『願いが叶う壺』 ~香奈の章~ 其の二
「話を聞く前に、名前くらい聞かせてもらおう。」
「あ、すみません。私は桃井香奈といいます。」
「霧華高に通ってる高校3年生で、17歳です。」
「それで、この『壺』なんですが・・・」
『願いが叶う壺』
叔父が持っていて、手紙・・・遺言によれば、この所為で叔父は亡くなった。
「あ、それでしたら、ゴミの処分場に行かれた方が・・・」
「馬鹿かお前は・・・」
「”『処分』しようとしたが、出来なかった”から此処に来た。」
「はい・・・捨てても何時の間にか部屋にあるんです・・・」
「詳しく話を聞こう。」
華音さんに席を薦められ、ソファーに座る。
「はい、実はこの『壺』は『願いを叶える壺』なんです。」
「願いを叶える!?」
「って、なんでそんなものを捨てるんです??」
「黙れ馬鹿。」
「続きを頼む。」
頭ごなしに馬鹿と言う華音さん。
けっこうキツイ人・・・なのかな・・・
「実はこの『壺』の持ち主は叔父なんです。」
「叔父はこの『壺』を手に入れて以来、幸運に恵まれたらしいです。」
「宝くじが当たったり、仕事も大成功したそうです。」
「しかし、先週亡くなりました。」
「事故・・・だったそうですが、葬儀の後『遺言』らしきものを見つけたんです。」
「内容はこうです。」
私はもうすぐ死ぬかもしれない。
私が死んだ後、『壺』を『処分』して欲しい。
あれは、『願いを叶える壺』なんかじゃない。
最初は幸運に恵まれるかもしれない。
しかしそれは『罠』だ。
その後、どんな恐ろしいことが起こるかわからない。
どうか『壺』を『処分』して欲しい。
決して、『壺』に願いを言わないように・・・
「その『遺言』を知っているものは?」
「・・・私だけです。」
「『壺』は絵画のモデルにすると言って、私が貰いました。」
「その後、『処分』しようとすると、戻ってきてしまうんです。」
「『壺』の『契約者』が君に移ったようだな。」
「願いは?」
「それが・・・」
「勝手に・・・勝手に願いを叶えるんです!!」
「ちょっと、いいなぁとか口に出しちゃった事とか・・・」
「・・・ふむ、分かった。」
「失礼、少々『壺』を見せてもらおう。」
古ぼけた、黄土色の『壺』
多少のひびはあるが、しっかりしている様に見える。
そして・・・規則性のある『謎の紋様』
「結論を言おう。」
「その『壺』は『悪魔』だ。」
いきなり突拍子もない事を言う、華音さん。
でも・・・私も普通じゃないとは思う。
「願いが叶った分の魂が奪われる。」
「願いが大きい程、奪われる魂も多い。」
「つまり・・・最悪は死ぬと言う事だ。」
「わ、私・・・死ぬんですか?」
や、やっぱり、叔父と同じように私も・・・
「大丈夫、方法はある。」
「その『壺』を誰かにあげる事だ。」
「そうすれば、叶った願いの分だけしか魂は奪われない。」
「ささいな願いであれば、問題は無いだろう。」
「で、でも、その『壺』を貰った人は・・・?」
「『壺』の秘密を知らなければ死ぬ。」
「しかし、教えたならば貰ってはくれないだろう。」
「そ、そんな・・・」
「だったら、私はどうしたら・・・」
静まりかえった店内で、ぐるぐるといろいろな思考が浮かぶ。
私が・・・死ぬでも、助ける為には・・・
いっそ、誰かを騙して・・・いや、そんな事・・・無理。
そもそも、人付き合いが苦手な私に・・・
「か、華音様・・助けてあげましょうよ?」
そうか・・・これは・・・
私が招いてしまった事。
私が夢を見てしまった事。
私に勇気がなかったばかりに招いてしまった結末。
でも、私・・・
どうしたら良いのか分からない。
「香奈・・・だったな。」
「『遺言』の事を他の親族に内緒にし、理由をつけて『壺』を持ち帰った。」
「それは、願いがあったからだ。」
「少しくらいなら・・・と思い、願いを言った。」
「だが、危機感を感じ『処分』しようとした・・・違うか?」
「・・・はい、その通りです。」
「私には悩みがありました。」
「・・・友達が居なかったんです。」
「それで、『壺』にお願いをして・・・」
「それは、本当の友達じゃないと思います。」
そう、”本当の友達”じゃなかったんだ。
『壺』によって出来た友達は、何か・・・違う・・・。
そんな思いを感じてきてはいた。
「その通りだ。」
「香奈自身も、それは分かっただろう。」
「はい・・・」
「ふむ。」
華音さんは、ぽんと手を叩き・・・
「『霧島華音』で買い取ろう。」
「そうだな、お代はこの『壺』の鑑定料と同額いただこう。」
「鑑定額と買い取り額が一緒ってどこのボッタクル商店ですか!!」
「それでは、華音さんが・・・」
「『壺』の『処分』の方法は心得ている。」
「だが、買い取ると君の魂を奪いに来るだろう。」
私は助かる。
でも、華音さんに危険が及ぶのは間違いない。
大体、会ったばかりの私に、何故ここまでしてくれるのだろう?
