩き出した。ここで疑問が浮かんだので聞いてみる。「レリスさんって世界ランク3位以上なんですか?」
「あの子は世界ランク2位よ」
「へー...って2位!?」
僕はこのゲームに来て早々2位と戦っていたのか。そう思うとゾッとした。続けてリアさんが
「そうよ。だから攻撃を止められた時、凄くムカついて、今あんな感じなんじゃないの?」
(そういやぁレリスさんはずっと僕の方を見ている。まさに「お前には無理だ」と言われているようだ。)
そんなことを考えていると魔壁の前についた。魔壁は紫色に光っている。
僕は左手を前に出してグッと握った。すると
バリッ
という音と共に魔壁は全て崩れ落ちた。みんな唖然としている。そしてリアさんが言った
「あの魔壁を一瞬で全て砕くなんて。いったい何をしたの!?」
僕も分からない。答えられない。
「まぁいいわ。とりあえずあの剣を抜いてみてくれる?」
「分かりました」(やばい!あっさり答えちゃった!できもしないのに!)
そんな考え知らんと言わんばかりに2人が僕を見てくる。そして神越神に左手をかける。心臓がばくばくいっている。そして引っ張る。 スッ
「.............抜けた」
間の抜けた声で僕が言った。するとリアさんが
「と、とりあえず検査場に行きましょう。詳しい話はあっちでするわ。」
僕たちは検査場に向かう。
(それにしてもこの剣軽いな。)そんなことを考えながら検査場に向かった。
〈第2章 無限の力〉
僕は今検査場のイスでリアさんから剣についての説明を受けている。
「それじゃあ説明するわね。この剣は戦魂と呼ばれていて1人一つ持っている武器よ。それと剣には属性、形、魔剣技、特性の項目があって、魔剣技と特性は同じものが2つは絶対に存在しないの。だから検査しないと分からないの。そして属性は主に3つに分かれるわ。」
リアさんが指を立てながら言った。
「火系を得意とする炎、水系を得意とする氷、空間を操る異、そして世界に1本しかない神。」
(多分神属性は神越神だろう。)
「形も主に3種類に分かれるわ。攻撃に特化した大剣、移動に特化した槍、バランスのとれた長刀。そしてコネクタと呼ばれる戦魂とその持ち主を繋ぐ印があるわ。これは検査が終わると右手の甲に出てくるわ。」
(説明お疲れ様です)
そう思いながらドアの方を見ると白衣を着た人が紙を持っている。リアさんが手招きすると白衣を着た人がこっちに来て紙を渡してくれた。見るのが怖い。僕が見るのを躊躇しているとれリスさんが
「ちなみに私のは『氷帝』(アテナ)といって氷属性、長刀型だ。特性は氷属性攻撃無効化、魔剣技は氷帝の与罰だ。」
次は僕の番だ。紙をそっと開く
【神越神】
属性 神 氷 炎 異
形 長刀型
特性 無限の可能性
魔剣技 強奪鎧 (デス・ガード)
らしい。
その場の空気を払うようにリアさんが言った
2人とも一度戦ってみたら?シオンくんも相手が世界2位なら手加減なしでいけるでしょう?」
僕は静かに頷くと
「それじゃあいきましょー!」
無駄にテンションの高いリアさんを追って僕とレリスさんも歩き出した。
「これが戦闘場?」
とても広い。サッカースタジアムくらいの広さだ。そこに30メートル間を空けて立つ。すると左腕の甲に縦の模様、肩に剣の模様が出てきたしかし両方とも腕から伸びている鎖が巻きついていてまるで封印でもされているようだ。
「シオン、レリス、始めるわよー。」
『はい!』 2人同時に返事をした。
バトルスタート
デジタル音声が聞こえると何か変な感覚に襲われた。
(戦い方が...分かる!)
〔神の鎖〕
僕がそう言うとレリスさんの足元に紫色の魔法陣が現れ、そこから出てきた鎖がレリスさんの手足を縛った。
ブーー
試合の強制終了音声だ。ゲームシステムが危険と判断したのだろう。するとリアさんが駆け寄ってきて
「さっきのは何!?」
とても焦っている。僕も何が起きたのか分からない。
「分かりません。ただ変な感覚に襲われて頭に浮かんだ術を使っただけです。」
「あれは第16危険術、神の鎖。相手の全てを拘束する鎖。身体だけでなく心、意識、命まで拘束してしまうのよ!」それを聞いた後僕は意識が遠のいていく感覚を最後に意識を失った。
(レリスさんは大丈夫...か........な.....)