20 パワーアップですよ、女神様!
「観客のみなさん! 巫女アイドル隊のみんなと踊るので見てくださーい!!」
「いきますよ、うずめさん! ……いっせーの、はい!!」
わたしと巫女アイドル隊は、一度もダンスを合わせたことがないのに、奇跡的なほど息が合い、観客たちは「おお! すごいクオリティが高いぞ! 本物のアイドルみたいだ!」と驚いた。
いや、わたしもビックリ。なんでだろう。やっぱり、女神様と巫女たちだから波長が合うのかな?
ダイスキ☆ ダイスキ☆ うずめちゃーん♡
君の微笑み 苺もりもりパフェ☆
甘酸っぱさで胸がいっぱいなの♪ キュンキュン!
お願い わたしにも 微笑んで?
たった一秒でも 君の笑顔が見れなかったら ウズウズしちゃう!!
みんなのアイドル でもホントは独り占めしたいの♡
キュート キュート ストロベリー そ・れ・が うずめちゃん!!
かかと落としは女神様の護身術♪ のーてん炸裂♡
うーん、楽しい!!
とんでもない電波ソングだと思っていたけれど、こうやって歌って踊るとけっこう楽しいよ、この曲! それに、鈴ちゃんの予想通り、歌い踊るたびに力がみなぎってくるみたい……!
「う……うずめちゃんの体が光ってる! どうなってんの!?」
さっきから続く異常事態に頭がすっかり混乱してしまっているらしい雪音ちゃんが、口をあんぐりと開けて叫んでいた。
え? わたし、光ってる?
驚いたわたしは自分の体を確認しようとした。その瞬間――。
ピカッ! ピカピカッ!! ピカーーーッ!!!
「うおっ、まぶし!? く、くちょ~! とうとう、うじゅめが踊りの女神アメノウズメとしてかくちぇい……じゃなくて覚醒するのか!?」
まばゆい光はやがてパンッ! と弾け、赤い椿の花々となった。そして、無数の花たちは、変身途中(アレですよ。魔法少女が変身している途中で裸になるやつ)のわたしの体の周りをグルグルと激しく舞う。
わたしの緑なす黒髪は、肩にかかるぐらいの長さから足の太ももぐらいまでいっきに伸びた。若干、身長まで伸びたような気がする。
頭には椿の花のかんざし、手には華やかな意匠の扇子。服装はもちろんチアコス風巫女装ぞ……。
いや、待てよ。せっかくのアイドル・オーディションなんだし、アレでいこう。
「衣装チェーンジ!」
そう叫んだ直後、わたしは純白のビキニ姿となった。腰には丈が短めの赤いパレオが巻かれている。
「アイドルといえば水着! というわけで、ジャーーーン!! うずめちゃん水着風巫女装束だよ!!」
「どこらへんが巫女服なのじゃ!?」
よほど納得がいかないのか、ウカちゃんが悲鳴に近い声でツッコミを入れてきた。
うるさいなぁ~。上は白、下は赤。基本は守っているじゃない。細かいことを気にしていたら禿げるよ?
「テッテレー! 超うずめちゃん、ここに爆誕♪ パワーアップしたせいか、髪の毛もアホみたいに増量だぞ☆」
パワーアップした直後から何だかいつもよりノリノリな気分になってきたわたしは、モデルみたいにポーズをとり、ウィンクをしながらそう言った。
「ぶふぅーーーっ!!」
悩殺された猿田くんが鼻血を五メートルぐらい飛ばして、ぶっ倒れる。他の観客たちも、あちこちで「ぶふぅーーーっ!!」と鼻から赤い噴水を噴き出していた。
「うえぇぇぇ!? う、うずめちゃんの胸が……胸が増量している!? なんで? なんで、なんで!?」
雪音ちゃんがパニックになってそう叫ぶ声が聞こえた。
え? わたしの胸が増量? どれどれ……。
ぺたぺた。ぺたぺた。たわわん、たわわん。
「な、なんじゃとて!? こ……これは間違いなく五穀豊穣……!! な、なぜ急にこんな……」
「き、きっと、女神様からスーパー女神様にパワーアップして、霊力が膨れ上がったから、お胸も膨れ上がったっす!」
「なるほど、名推理だよ! 椿ちゃん!」
そういえば、昔のわたしは豊かな胸だったって猿田くんも言っていたもんね。神様としてパワーアップして、最盛期だった頃の女神アメノウズメに近づいたから、バストのほうも最盛期に……! こんなに嬉しいことはない!!
え? 人間は見てくれじゃない? うん、分かってるよ。でもね、でかくなったものは喜んでもええやろ!? 文句ある!?
