1 突然の告白
主人公のうずめちゃん登場回です。
児童小説は、主人公となる女の子の一人称で物語が進んでいく作品が多いので、私もそれにならったのですが、けっこう大変でした……。
それでは、ご覧ください!
カキーン!
初夏の太陽の光がガンガンと降りそそぐ下、球場に軽快な音がひびき、観客たちはワーッと歓声をあげる。
花美学園野球部の期待のルーキー、福永くんが、豪速球で知られるライバル校のピッチャーが投げた球を見事に打ったのだ。
「やった! 形勢逆転のチャンスだ!」
花美学園野球部を応援していた、わたしたちチアリーディング部は大はしゃぎした。
九回の裏ツーアウト、わが花美学園は三点、試合相手の学校は五点。
ここで福永くんがアウトになると、一巻の終わり! 無念の敗北! ……になるところだったのだけれど、福永くんはやってくれた! すごいねぇ、入部して間もない一年なのに。
守備についていた敵選手は、福永くんの打った球をキャッチしそこない、二塁と三塁にいた先輩たちが「今だ!」とばかりに走る! もちろん、福永くんも走る、走る!
「フレーフレー、は・な・み! フレフレ、花美! フレフレ、花美ぃ~!」
全員おそろいのピンクのチアガールのコスチュームを着たわたしたちは、ピョンピョンと跳ね、両手に持ったポンポンをふりふり振って、必死に走る福永くんたちに声援を送る!
「やったぁーっ! 逆転だーっ!」
先輩二人、そして、福永くんも何とかぎりぎりでホームベースに駆けこみ、三点追加!
六対五で花美学園の勝利だ! わたしたちは抱き合い、逆転勝利を喜ぶのだった!
おっと、いきなり興奮しまくりで話を始めて、めんご、めんご。
わたし、花美学園一年生の笑美うずめ! 十三歳!
チアリーディング部に所属していて、野球部やサッカー部、バスケ部、他にもいろんな部活で対外試合がある時に、こうやって元気はつらつ、精一杯に応援をしております!
まあ、わたしも運動神経は悪くなくてスポーツ大好きなんだけれど、もっと好きなのは人を応援することなんだよね。「がんばれーっ!」って、わたしが応援して、
「うおおお! 声援をもらったら、ヤル気がわいてきたぁぁぁ!」
みたいに、がんばっている人がさらにがんばって輝いているのを見るのが好きなの。
昔から「うずめちゃんに応援してもらえると、不思議と勇気がわく」と、友だちの間でももっぱらな評判だし、わたしにそういう才能(?)があるのなら、活かしてみようと思ってチアリーダーをやっているわけ!
「福永くん、かっこよかったね! うずめちゃん、福永くんをちゃんとほめてあげないとダメだよ?」
試合が終わった後、わたしたちチアリーディング部は、球場の外で野球部のみんなが出てくるのを待っていた。もちろん、「おつかれさま!」ってねぎらいの言葉をかけるためだ。
待っている間、わたしと仲が良くてクラスも同じの山路雪音ちゃんが、ニヤニヤと笑いながらわたしのひじをつついて、そんなことを言った。
「そりゃあ、クラスはちがうけれど同じ一年生だし、今日の試合で一番活躍したんだから、がんばったねってほめてあげるつもりだよ。でも、なんでそんなことをわたしにわざわざ言うの?」
「なんでって……。うずめちゃん、もしかして、福永くんの気持ちに気づいていないの?」
「へ? 福永くんの気持ち? 何のことさ」
わたしが首をかしげると、雪音ちゃんは「はぁ~。やれやれ」と盛大にため息をついた。
「もう、本当に鈍感な子なんだからぁ。あのねぇ、福永くんはうずめちゃんのことが……」
「あっ、野球部のみんなが出て来たわよ!」
雪音ちゃんが何かを言いかけたけれど、後半のセリフはチアリーディング部部長の大声でかき消されてしまった。
「よう、笑美。オレの最後のプレイ、見ていてくれたか?」
勝利して意気揚々、さわやかに笑いながら福永くんがわたしにそう声をかけた。
「うん! すごかったじゃん! やるねぇ、新入りのひよっこのくせに」
「ひよっこは余計だ」
福永くんはそう言いながらも、とてもうれしそうだ。初めて出場した試合で活躍できたのだから、あんなにニヤついてしまうのも当然かな。
「あ……あのさ、笑美。今日、この後、予定とかあるか?」
突然、福永くんが恥ずかしそうにうつむきながらそんなことを言った。
「え? 予定? 別にないけれど?」
何の考えもなしにわたしはそう答えた。……後ろで雪音ちゃんがなぜかムフフと笑いながらこっちを見ている。さっきから何だっていうの、雪音ちゃん?
