かた、がたがたがた
なんとか無事に完成しました。怖いと感じて頂けたら嬉しいです
「私はなんて愚かなミスをやらかしたのだろう」
時間は二つの針が天を差す時刻。周辺には人は愚かタクシーすらも走っていないような何処と無く寂しい、暗い通りを自転車で疾走しているのが私。大学二年生の月島茉莉です。どうしてうら若き乙女がこんな時間に夜道を走っているのかというと、それは30分前に遡る・・
「さぁーて、レポートレポート・・っうわぁぁぁ!USB置いてきたぁ!!」
『茉莉、あんたやっぱそそっかしいね』
親友のあかりとSk○peでもやりながら残り3分の1程度になった日本文化論のレポートを始末しようと鞄を漁った時、肝心のUSBが入っていない事に気が付いた。あかりに突っ込まれたけれど正しくその通りで、昔っから色々な人に言われてきたから慣れているつもり・・だったけど流石にこりゃ無いわね。
「今から取ってきます!」
『そもそも大学開いてんの?』
「分かんないけど一夜漬けで何とかなる文字量じゃないから仕方ない」
こんな調子で家を飛び出し、そこまで遠くない大学に向けて大慌てで家を飛び出した訳です。夜中の学校なんて怪談の世界じゃ有名だけど現実セキュリティ堅くて警備会社が来るんじゃないかな。そうしたらレポートどころじゃ無くなるから閉まっていたら諦めて作り直すか単位諦めよう。
ダメ元で大学正門までやってきた私。手元にはスマホと鍵しか持ってないから何かあっても身を守れないけれど、別に廃墟に来た訳じゃないから怖くないもん!
慎重に門に手をかけてみる。幸いにも警報音とかも作動しなかったからひょいと乗り越えて先へと進んでゆく。知らずのうちに夜の大学という異空間に心躍らせている自分がいることにちょっと驚いたけれど一夏の冒険だね。小学生時代の気持ちを思い起こしながらスマホのライトを頼りに図書館のある5号館を目指す。夏の夜中だから少々蒸し暑いもののそこは日頃と異なる幻想的な雰囲気に包まれていた。
(守衛さんも今のとこ来ないし、これはお宝回収できるかも)
トレジャーハンター気分で5号館に到着。時間は既に1時半を回っていたけれど、奇妙な高揚感のお陰でたいして物怖じせずに正面へ。
「さて、開くかなっ!」
自動ドアの手前からとんとんと軽く助走を付けると扉はいとも簡単に開いた。
(・・何か変)
入れたことは勿論嬉しい。ただここまで随分と調子が良い気がする。もしかしてウチの大学にも幽霊が出たりするんじゃないかって思いが急に沸き起こって来てしまった。こんな時に限って頭の中では学校の怪談やら都市伝説のことが堂々巡りをする。
「あの~。守衛さん?居るなら返事してくだ・・・うわぁ!」
チキン化した私は居るかも分からない守衛に助けを求めるも当然ながら答える声は無い。それどころか背中に強い風を受けて半ば強制的に5号館の中に放り込まれてしまったのです。
「嘘でしょ!?ねえ、出してよ!開けて!」
さっきまでの余裕はどこへやら。扉の前でパニックを起こして情けないくらいに扉を叩く私。よく考えればロックがかかって正常に機能しているだけかもしれないけれどそんなことはお構いなしに泣きじゃくる。すると目の前の通路に警備の格好をした守衛らしき人物が現れた。
「守衛さん!守衛さん!」
さっきよりも大声で届くかどうか試すも守衛さんは私のことが見えていない様な感じでさっさと居なくなってしまった。
「そんな・・なんで・・」
その現実に一度は失望した私。けれど頭を切り替えて助けが来なければ裏から出たりいっそ一夜を明かしてやろうくらいの気分で奥へと足を進めた。
この大学では5号館の2・3階がメディアセンターで占められている。私のUSBはその内の3階奥の窓際に設置されたパソコンに挿してあるはずだ。夜のメディアセンターは元々降りているブラインドのせいで満足に月明かりを享受できず、気味が悪いくらいに暗く冷たい感じに見えた。
「うわ~っ夜中怖っ!」
その暗さに思わず声を漏らす。普段から私語厳禁だから騒がしい場所じゃないとは言え人っ子一人居ない環境とはかくも恐ろしいものだろうか。そんな思いに駆られながら室内階段を登り3階へ。けれど階段に居る間ずっと下から視線を感じた。ここヤバイんじゃないの?
時間はいよいよ丑三つ時。居ないと信じているけれど何か出てきても別に変じゃないよね。
「おばけさん。帰るまで大人しくしててよね?」
こんな幼稚な手段がこの世の者でなく更に怨念なんかを抱いて死んでいった連中に通じるかなんて分からない。でもこれしか浮かばないから許して欲しい。
わざと歩き方を音が出るようにしつつなんとかパソコンエリアにたどり着いた時に私は息を呑んだ。
私が使っていたパソコンに丁度ホラゲーに出てくる感じの灰色がかった男性が座っていたのだ!なにやら作業の最中らしいけれど画面は良く見えない。
「あの。すみません・・」
「何だい?」
男はゆったりした口調でこちらを振り返る。その顔には目玉が無く、口は反対に赤々としていた。
「ひっ!あの・・そこに挿してあるUSBを・・」
「忘れ物かい?ほら」
恐怖心を抑えて質問すると、男は親切にもUSBを抜いて差し出した。その指には獣の如く長い爪が伸びていたがどことなく穏やかなその印象に私の恐怖心は薄らいでいった。
「ありがとうございます。それでは」
「待ちたまえよ。君も物好きでこんなとこ来たんでしょ。もう少し付き合ってよ。ほらぁ、皆と一緒にさ。」
にたぁ~っと気味悪い笑みを浮かべた男の周囲にはいつの間にか男と同じいでたちの人間、正確にはこいつに道連れにされてしまった学生達が数えられないくらいに集まっていた。ここにもそこにも窓の外にもびっしりと・・気付いた時には右足を男に掴まれていた。
「さあ行こうよ」
「いや!嫌!いやぁぁぁぁぁぁ!」
私が最期に見たものは男の笑みとパソコンに書かれた無数の『タスケテ』『ダシテ』の文字だった・・
深夜大学に行くといって連絡が取れなくなった友人が居るとのことで警察は事件事故両方の面で捜査していたが、事件の手がかりになるであろうものは5号館3階で見つかった被害者のものと思われる靴のみであること。守衛が深夜の見回りでも誰にも合わなかったし、防犯カメラには夜中に門の前に女子学生らしき人物が来たきりで門に触れた後からは行方が分からなくなっていると述べたことからこの事件は「神隠し」として処理された。
そんなある日。事件対応に痺れを切らしたあかりはホラームック等を発行している女性記者と霊能者を連れ立って夜の大学に乗り込む。
5号館が近くなるに連れて霊能力者は「かつて無い程に強い霊力を感じる」として先に進むことが困難になってしまいその場で待機になってしまった。
記者と共に乗り込んだ目的地のあの場所には男ではなく左足に靴を履いていない女性が座って作業をしていた。
「茉莉っ!茉莉だよね?」
「あかり?あかりだぁ!」
振り向いた茉莉のいでたちは男のそれと同じであった為に記者は腰を抜かしてしまい、這いつくばって命からがら脱出した。
「依頼者はどうした!」
「ずみまぜん。はぐれてじまっで」
外に居た霊能者が詰問するも記者は既に気を失っており、意志だけで動いていたのだった。
「 コ レ デ ズ ッ ト イ ッ シ ョ ダ ネ 。 ア カ リ 」
終