表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うずめちゃんの神様days!  作者: 青星明良
第1巻 ウェディングドレスですよ、女神様!
8/67

7 天岩戸でこんにちは

アマテラス様登場回です。

天照大神って、創作物ではだいたい「引きこもりキャラ」とかにされがちなような気がします。この作品でも、あんまりシャキッとした感じの女神様ではありませんが……。

ただ、いちおう太陽神としての威厳を示すシーンはいくつかありますので、お楽しみに(?)


では、続きをどうぞ!

「ねえ、トヨちゃん。ここって、高層ビルが建ち並んでいるくせに、何で自動車がないの?」


 わたしは、のそのそと道路を行く牛車を横目に見ながら、トヨちゃんに聞いた。


「エコのためです。神様が二酸化炭素を出して、地球汚染をするわけにはいきませんから」


 それで、牛車……。もっと他にいい乗り物はなかったのかしら?


 神様も自然環境に気を遣ったりするんだと少し感心しながら歩いていると、知らない内に周囲の景色がガラリと変わっていたことに気づいた。


 さっきまで新宿や渋谷を再現したような大都会だったのに、突然、昭和時代のようなレトロな雰囲気の街並みになっちゃったのだ。


 わたしのおばあちゃんが若いころに好きだった恋愛映画のポスター、ちょっと大人の雰囲気のジャズ喫茶、レトルトカレーの看板、たくさんのお菓子が売られている駄菓子屋……。


 駄菓子屋では、ウサギとカメが仲良くお菓子を食べている。あれも神使かな?


「何これ? タイムスリップでもしちゃったの?」


高天原たかまがはらの都はですね、人間たちが過去につくりあげてきた都市の文化や歴史を再現しているんですよ。都の最深部、アマテラス様の御殿を起点にして古代の都から始まり、飛鳥、奈良、平安、鎌倉、室町、安土桃山、江戸、明治、大正、昭和、そして平成といった感じで、人間たちの文化の発展が高天原を歩くことで分かるようになっているんです」


「そ、それは、すごい……けれど、なんでそんなことをするの? ややこしいじゃん」


「私たち神が、人間たちの成長を忘れないためですよ。ほら、あれです。親が子どもの写真を撮りまくって家族のアルバムを何冊も増やしていくのと同じです」


「へぇ~。わたしたち人間って、ちゃんと神様たちに見守ってもらっていたのね。何だか安心したような、うれしいような気がする」


「うずめは神だから、見守る側だぞ」


 猿田くんが、わたしにそうツッコミを入れた。


 ……そうは言われましてもねぇ。


 でも……。万が一、わたしが本当に神様だったとしたら、わたしは、いったい何をすればいいんだろう? ごく普通の人間の女の子としてのほほんと今まで生きてきたわたしに、神様のお役目(?)なんてできるのか不安だなぁ……。


 わたしがそんなふうに考えている間にも、高天原の風景は、大正ロマンあふれる街並み、江戸の文化と西欧の文化が入り混じった明治の街並みへと変化していった……。



            ☆   ☆   ☆



「このあたりになると、本当に大昔って感じね。あっ、あの建物、教科書で見たことがある! 高床倉庫ってやつでしょ?」


「うずめさん、そっちは別方向ですよ。天岩戸はあの川の向こうです」


 トヨちゃんが指差したほうを見ると、川面がまぶしいほど美しく光る大きな川があった。


「でっかい川だけれど、どうやって渡るの? 橋とかないみたいだけれど」


「川の上流から、お星様がゆったりと流れて来ているのが見えませんか?」


「え? うわっ、本当だ」


 クリスマスツリーのてっぺんにあるような星が、ピカピカと点滅しながら、ゆっくり、ゆっくりとたくさん流れていて、わたしはおどろいた。川が光って見えたのは、あれのせいか。


 片足が余裕で乗れそうなぐらいの大きさだから、ピョンピョンと飛び移っていけば、何とかなりそう。わたし、川の飛び石を渡って向こう岸まで行くの、得意なんだよね。


「トヨちゃん。その野菜、重たそうだから少し持ってあげるよ」


 トヨちゃんは、野菜が満載のカゴを両手に抱えて持っている。こんなのを持ちながら川をジャンプして渡るのは難しいに決まっていると思い、わたしはそう言った。けれど、


「ありがとうございます、うずめさん。でも、わたし、飛べますから」


 ああ、そうだった、そうだった。トヨちゃんは、天の羽衣で浮いているんだった。


「それに、わたしは食物をつかさどる女神です。種をまき、育て、収穫し、この手で料理するまでのすべての過程が私にとっての喜びなのです。今日はお疲れのアマテラス様のために腕によりをかけてごちそうをつくりますので、食材を運ぶ仕事も私みずからやりたいのです」


 トヨちゃんは、柔和にゅうわな笑顔でそう言った。


 立派だなぁ。いや、神様に対してそういう言いかたは失礼かもしれないけれどさ……。


 でも、「自分はこんなことをやりたいから、こうするんだ!」っていう信念みたいなのがトヨちゃんにはあるんだ。


 わたしは、人を応援するのが好きでチアリーダーをやっているけれど、「自分自身がこうしたい! こんな目標に向かってがんばりたい!」なんてことはあんまり考えたことなかったもん。


 毎日、友だちと仲良く遊んで、一緒に笑って、それで満足していたから……。


「わたしにも、トヨちゃんのような人生の目標……というか、生きかたのポリシーみたいなものがあったらなぁ。何も考えずにのほほんと生きているわたしが、神様なんてできないよ」


「あら。うずめさんは、神として立派な目標を持っていましたよ。忘れているだけです」


「え? そうなの? その目標って何?」


「人を笑わせることです」


 ずこっ! な、何じゃ、そりゃぁ~!


