『船幽霊(もうれんやっさ)』 ~海魔の章~
(あ、華音様。おしさしぶり〜)
(いやー何年ぶりだろうねぇ♪)
うちは、海から顔を出すと、巫女服(と言うらしい)姿の幼い女の子・・・華音様に挨拶をする。
「うむ、久しいな。」
「えっと、この可愛い子はいったい?」
(可愛いだなんて、正直な子だねぇ〜お姉ぇさん嬉しいよ?)
其処には見かけた事のない少女が居た。
花子さん・・・以外にも、華音様の関係者っておったんねぇ?
それにしても、普通の人間・・・に見えるなぁ?
「香奈、こう見えても海魔『クラーケン』だぞ?」
(華音様、こう見えてもってのはお互い様ですよ?)
(それに、華音様程ロリじゃありませんよ?)
「誰がロリか!」
「・・・今日2回目だ。」
「あは、あははははは」
あれ?ロリって可愛い女の子の事を差す褒め言葉・・・だと思ったんやけど?
うちの言動は周囲に乾いた笑いをもたらす事となった。
「さて、本題に移ろう。」
多分、華音様の言わんとする事は、アレの事だろうね?
(あ〜大体分かります。)
(海の中のアレの事ですね?)
(うちらも、アレには困ってたんですよぉ〜)
「ふむ、して、何がある?」
(多分ですが、『霊石』の一種・・・だと思いますよ?)
(それも、カナリやばめのヤツですよ?)
(うちらじゃ、うっかり触れないシロモノですよぉ〜)
(できれば、封印もしくは破壊して欲しいなぁと思いますよ?)
そう、うちらじゃ手が出ん。
霊的な物を引き寄せる『霊石』の様な物。
それが、うちの見解やね?
精霊・・・海魔であるうちが手を出せば、引き込まれてしまう可能性が高い。
「『船幽霊』を引き寄せた原因もそれだろう。」
「『符』を使う。」
「はい、『白符』と筆です。」
そばに控えていた、花子さんが華音様に『符』(だと思う。)と筆を手渡す。
華音様は、其れにさらさらと文字を走らせる。
「文字には力がある。」
「って誰かが言っていたが、それは本当だ。」
言いながら華音様は、ひとつの『符』を完成させた。
『大爆発祈願』と書かれた『符』。
未だに意味が分からないのだが、アレで大爆発が起こるんよね・・・
「これにチカラを込めれば大爆発する『符』の完成だ。」
「っと忘れていた。」
華音様は、『大爆発』の『符』にさらさらと文字を書き足す。
『防水祈願』
まあ、そんな『符』よりも、華音様が一番不思議・・・なんやけどね。
その他にも数枚・・・華音様は『符』を完成させた。
「連絡用に・・・コイツを連れて行く。」
華音様は、ひょいっと黒い猫を持ち上げる。
華音様の使い魔なのだろうかね?
「あ、この子、いつもいる黒猫ですよね?」
「この子も、『霧島華音』の子なんですよ〜」
「じゃあ、行ってくる。」
「クラーケン、案内を頼む。」
(ほーい、華音様。)
うちは、華音様・・・と黒い猫の周囲に泡のようなモノを作る。
人(と、猫。)・・・が、水中で活動できるよう、酸素を取り入れ二酸化炭素を・・・
・・・まあ、面倒くさい説明は抜きとして、そんな感じのモノ。
華音様と黒い猫(黒い猫は華音様に抱きかかえられて)は海の中に入る。
泡は問題無いようね?
うちは、華音様の手を握ると、『霊石』(だと思われる)モノの下へと泳ぐ。
(そういや、華音様。)
(あの・・・香奈ちゃん?って言う子・・・華音様の関係者です?)
「いや、香奈は・・・普通の人間だ。」
「何て言うか・・・友達・・・だ。」
恥ずかしいのか、だんだんと声が小さくなる。
(まあ、それはそれは♪)
華音様は、特殊な環境に居られる方や・・・友達がいると聞いた事が無い。
これは、華音様にとって良い影響をもたらす・・ハズやねぇ?
「な、何だ!?、私にだって友達の10人や20人いるぞ!?」
「・・・オンラインゲームに。」
(クスクスクス・・・)
(はい、はい、分かりました。クスクスクス・・・)
「クラーケン!馬鹿にしてるだろう?絶対に馬鹿にしているっ!!」
子供みたいに、むきになる華音様。
こうしてると、見た目の年齢通りなんやけどね?
っと・・・そんな話をしていると、前方に大量の『船幽霊』が見えてくる。
(華音様!)
「うむ。」
その『船幽霊』の大群の真ん中に・・・『霊石』(と思われるモノ)が見えた。
「此れが・・・何故、此れが此処にある!?」
(華音様?)
「此れは、此処にはあってはならないモノだ。」
「此れは・・・」
『楔』
「此れがあるという事は・・・」
「兎に角、破壊しておくしかない。」
華音様の顔には焦りとも、驚きとも取れる表情が浮かぶ。
「花子っ」
「今から・・・」
華音様は地上に連絡を取っているようだ。
多分、これから破壊するにあたって、その影響について連絡しているのだろうね?
「クラーケン。」
(はい、華音様)
うちは、華音様から距離を取る。
華音様は、一枚の『符』を取り出すと、『楔』に向かって飛ばす。
泡の中から放たれた『符』は、さらに小さな泡をまとい、大気中と変わらぬ様に真っ直ぐ『楔』に触れる。
『楔』に触れた『符』は、うちが作った泡のような・・・と言うより、透明な薄い殻を作り出す。
周囲に居た『船幽霊』も、中にしっかりと閉じ込める。
華音様は、さらに『符』をもう一枚飛ばす。
薄い殻を無いモノの様にすり抜けて、『楔』に触れる。
『符』よりチカラが解放される。
『大爆発祈願』
ずしんっ
っと、周囲が震えた。
薄い殻の中は、『楔』の破片的な物や、周囲の砂を巻き上げて煙・・・の様な物に包まれる。
ぱりんっ
と軽い音をたて、殻が破れる。
『楔』は跡形も無かった。
「・・・戻ろうか。」
(はい。)
十数分後、うちらは元の漁港へと戻ってきた。
華音様が、地上に上がったのを確認し泡を解除する。
(ありがとうねぇ、華音様)
(じゃあ、うちは帰るね?)
それだけ言うと、うちは海へ潜った。