「う、うずめさん! にやけ顔をしながら公衆の面前で自分の胸をわしづかみにしている場合ではありません! アイドルの審査対決の途中ですよ!?」
鈴ちゃんが顔を赤らめながら、わたしに注意をした。真面目な鈴ちゃんには、あまりにもはしたない行為だったようだ。……と思ったら、鼻血だらだらに流してますやん。
いや、普段のわたしだったら、こんなはしたないことしないんだけどね。何だか気持ちが開放的になっちゃってさ、今ならすっぽんぽんで踊っても恥ずかしくないかも?
「うずめさん、あまり気の赴くままに行動しないように注意してください! 普段のうずめさんには、人間の娘として育てられて培った常識や慎みがあります。しかし、今のパワーアップしたうずめさんは、日本最古のストリッパーと呼ばれるアメノウズメの超開放的な性格に引きずられ、人間・笑美うずめとしての羞恥心は頭から吹っ飛んでしまっている状態です。気の赴くまますっぽんぽんで踊ったりしたら、社会的に死んじゃいますよ!? 絶対、元に戻った時に後悔しますから!」
いつも温和なトヨちゃんが、珍しく強い口調でそう忠告をしてくれた。
なるほど。…………でも、後で記憶操作すればいいんじゃ……。
いやいやいや! 落ち着け、うずめ! 人間としての理性を保て!
「わ、分かった! 脱がないようにがんばる!」
「と言いつつ、ビキニの肩紐に手を! ダメですってば! 何も考えずに踊ってください!」
「あ、あいあいさー! ええと、こほん……。笑う門には、笑み美しき女神来たる。この世の悲しみに翻弄されるみなさんの憤り、わが舞で笑いの花々に変えてみせましょう」
わたしは決め台詞を言うと、扇子をパラパラと開き、踊りだした。鈴ちゃんたち巫女アイドル隊も、疲労困憊ながらわたしに合わせて踊ってくれる。
キスミー☆ キスミー☆ うずめちゃーん♡
君の唇 ぷるぷるプリンパフェ☆
可愛いお口に目が離せないの♪ キュンキュン!
お願い わたしにも 投げキッスちょうだい?
たった一秒でも 君とお話できなかったら 心拍停止しちゃう!!
みんなの友達 でもホントは独り占めしたいの♡
ぷるん ぷるん プリン そ・れ・が うずめちゃん!!
かかと落としは女神様のご褒美♪ ありがとうございます♡
わたしの歌と踊りは、完璧だった。いつにも増してダンスはキレッキレで、その美しさも芸術的な仕上がりだ。誰も文句をつけようがない。客観的にそう思えるほど、巫女舞を舞っている時のわたしは神々しく輝いていた。これが、踊りの女神アメノウズメの実力――。
「う、うおおおお! すげぇ! 歌詞は電波だけど、歌声とダンスが神すぎる!」
「それに、さっきまで何だかイライラして攻撃的になっていた心が、ポカポカと温かい気持ちになって癒されていくような……」
「……オレ、なんで女の子に物なんか投げたんだろ。あんなひどいことをした自分が恥ずかしい……」
わたしが舞うたびに生じる色とりどりの花々。それらはガラスの壁をすりぬけて人々に降り注ぎ、花の雨を浴びた観客たちの心は次々と浄化されていった……。
「ああ! 観客たちの体から光の玉が出てきたっす……!」
「あれが、わたしたちの女神様への信仰心……なのですね。どんどん、女神様の頭上まで飛んでいき、一つの大きな光になって……いきます」
「す、すごい大きいっす! 邪神のお仲間が集めた光よりもずっと……!」
椿ちゃんと名取さんが言うように、わたしの頭上には直径五メートルほどの光の玉が燦然と輝いていた。キャラかぶりデスマッチは、わたしの勝利だ。
「……やっぱり、うずめさんはすごいです。さすがは、わたしがずっと憧れていたお方……。ダメダメなわたしなんかが、敵うはずありませんでした」
「ミヤっち……」
泣き笑いしながらわたしを見つめるミヤっち。彼女の体は――。
薄っすらと、しかし確実に消え始めていた。
「そ、そんな! そんな! み……ミヤっちが死んじゃう! 嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃーーーっ!! だ、誰か助けてくれーーーっ!!」
ウカちゃんの悲痛な叫び声が、デパートの屋上に響き渡った……。
<雑談コーナー:うずめ×トヨちゃん>
うずめ
「祝・うずめちゃん巨乳化!! やったね! これで五穀豊穣な胸の仲間入りだぜ!」
トヨちゃん
「あの……非常に言いにくいのですが……。パワーアップ状態がとけたら、元の体に戻るらしいです」
うずめ
「ほえ!? な、なんでさー!!」
トヨちゃん
「ええと……。作者さんからの伝言を預かっています。『貧乳派、巨乳派。あらゆる需要にこたえるのが神アイドル・うずめちゃんなのさ!!』ということです」
うずめ
「…………そ、そんな馬鹿な」(白目になって倒れるうずめ)