 たしかに、わたしはいつも笑っているし、友だちを笑わせることが大好きだけれどさぁ!


 神様の目標が、人を笑わせること? 漫才師を目ざしたほうがいいんじゃないの?


 わたしが、そんなふうに考えて、頭を悩ましていたら……。


「うわーん! 助けてぇーっ!」


 川の向こうから、女の人の泣きさけぶ声が聞こえてきたのだ。


「あれは、アマテラス様の声ですわ。アマテラス様の身に何かあったのかもしれません!」


「そ、それは大変だ! うずめ、急ぐぞ!」


「う、うん! 早く川を渡ろう!」


 太陽神のアマテラス様にもしものことがあったら、日本全国が真っ暗闇になるんだよね。それは一大事だ! 何があったのか分からないけれど、天岩戸に早く駆けつけないと!


「てりゃ! てりゃ! てりゃー!」


 わたしと猿田くんは、流れる星々に飛び移りながら川を渡り始めた。


 こいつは川の飛び石を渡るよりも簡単だ! だって、足を踏み外しそうになると、どういう原理になっているのか分からないけれど、星が大きくなるんだもの!


「運動神経の悪い神様でも渡れるようになっているんです」


 トヨちゃんは、ぷかぷかと川の上を飛びながら、わたしにそう教えてくれた。



            ☆   ☆   ☆



「もう嫌だぁーーーっ! 助けてぇーーーっ! トヨちゃーん!」


 川を渡りきり、天岩戸めざして走っていると、アマテラス様の悲鳴がまた聞こえてきた。


「アマテラス様! 今、行きます! 待っていてください!」


 トヨちゃんがスピードを加速させて飛び、わたしと猿田くんもその後を追う。


 やがて、大きな洞窟が見えてきた。あれが天岩戸だね!


「だれですか! アマテラス様をいじめているのは!」


 トヨちゃん、猿田くん、わたしの順で洞窟の中に突撃した! そこで見た光景は……!


「うえ~ん。もう仕事したくないですよぉ~。十分間でいいから休憩させてくださ~い」


「ダメです、アマテラス様。仕事を三か月もサボっていたアマテラス様が悪いのです。ほら、次はこの書類に目を通してサインをしてください」


「オモイカネの鬼~、悪魔~!」


「わたしは鬼でも悪魔でもありません。知恵の神です。アマテラス様がどれだけ泣きわめいても、仕事が終わらないかぎり、ここからは出してあげませんから覚悟してください」


「はぁ~。まさか、大昔に引きこもりの場所に使った洞窟で缶詰をさせられるなんて……」


 インテリそうな神様にガミガミ言われながら、書類の山を一枚、一枚、サインさせられている、泣きべそをかいた女神様の姿がそこにはあった……!


 わたしたちは、「何じゃそりゃぁ!」と言いながら、ギャグ漫画みたいにずっこける。


「む……? トヨウケビメ殿。だれですか、その二人は」


 わたしたちに気づいたオモイカネという神様が、不審者を見るような目で、わたしと猿田くんをにらんだ。


 天狗のお面をした謎の男とセーラー服を着た人間の少女が、神様の国のこんな奥深くの洞窟にあらわれたので、「何だ、こいつら?」と警戒しているらしい。


「オモイカネさん、よく見てください。アメノウズメさんとサルタヒコさんですよ」


「うん? お、おお……! 言われてみたら、うずめとサルタヒコではないか! 何だ、おまえたち。夫婦そろって、なぜそんなにも体が小さくなったんだ? 子どもみたいだぞ!」


 そんなことを言われても、わたしはれっきとした子どもですし。


 オモイカネという男の神様は、仙人みたいな白い着物を着ている。知恵の神というだけあって賢そうな顔つきだ。名探偵コ○ンよりも賢いのかしら?


「オレは、『よみがえりの術』で黄泉国から復活するために、ぼう大な神の力を使ってしまった。そのせいで、体まで縮んでしまったんだ。力が回復するまで、当分、元には戻れないだろう」


 猿田くんはそう言うと、わたしのことも説明してくれた。


「なるほど。十数年前からパタリと高天原に顔を出さなくなったと思ったら、人間の子どもになっていたのですね。会えなくてさびしかったですよ、うずめ」


 アマテラス様は、さっきまで駄々っ子みたいだったのが、ガラリと雰囲気が変わり、お母さんみたいに優しげな声でそう言い、書類の山をかき分けてわたしの手をにぎってくれた。


 アマテラス様の美しい黒髪は立ち上がってもわずかに引きずってしまうくらい長い。


 色鮮やかな着物は、昔のお姫様みたいだ。金の髪飾りが、洞窟の中だというのにキラキラと輝いている。


 わぁ……。直視するのをためらってしまうくらい、キレイな人だ……。


 泣きべそをかいて仕事をしていたから、頼りなさそうだなと思っちゃったけれど、女神様としての威厳や風格はちゃんとあるんだね。


 わたしはそう考えて、アマテラス様を見直しかけていたわけですが……。


「わたしがうずめのプリンを食べちゃったから、怒って高天原に来なくなったのかなって心配してたの。わたしのこと、嫌いになっていないですよね? ねぇ?」


 アマテラス様は、目をうるうるさせながら、すがるような口調でわたしに言った。


 人のプリンを食べるのは、たしかによくないことだけれど、そのことを十数年も気にしていたの? 何だか、子どもっぽい女神様だなぁ……。

<うずめの一口メモ>

今回登場した「星の流れる川」は、天の川がモチーフになっているそうよ。

物語の後半でも説明があるけれど、アマテラス様が天岩戸に引きこもった時、困った八百万の神々が集まって対策を練った場所が天の川の川原だったの。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