発見 (4)
翌朝、朝食を食べに野営地に行くと既に大勢の人が集まっていた。
昨日の騒動を見た人も多いのだろう、瀬十菜が現れるとヒソヒソ話始めた。
「女性って噂話が好きですよね」
瀬十菜と一緒に来ていたカインがそう呟いた。
「まぁ性分なんでしょ」
さらりと受け流して朝食の列に並ぶ。
「私はするべきことをしただけだしね」
朝食を受け取ると、自分のテントに戻って行く。道半ばで振り向くと悪戯に笑いながら言った。
「今日の話し合い二人にお願いするから」
「何言ってるんですか!!ルカ様はともかく、僕にはそんな権限なんてありません」
「別にいいじゃん。私昨日のアイツ嫌いだから見たくもない」
手をひらひら振るとテントの中に消えていった。
「瀬十菜様、本当に行かれないのですか?」
「ルカに任せる。私よりもあなたのほうが上手くやるでしょ」
少々ひねくれてるのは自覚しながらルカを追い払おうとした。
「その代わり、なめられないようにして」
「もちろんです。ご心配には及びません」
サッと敬礼の姿勢をとると、そのままテントを出て行った。
時々、本当に彼が自分よりかなりの年上なのだとは思えないことがある。
(私のおじいちゃんより年上だったっけ)
彼は天宮をとても信頼して、この仕事をしているんだとつくづく思った。
「将軍は参加しないのですか?」
会議室、と言ってもやはりテントなのだが、レジスタンスの主要人物である面々が揃っていた。
案の定、瀬十菜がいないことに冷やかしを込めた口調で聞いてきた。
「瀬十菜様は昨夜の騒動で忙しく眠れなかったようで、自室にてお休みになられています」
「戦場では寝る暇など無いですよ?」
「ええ、だからこそ眠れるときに寝るんですよ」
穏やかな顔で返したルカの眼は鋭かった。それには気づかない1人がボソッと呟いた。
「所詮はお飾りの将軍でしょう」
「そうお思いなさるなら」
そう言ってルカは席を立つ。
「あなた方とはここでおさらばですな」
「あっ、いや……」
「お飾り将軍とはいえ援軍を率いたことに感謝するべきでは?」
「っ……、申し訳ございません」
ルカの“氣”に当てられた男は、何かとてつもなく大きな地雷を踏んだのだった。
一方で、ルカとカインを送り出した瀬十菜は、寝ているわけではなかった。
「アリスに電話しなきゃ」
自分の端末機をカバンから取り出すと電話帳からアリスを探す。発信すると二コールぴったしで相手が出た。
『はい、瀬十菜様。どうされましたか?』
「昨日の少年なんだけど、叔父さんにお願いして世話見て貰って」
『叔父さまとは陽一様で?』
「じゃなくて、真さんのほう」
『……そうですか。ご主人様には――』
「内緒にして!お願い!」
『わかりました。それでは』
珍しくアリスが先に電話を切った。
(まぁ、あのお願いは無理を言ったからちょっと怒ってたのかも?)
それにしても、
「真さんって未だにみんなから嫌われてるのかなぁ」
真さんは瀬十菜の母の弟で、昔はよく遊びに来ていたのだが、ある事件で天宮の敷地から十年追放になったのだ。既に十年経っていたが、タイミングを掴めず、それから一度も会ってはいなかった。
「私も久しぶりに会いたかったな」
「瀬十菜様、今戻りました」
昼を少し過ぎた頃にルカとカインが帰ってきた。
「体調はいかがです?」
「大丈夫。でも食欲ないから昼はいらない」
「そうですか。では、我々で食事に行きます。せめて栄養補給はしてくださいね」
「うん」
二人が居なくなると、冷蔵庫から輸血パックを一つ取り出した。封を破り、それをチューチューと吸う。
(やっぱり不味い)
新鮮な血に比べたら味が落ちるのは仕方ないが、何もここまで不味くなくても……と思う。
そんなことを考えながら、さっきルカが置いていったものに目を通す。丁寧なことにボイスレコーダーまである。再生すると先程の話し合いの様子が全て解る。ボイスレコーダーを聞いていると二人が帰ってきて、いきなりカインが叫んだ。
「あ――――!!」
そしてすぐさま瀬十菜からボイスレコーダーを奪い取った。
「ちょっ、何すんの」
瀬十菜が抗議し、一連の動作を見ていたルカがカインを叩いた。
「何をしているのですか」
「だってさっきのあれ――」
「とっくに消しましたよ」
呆れて何も言えない、という感じだ。
そんな中、瀬十菜は二人の会話を全く聞いておらず、何か考え事をしている。
「ルカ」
「はい?」
「私一回でこれを終わらせる方法思いついたんだけど。雷を使えば一発でね」
瀬十菜が話しだすと二人は黙って聞き、話し終えるとルカはすぐにモハメドの所へ行った。