発見 (3)
降り立ったときにはさんさんと照っていた太陽も、全ての荷ほどきを終えるとすっかり落ちていた。
「天宮少佐、レジスタンスのリーダーが挨拶をしたいと」
「分かった、今行く」
荷ほどきで出てきた大量の輸血パックを冷蔵庫に押し込みながら、冷たい水を取り出した。
(暑すぎる…砂漠の夜は冷えるって言うのに)
瀬十菜たちがいる場所は草や木があるので完全な砂漠ではない。
しかし、昼も夜も暑いのでは、つい不満に思ってしまうことだってある。
(これから冷えるのかも)
とりあえず外に出ると、瀬十菜を呼びに来た部下のカインと今回の副将であり瀬十菜のお目付役でもあるルカが何やら話しながら待っていた。
「何を話してたの?」
すると、カインが歩き出しながら答えた。
「任務先で電化製品が使えるのは羨ましいって話ですよ」
「そうかな?毎日充電しないといけないし、力加減間違ったら壊れるし」
「そうだったんですか。てっきり電池を持ち込んでいるのかと思っていました。あっ、こっちです」
カインについて行くとやはりテントにたどり着いた。
「村を焼かれた人たちが多いので野営をしているそうです」
野営地には、女子供がほとんどで若い男はいなかった。
「動ける男は皆戦力ってわけね」
そこで女たちの悲鳴があがった。
「何?」
見ると騒ぎの中心はぽっかりと円のように開いていて、中心には5、6歳ぐらいの少年が立っていた。
次第に女たちが口々に噂を話し始めた。
「隣村にいた子供よ」
「あの子と遊んだ友達は皆病気になったり行方知らずになったり」
「死んだ子もいるらしいわ」
「なんでもあの村が襲撃されたとき」
「あの子以外は全員死んだんですって」
「どうやって逃げ延びたの」
「あの子が訪れた村は全滅ですって」
「不吉な子」
「次はここだわ」
「出て行け」
「悪魔の子」
一人がそう呟くと、ざわめきがどんどん大きくなる。
そこへ1人の男が現れた。
「どうしたんだ?」
「あれは誰?」
瀬十菜が指差す方向には、先ほど現れた男がいた。
「あの人がこの反乱軍のリーダー、モハメドであります」
この男――モハメドが現れたことにより、女たちは一瞬で静まった。
その中で一人、野営地の代表であろう女がモハメドの方へ進み出て言った。
「申し訳ございません、モハメド様。この野営地に不吉な少年が現れたので女が騒いでいたのです」
「そうか。その少年を連れてこい」
モハメドの後ろにいたのか、屈強な男たちが騒動の中心にいる少年を連れ出そうとした。
「待て!」
口を開いたのは瀬十菜であった。横に居たルカは小声で聞いた。
「瀬十菜様、どうなさるおつもりで?」
「黙って見てて」
瀬十菜はモハメドのほうにズンズン進んで行った。
「その少年をどうするつもりか答えろ」
いきなり現れた異国の少女に驚きもせず、モハメドは言った。
「Far Eastの方ですか。あなた方の国では無いでしょうが、災いの元は絶たねばならないのです」
少年は男たちに連れられて、野営地の外へ向かって行く。
モハメドはそれを見て微かに笑った――軍の中でも下っ端の少女にできる事は無いと。その少女が自分の所属する軍の兵士たちに命令するのが聞こえた。
「あんたたち絶対に阻止しなさいよ。保護したらすぐに連れてきて」
少女が指示を出すと兵たちは有無を言わずに野営地から消えた。
「あの子はFar Eastで保護します。死者は出すなと言われているので」
その眼は真っ直ぐにモハメドを見ており、全てを見透かされているようだ。
「で、では、敵も殺さないと言うのでしょうか?」
「ええ、殺さずに済む方法なんて幾らでもありますから。どうしてもと言うのならお相手しますが」
とんでもない所に増援を頼んだと後悔したが遅かった。モハメドが自責の念に駆られている間にも瀬十菜はルカたちに指示を出していた。
そうこうする内に、モハメドの部下は散り散りに逃げ帰って来た。
「モハメド様、私たちでは彼らにかないません。敵に回すと厄介です」
部下の一人がそんなことを言っていたが、彼らが手強く厄介なことは既に分かった。
(大国ってのはスゴイな。あんな若さでも人を引き付けて操るんだったら)
ルカには総帥への回線を繋いでもらい、自分は別の人物を呼び出していた。
「早く出ろ~」
既に七コールは鳴ったであろう、ようやく相手は電話を取った。
「はい、瀬十菜様。どうされましたか?」
「ああ、アリス。今すぐこっちに来て。場所はGPSでわかるでしょ」
「かしこまりました、すぐに向かいます」
アリスとの電話を切ると、ルカが総帥への電話を渡してきた。
「お忙しいときにすいません。……はい、少年を一人保護しました。……ええ、……いや迎えはアリスに」
そのとき外では何かが落ちた音がした。
「あー不時着です。念のためマットを出しておいてあげてください。……はい、では」
「瀬十菜様、何か御用で?」
砂漠には不似合いなメイド服で現れたのは、瀬十菜に仕えているアリスだった。
「私じゃなくて一人連れて帰って欲しい人がいるの」
「兵士がお怪我に?まだ着いて一日でしょうに」
「いや、この子」
アリスに見えるように、先程の騒動の少年を立たせた。
「なんかさっさと消えてほしいらしい」
「かしこまりました。では、お先に」
「私もすぐに戻ると思うから」
瀬十菜が言い終えると同時にアリスと少年は風のように姿を消した。
「さて、私たちも明日から仕事にかかるよ」
その言葉で集まっていた兵たちは三々五々と自分のテントへ帰って行った。
夜は着実に明けていく。決して明けない夜は無い。