それでも私は助かりたかった。
無意味な・・・何も無い毎日を過ごすだけの私。
「・・・わかりました。」
「よろしくお願いします。」
と答えた。
「って、私のツッコミはスルーですか!!」
「花子。」
「は、はいっ華音様!」
「お茶入れてきて。」
お茶を飲みながら、華音さんは何やら書類??の様な物を作った。
譲渡する・・・みたいな内容の書類。
私はそこにサインをする。
「これで、この『壺』の所有権は移った。」
「では、香奈さんが・・・」
そう、これから私の魂を奪いに・・・『悪魔』がやってくる。
・・・ハズ・・・
「まだ大丈夫。」
「『霧島華音』にいる限りは。」
しかし、大丈夫と言う華音さん。
ここは、”そういう”所・・・らしい。
「花子」
「結界を張る、フロアに出ろ。」
「はいっ華音様」
「香奈は、結界の外で待て」
「はい?」
何やら、良く分からない事を言ってフロアに出る二人。
私は扉をちょっとだけ開けて、様子を見る。
「結界」
華音さんのが言葉を発すると、透明な殻??の様なモノが現れた。
これが、結界と言うものなんだろうか?
余り状況について行けない私なりに、そう判断する。
「では、願いを叶えて貰う。」
「へ?華音様??何を言って・・・」
「『壺』よ」
「この世から不幸を無くせ。」
華音さんがそう言うと、『壺』にひびが入るような音がした。
ぴき・・ぴきぴきぴき・・・
「この手のモノは、願いが叶えられないと、本性を現す。」
「『此の手』の『壺』は良くある。」
曰く、
3つの願いを叶える『壺』。
願いを叶えた後、買った値段より安い値段で売らないといけない『壺』。
等々・・・
共通するのは、『最終的に命を奪われる。』のである。
「本性を現し、具現化した所を『処分』する。」
「それってつまり・・・」
「バトルって事ですかぁぁぁぁぁぁぁ??」
ぴきぴきぴきぴき・・・ぱりん。
『壺』が割れて、中から『悪魔』が現れた。
・・・2本の角を持ち、2足歩行した牛の様な様相。
背中には羽?の様な物も生えている。
「花子、ちょっと強めのヤツをやる。」
「暫く時間を稼げ。」
「え??」
ドーン
『悪魔』は火球を生み出すと、二人に向かって投げつけた。
地面に着弾した火球はドーンと言う、音をたてて炸裂する。
「きゃっ」
扉の影から見ている私が目を覆いたくなるような爆破・・・
・・・だったけど、結界の外には何の影響もない。
その後も火球を連射する『悪魔』。
「話が違いますよぉぉぉおぉ」
ドドドーン
バスケットボール程の先程より大きい火球が炸裂し、轟音が鳴り響いた。
「ちょちょちょ、華音様?何とかして下さいよぉ?」
花子さんは結界内を逃げ回っている。
「・・・情けない声を出すな、花子。」
「暫く時間を稼げと言っただろう?」
「も?無理っ絶対無理ですぅぅぅうぅ〜」
「あれ、絶対グレーターデーモンですって!!」
「良かったじゃないか、仲間を呼ばせれば、いい経験値稼ぎになる。」
「むちゃくちゃ言わないでくださ・・・」
ドーン
またも火球が炸裂した。
「あぶなーーー」
「って言うか、結界狭すぎじゃありません?」
「・・・エコロジー」
「この際、エコは気にしないでください!!」
二人が戦っているのは、多分スーパーマーケットだった時、フロアだった部分だと思う。
割と広い・・・と言っても、戦うのに十分・・・な気はしない。
「あーもう無理?」
「無理ですぅぅうぅぅ??」
そんな花子さんだけど、『悪魔』の放つ火球はかすりもしない。
「そもそも私、攻撃系持ってないんですからぁぁぁぁぁ」
ドドドーン
また、バスケットボール程の大きめの火球が炸裂した。
「華音様ぁ?まだですかぁ?」
花子さんは、華音さんの方を見る。
「花子」
「はいっ華音様っ」
その声を合図に花子さんは『悪魔』から距離を取った。
「熱閃爆炎」
華音さんが言葉を発すると、赤い線??の様な物が一直線に『悪魔』に放たれた。
そして、『悪魔』に触れると、轟炎となって結界内を覆い隠す程の炎となった。
「え・・華音さん! 大丈夫ですか!!」
私は思わず、扉の外に身を乗り出した。
しかし、花子さんの声が思わぬ方向から聞こえた。
「あ?大丈夫ですよぉ」
「結界がありますから?」
華音さんと花子さんは、事務所の別の扉から出て来たのである。
「え? 花子・・・さん?」
「いったい何処から・・・」
「何処って、そこのトイレから出てきたんですけど?」
「まあ、これで解決ですねぇ?華音様?」
「うむ。」
「え、えええ?」
訳が分からない。
確かに二人はフロアにいたハズ・・・
フロアの方を見ると、炎は収まり、『悪魔』の姿は何処にもなかった。
そして、割れた『壺』がひとつ・・・残っていた。