『願いが叶う壺』 ~香奈の章~ 其の一
夏休みも、終わりになろうとする頃、叔父が亡くなった。
心臓の発作・・・と聞いたが、それまで医者にもかかったことが無いような人だったらしい。
生前叔父は、仕事で大成功をおさめ、宝くじで高額当選するなど、運が強い人という印象だった。
叔父は一人で暮らしていて、両親も他界していたので、私の家で葬儀を行った。
その後、母と一緒に叔父の家の片づけに行った。
私は其処で、一枚の手紙と『壺』を見つけた。
古ぼけた、黄土色の『壺』
多少ひびはあるが、割れてはいない。
そして、良く分からない『紋様』
そして、手紙には・・・
「お母さん、この『壺』貰ってもいいかな?」
「今度、絵画の授業があるんだ。そのモデルにしたいの。」
「こんな古ぼけた『壺』を描くの?」
「まあ、いいわ。どうせ捨てるのだから。」
手紙に書いてある内容は読んだ。
それでも、それでも、私には叶えたい願いがあった。
友達が欲しい。
私の・・・この何も無い毎日を終わりにしたい。
翌日。
私は学校の寮に帰った。
部屋に入ると、早速『壺』を取り出す。
「さあ・・・叶えてよ・・・私は・・・友達が欲しいっ・・・」
一瞬、『壺』が揺らめいたように見えた。
しかし、何も起こった様子は無い。
・・・馬鹿らしい。
こんな事で願いなんて叶うはずが無い。
さあ、明日から新学期だ。
また・・・何も無い毎日が始まる。
そう・・・思っていた。
朝、教室に入る。
何時もの様に、無言で席に着き、鞄から文庫本を取り出す。
そして、何時もの様に無駄に時間を過ごそうとした矢先だ。
「おはよう、香奈」
「あ、香奈〜おはよう〜」
え?何時も私の事など気にも掛けないクラスメイト達が次々と私の席に集まる。
「どうしたの?香奈??」
「なんか、ぼーっとしてるけど?」
「お、お、おはょぅ・・・」
私なりに挨拶をしたつもりが、変な声になってしまった。
「ぷっ香奈っなんか変だよ?」
「ほんとっあはははは」
「あ、そうだ、香奈〜今日の放課後、みんなでカラオケでもいかない?」
「いいねいいね〜そうしよう! いいよね。香奈。」
「あ、う、うん・・・」
「ほらーみんな席に着け〜ホームルーム始めるぞ〜」
「ちぇーまた後でね、香奈。」
何・・・これ・・・まるで、クラスのみんなが友達みたいに私に話しかけてきた・・・
もしかして・・・『壺』のチカラなの??
じゃあ、あれは本当に『願いが叶う壺』なの??
私に友達が出来た・・・出来たんだ!
休み時間は、みんなでおしゃべりして、放課後は遊びに行く。
テストの前にはみんなで勉強して、終わったらまた遊びに行く。
クリスマスやお正月なんかは・・・
わくわくした。
私の何も無い毎日は終わったんだ。
放課後、カラオケにみんなと行った。
私は大満足で寮へと帰った。
「楽しかった〜〜あ、でも、もうちょっと歌が上手ければなぁ〜」
『壺』が揺らめいた。
「え?今のは、願いじゃない!」
そう、願いをかなえ続けて貰ったら、手紙の事が本当なら・・・
『壺』はクローゼットの中にでも入れておこう。
これ以上、願いを叶えて貰わないように。
4日、5日と経つと何か違和感を覚えるようになった。
友達の輪の中心には私がいる。
みんなが私の事を気に掛けてくれる。
でも、それは・・・『壺』のおかげ。
・・・
・・・
・・・そうか、これは、本当の友達じゃないんだ・・・
もう『壺』は捨ててしまおう。
そして・・・また、あの何も無い毎日に戻ろう。
私は『壺』を川に投げ捨てた。
「これで、おしまい。」
「また、何も無い毎日が始まるわ。」
しかし、寮に帰ると『壺』が机の上に置いてあった。
今度は、市の処分場に持って行ってみた。
やはり、寮に戻ると『壺』は机の上にあった。
「なに・・・この・・・『壺』・・・」
このままでは私も叔父の様に・・・
「そ、そうだ・・・お祓いっ神社に持って行ってみよう。」
私は、近くの神社に『壺』を持ち込む。
神主さんを探すと、お祓いして欲しいと頼み込んだ。
「お嬢さん、この『壺』何処で手に入れたかは聞きませんが、これは良くないモノです。」
「正直、私の手にもあまります。」
「ここに、持っていきなさい。」
「華音様なら、きっと力になってくれる。」
神主さんに教えてもらった場所・・・『霧島華音』
店主の名前がそのまま店名になっている『不思議』の『何でも屋』
その場所は、銀座通り・・・『ココロード』にあった。
銀座とは名ばかりの閑静な商店街。
私は扉を開ける。
きぃぃぃぃぃ
少し軋む扉。
中には、大学生くらいの女性が立っていた。
「・・・店主の霧島華音さんでしょうか?」
私は女性に話しかける。
女性は、ため息を吐くと奥の机の方に向き直った。
「い、いえー、華音様はこの方です・・・」
「へ?」
其処には、大きめの机の影から頭をちょこんと出した小学生位の女の子が座っていた。
しかも、あれは多分・・・ゴスロリ・・・ってヤツだと思う。
「はぁ・・・もう、そういうリアクションは見飽きている。」
「で、ご用件は?」
私は『壺』を取り出す。
「すみません・・・この『壺』を『処分』してください。」