「じ……じゃあ、ちょっと付き合ってくれないか? 話したいことがあるんだ」
「ん? 何? 相談ごと? いいよ」
わたしは、またもや考えなしで、にへらと笑いながら答えた。
自慢じゃないけれど、わたしは友だちが多い。いつも(緊張感なく)笑っていて、だれとでも(なれなれしいくらい)フレンドリーに接する性格のおかげだ。
町内の親戚、ご近所さん、たまに道をすれちがうおじさんとペットの犬、学校の生徒から先生にいたるまで、老若男女関係ナッシング!
出会った人はみんな友だち! それがわたしのライフスタイルだ。
え? ちょっと極端すぎないかって? そうかなぁ~。
わたし、たまに夢を見るんだよね。いつもわたしのそばにいてくれて、大、大、だーい好きだった人が、わたしを置いてどこかに行ってしまう夢を。
それはだれなのか……実は、わたしにも分からない。だって、夢だし。
でもさ、そんな夢をしょっちゅう見るものだから、縁があってめぐり会った人ともいつかは別れがある、だったらひとつひとつの出会いを大切にしたいと思っちゃうわけですよ。
そんなだれに対しても超フレンドリーなわたしは、男女問わず、すごく話しやすい存在らしい。だから、学校の友だちから、友人関係、勉強、恋愛など、相談に乗ってほしいと頼まれることが多いのだ。
恋愛相談は、わたしが経験ゼロだから、大したアドバイスとかできないんだけれどね……。
でも、野球一筋の福永くんが恋愛相談とかあり得ないだろうし、ちょっと相談に乗ってあげますか!
というわけで、わたしと福永くんは一緒に帰り、駅前の喫茶店でお話したのだけれど……。
☆ ☆ ☆
「好きだ、笑美。オレと付き合ってくれ」
「…………」
お、おいおい、意外にも恋愛相談だったよ。でも相談されているんだからちゃんとアドバイスしないと。ところで、その笑美っていう女子は何年何組の生徒だ。……ていうか、
わたしかっ⁉
も、もしかして、雪音ちゃんがわたしに言おうとしていたことって、福永くんがわたしに好意を寄せている……ということだったの?
わたしには男子の友だちもたくさんいるけれど、がさつで女の子らしくないわたしをそういうふうに見ている男子なんていないと思っていたよ……。
それが、一年の女子に人気で野球部の期待の新人、福永くんに告白されてしまうとは、ビックリ……というか、テレビとかでよくあるドッキリじゃないかと疑ってしまうレベルだ。
「……言っておくが、これはドッキリなんかじゃないぞ」
わたしが「ドッキリでした!」というプラカードを持った学校の友だちが喫茶店のどこかに隠れているかもと思い、周囲をきょろきょろ見回していると、福永くんがそう言った。
「笑美だって、オレのこと好きなんだろ? 今日の試合、オレのほうばかり見て、応援してくれていたじゃないか」
い、いや……それはちょっと自意識過剰ですぞ、福永くん?
