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『願いが叶う壺』 ~香奈の章~ 序
長い坂道を登り、校門をくぐり3階まで階段。
やっと到着した教室に入ると、私は無言で席に座る。
鞄から文庫本を取り出し、読み始める。
もう何回読んだかすら分からない小説。
別にお気に入りと言う訳ではない。
ただ・・・ただ・・・時間が潰せればいい。
そう、私は別に文学少女でもなんでもないのだ。
「はよーん、かおりん!」
「おはようございます。香織さん。」
「おはよう。知真、葉和。」
「ねぇねぇ〜聞いてよ〜かおり〜ん」
何時も騒がしい双子達の声が聞こえた。
双子達・・・特に赤い方?は、人見知りもせず誰にでも声を掛け、友達も多いように見える。
私も前に話しかけられた事があった。
その時は・・・魔法少女がどうとか・・・言っていた気がする。
そんな友達の多い双子達なら・・・声を掛ければ、私とも友達になってくれるだろうか?
そう、私には友達がいない。
友達を作ろうと頑張った事もあった・・・けど、なかなか声が掛けられない。
友達になってと言えない。
そんな事をぐるぐると考えていた。
「ホームルーム始めるぞ〜」
先生が来たので、文庫本を鞄に戻す。
今日も何もない一日が始まる。