発見 (2)
瀬十菜がアフリカヘ発つ前日、恭祐は数人の部下に同じ質問をされた。
「総帥は明日、瀬十菜様のお見送りに行かれるのですか?」
大抵は「仕事が忙しい」と言えば納得して会話は終わるのだが、天然若しくは無神経なある部下はここで終わらない。
「しかし、息子さんたちは皆行くんですよね」
他人の気持ちを解れとは言わないが、少しは推測しろよと思ってしまう。
「やつらはシスコンだからな」
相手にするのも面倒くさく、適当にあしらっておいた。
翌日の出立式。
宣言通り恭祐は参加しなかったので、式の代表は瀬十菜の次兄が執り行った。式は何の滞りも無く順調に進み、残すは指揮官の出立宣言のみとなった。
「最後に指揮官より宣言を」
瀬十菜がスッと立ち上がると兵たちも自然に立ち上がった。
「本日より天宮瀬十菜以下二十七名、任地へと向かいます!」
盛大な拍手とまではいかないものの、ぱらぱらと拍手が起こる。
「そろそろ時間です」
兵の一人が瀬十菜に囁いた。瀬十菜たちは大量輸送型の戦闘機に乗り込む。
外は見送りの幹部や部下が大勢いたが、その中にアリスの姿もあった。
「瀬十菜様!お気をつけて行ってらっしゃいませ」
当然声などは聞こえなかったが、口の動きで何を言ってるのかは分かる。少し嬉しく思い、しばらく外に目をやっていた。
外を見ながらも部下たちに指示を出していた。
「ルカ、何時間ぐらいで着くの?」
「六時間ぐらいですね。どうかしましたか」
見ると瀬十菜は何か考え込んでいるようだ。
「六時間暇だから貴方のお話をしてくれる?特にこの二ヶ月間」
「別にこれと言ってお話しすることもありませんよ」
ルカは困ったように笑いながら答えた。
しかし、瀬十菜はルカを真っ直ぐに見て言った。
「自分の子供が死んでも仕事を続けてる神経が知りたくて」
ルカの表情は苦笑いではなく、苦痛に満ちていた。
だが、それもほんの一瞬ですぐに消えた。
「仕事を行うことで娘が亡くなったことを思い出さないようにしていたんですよ」
瀬十菜はそれでもルカをじっと見ていたが、やがて目を背けた。
「そっか、ごめんなさい」
そう言ってまた別のことを考え始めた。
瀬十菜たちを乗せた戦闘機はきっかし六時間後、はるばる日本からアフリカまでやって来た。
Far Eastの車や船などのほとんどは改造・改良されており、中には魔法で動く物もある。
今回の戦闘機もまた然り。見た目はせいぜい二、三人しか乗れない機種にも実は三十人ほども乗れるのだ。
「着きましたよ、瀬十菜さん……って寝てるじゃないですか」
「お~い、誰か起こしてやれ」
「嫌です。寝起き悪いですよ、この人」
「ルカ、起こしてやれよ」
ちょうど近くにやって来たルカに任せ、兵たちはさっさと降りる準備を進める。
「起きてください、貴女は指揮官でしょう」
何度か揺さぶると瞼が開いた。
しかしまだ寝ぼけている様子で、すぐに寝そうになる。
「ちゃんと起きてください。指揮官不在では全員降りられないですよ」
その言葉でようやく目が覚めたらしい。寝起きとは思えないほどの素早さで立ち上がり、突然敬礼した。
そこで全員の視線が自分に向いていることを知り、見る間に瀬十菜の顔は赤くなった。
すると、機内は爆笑の渦に見舞われた。
「おっ、お前ら笑うな!!」
瀬十菜の抗議は受け入れられず、余計に笑いは大きくなる。
だが、ドンッと床を打つ音が響くとすぐ静かになった。
「今から私たちは任務に就くのですからしっかりと頼みますよ」
「はいっ」
さっきまでふざけていたのがウソのように、全員がビシッと敬礼を決めた。
「私たちが来たんだ。負けたとは絶対に言わせない」
「当たり前だ!」
こうして瀬十菜たち27名は意気揚々と降りて行った。