そういえば、雪音ちゃんが言っていたっけ。恋をしている人は、「相手も自分のことが好きかも」って、自分に都合のいい解釈をしちゃうことがたまにあるって。
でも……でもね、福永くん。悪いんだけれど……。
「……ごめん! わたし、好きな人がいるからっ!」
「そうか! やっぱり、オレのことが好き…………じゃないの!? ええ!?」
福永くんはそうさけぶと、口をあんぐり開けたまま硬直。メロンソーダーが入ったグラスをポロリと手から落としてしまい、野球のユニフォームはビショビショになった。
す、すまぬ……。すまぬ、福永くん……。
☆ ☆ ☆
「あーあ……。やっぱり、中学生になると、こういうことが起きちゃうのかなぁ」
魂がぬかれたようになった福永くんを彼の家の近くまで送った後、わたしは一人、夕暮れ空を見上げながら家路を歩いていた。
小学生のころは、男とか女とか、あんまり気にせずにみんな仲良く遊んでいた。
でも、わたしたちは、異性が気になるお年ごろになってしまった。青春時代ってやつだ。
わたしがあんまりにも男女関係なくフレンドリーなものだから、福永くんに勘ちがいをさせちゃったのかも。
う~ん。わたしのだれとでもフレンドリーに接しちゃう性格はなかなか変えられないし、困ったなぁ。それに……。
「好きな人がいる……か」
わたし、福永くんにあんなことを言っちゃったけれど、わたしの好きな人って……。
いつも夢に出て来て、最後にはわたしを置いて行っちゃう、あの人なんだよね。
夢の中の架空の人物にほれるなんて頭大丈夫かと思われるかも知れないけれど、夢で出会う彼のことを考えると、何だかとても心が切なくなるんだ。
顔はぼやけていてハッキリ見えない。でも、すごく優しい目をしているんだよ。
福永くんに告白された時、わたしは真っ先に夢の中のあの人の穏やかな眼差しを思い出し、わたしには彼がいるのに他の人なんて……と思ってしまった。
「……わたし、もしかしたら、夢の中の彼がわたしを迎えに来てくれるのを待っているのかも」
夢の中の恋なのに、わたしって、やっぱり、変だよね。
わたしがそんなことを考えて、ボーっと歩いていると、ゲロゲロという声が聞こえた。
足元を見ると、一匹のカエルがゲロゲロと鳴きながらわたしを見上げている。
やべえ、カエルを踏んづけちゃうところだったよ。
「ごめんね、カエルさん。…………ん?」
ふと前を見ると、だれかがいた。
身長はわたしより少し高いくらい。山で修行をしている山伏みたいな服装をしている。そして、なぜか顔には天狗のお面。
……な、何だ? この怪しさMAXな人物は?
わたしが、心の中で警戒のサイレン音をウォンウォン鳴らしながら、一歩後ずさると、天狗のお面をした彼(?)は、わたしに一歩近づいた。
「わ、わたしに何か用? ていうか、あんたはだれ……?」
わたしは勇気を出して、そう言った。しかし、最後まで言い終わらないうちに、彼はわたしに急接近をして、
ガシッ!
と、わたしの右手を両手でつかんだのだ!
そして、わたしの手を自分の胸元まで引き寄せ、
「ようやく会えたな、わが妻よ。待たせてすまない……。甘い夫婦生活の続きをしよう」
と、わたしの耳元でささやいたのである。
へ……へ……へ……。
「HENTAIだーーーっ‼」
絶叫して手をふりほどいたわたしは、無我夢中で走り、逃げ出した!
ここは人通りが少ない田舎道だ。助けを呼んでもだれも来ない! 自力で逃げないと!
「なぜ逃げる? 待ってくれ!」
「待てと言われて待つ馬鹿がいるか! HENTAI!」
そう罵りながら振り向くと、天狗仮面(?)はすぐ背後にいた。あ、足が速い!
ゲロゲロ! ゲロゲロ!
何だか知らないけれど、カエルまで一緒になって追いかけて来てるしぃ~!
「ひ……久しぶりに再会した夫の顔を見て、逃げるなんてひどいじゃないか!」
お、夫とか言い出しましたよ、このHENTAI! 捕まったら、絶対にヤバイ!
「中一で夫を持った覚えなんて……ないわよーーーっ!!」
このまま逃げても追いつかれると思ったわたしは、急ブレーキして振り返り、片足をバッといきおいよく上げ、気合一声、力任せに振り落とした!
お父さん直伝、かかと落とし!
乾坤一擲の技は、天狗のお面の長い鼻に命中し、バキッと折れた。
「お、オレのお面がーーーっ!」
お面を破壊されたのがよほどショックだったらしく、HENTAIはわたしを追いかけることをやめて、何やら泣きわめいている。
「い、今だ!」
わたしは、そのすきをついて何とか逃げることに成功したのであった。
お父さんから護身術を習っておいて、本当によかったぁ~……。
<うずめの一口メモ>
武道家のお父さんから教わった技の中でも得意なのは、かかと落とし!
HENTAIを撃退できる程度には武術の心得があるよ!