春:出会いの季節
私には前世の記憶の断片のようなものがある。
その断片の中の私は白いパジャマのようなものを着ていて
真っ白な部屋の真っ白なベットの上にいる。
時折、ピッピッピッという機械音が聞こえる。
そこで私は1人の少年と向かい合い、話をしている…
本当に断片で、それ以外になんにもない…
桜もまだ蕾の四月、私は新しい学校で新しい生活をしようとしていた。
私の親は私が進学するのを機に私を転校させ、共に引っ越した。
私にとっては、いつ引っ越そうと関係なかった。
どっちにしろ、会えなくなるものは会えなくなるのだ。
しかし、学校の雰囲気的にはこっちの学校の方が気に入った。
前の学校は生徒が多かった。それなのに掲示物は多くても3つか4つで
壁の装飾も少なかった。しかし、今回の学校は、生徒が少ない割に
掲示物や装飾が多く、あたたかみに溢れている。
生徒も転校生の私を気にかけてくれたが、私にとっては苦痛であった。
気を使われている分、こっちも逆に気を使わなくてはいけない。余計に疲れる。
そんな生活が2~3週間続いた。桜は満開を迎えた。
私はもともと、体が弱い(ここに引っ越すことになった原因の一つ)。
そのため、体育の時は教室で次週になる。時々、先生が見に来るが基本的には独りだ。
そんなときは窓の外を見る。桜が降っている。
ふと、ある机の所で私の視線が止まった。その机の上にはノートがあった。
表紙には、白地に薄桃色の桜が水彩画風に書いてある。この席の主は男だった気がするが…。
とりあえず、ノートを開いた。不思議と「盗み見をする後ろめたさ」は無かった。
そのノートには女の子らしい丸字で小説が書いてあった。どれもこれもファンタジーだった。
とても面白い話だった。次々とページをめくり、読んだ。しかし、物語は途中で終わっていた。
何ページも何ページもめくったが、真っ白だった。
そして、裏表紙にあとがきのようなものが書いてあった。
「ごめんね、最後まで書けそうにないよ。次、会う時までノート、持っててね。また書くから」
それを読み終え、ノートを閉じたとき、生徒が戻ってきた。
そして、ノートの主はノートを見つめ、ゆっくりとカバンにしまった。
そして、主は私に向かっていった。
「続き、書いてくれるかな?」
春は出会いの季節だ。