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Treason―Maneuver


誰もが背中を預けられると信じての【作戦行動】。危機は手の届くところに。

 


***


 

 野営、とでも言うのだろうか。そこは宮殿から山をひとつ隔てた草地。粗末な天幕の下に集う天使達は、本来なら堅牢な白亜の城で優美に愛の囁きを交わし合っているべきだというのに。

 天幕の内、外界の宵闇をぼんやりと追いやるくらいの頼りない光を宙に灯し、名立たる大天使達は地面に座り円陣を成していた。その他大勢の同胞が同じく天幕を張って休息している夜中、彼らは愛の言葉や楽園の賛美を謳う代わりに、勝利を掴むための作戦会議を行おうとしているのだった。

 

「とうとう明日だな、皆」

 

 とはいえ、彼らの美しさが損なわれたかといえばそうではない。口火を切った彼をはじめ、皆一様に誇り高き勇者であることに変わりはないのだから。誰もが緊張を押し殺し平静を装おうとしていたが、その試みは成功していたとは言い難い。それが証拠に、見よ、《蝿王》は胡坐をかいた膝を落ち着きなく揺らしているし、《紳士》は飽きることなく髭を撫ぜ続けているし、《無価値》はずっと口元を笑みの形に歪めたままだ。

 

「今から最後の確認を行いたい。何かあれば遠慮なく申し出てくれ」

 

 白衣が汚れるのも厭わず地面に胡坐をかき、腕組みをしたままでルシフェルは言う。ベルゼブブ、メフィストフェレス、マルコシアス、ベリアル、アシュタロス。隣からぐるりと見回せば、並ぶ上級天使の顔は全部で五つ。数個の部隊へ分けられた反乱軍、それら各々の部隊長に任命された天使達。

 

「まずは大まかな流れを確認する。先にも述べた通り、混乱に乗じて奇襲を仕掛けるつもりだ。最後の山を越えた後に《不可視の結界》を解き宣戦布告としよう。これだけの大所帯だ、放出される力に向こうが気付かないわけがないからな。向こうが体勢を整えるまでに出来る限り兵を進める。あくまで城の陥落を目指す、それで上手くいくはずだが」

 

 言葉を切り、見回す。異論はないようだった。

 

「具体的な采配についてはまだだったな。皆の意見も聞かせてくれ」

「はい」

 

 うなずいたのはアシュタロスとマルコシアス。他の者も真剣な表情で長を見つめる。

 

「これも前に言ったはずだが、この戦いの目的は殺戮ではない。“玉座”さえ手に入れば良いのだ。ゆえに盾となる者達を薙ぐにしても、主に上級天使への対策のみを考えれば良い。《神軍》兵士にはそれなりの手練れもいようが……構わない方が得策だろう。まして兵士以外の天使には無闇に手を出すな。我らの体力とて無尽蔵ではないのだし、何より、彼らを倒したとて力を示すことはできない」

「しかし向こうから見れば、こちらの者達は役職の別なく反乱者だ。兵士経験があるか否かなど気にしてはもらえまい?」

 

 眼鏡の位置を直しつつ言ったのはメフィストフェレス。ルシフェルは眉をひそめて小さく唸る。

 

「その通りだ」

 

 自身も気になっていたことであるらしく、彼は黒髪にぐしゃりと片手を差し入れ、難しい顔のまま苛立たしげなため息を吐き出す。

 彼が苛立つのも無理からぬことだった。反乱軍を構成するのは全天使の三分の一という大勢の天使達だったが、それでもまだ数、装備共に向こうの方が遥かに上。力の弱い者を守りながら攻め込むのは、いくら彼らが強大な“能力”を有していても容易なことではない。それどころか本末転倒、勝機を見失う可能性が高まる。

 最も落ち着いて見えた天使も、実は緊張していたのかもしれなかった。今宵の《光》は焦りを隠そうともしない。

 

「まったく、これだけの天使が集まるのは想定外だった……どちらに転んでも犠牲は避けられぬ」

「ルシフェル様、協力すべき仲間を厄介者のように仰るのは感心しかねますが」

「協力、な……」

 

 呟きが、霧散する。紅の双眸はただ紫の強い視線を受け止める。何を意図したものかとアシュタロスは困ったように主君の顔を見つめていたが、不意に彼は怪訝そうに首を傾げ。

 

「アシュタロス、少し顔色がよくないな。辛くはないか?」

 

 と、出し抜けにそんなことを彼女に問うた。驚き半分、そして嬉しさ半分でアシュタロスはどうにか顔を引き締めたままかぶりを振る。

 

「問題ありません。お気遣い、感謝します」

 

 “結界”を保つために常に力を放出させ続けており、またこの数日はろくな休息もない彼女だったが、平気だという言葉に嘘はほとんどなかった。もちろん、わずかばかり虚勢が含まれていることは否定しないが。

 《戦神》の名を戴きつつも、特化しているのは防御の能力という“皮肉”――だと彼女は思っていた――を乗り越えるためには、己に可能な仕事に全力を傾けるべき。多少の疲労など、忠臣の決意の前では何の意味もなさない。

 

「そうか? それなら良いのだが……」

 

 アシュタロスから呆気なく視線を逸らし呟く。咳払いを、ひとつ。

 

「……まぁ、いい。いずれにせよ、我らに要求されるのは“速さ”――これに尽きる。先手を取れば兵力差は幾分補えるだろう。そうだな、マルコ?」

 

 唐突な矛先はちょうど真向かいへ。褐色の肌をした青年は深くうなずく。

 

「ええ。戦闘訓練の経験がある者を優先的に前に出しましょう。後方に一部隊、残りを全て先方として守備を切り崩しにかかる。初期に力で攻め入ってしまえば勝利は格段に近付きます。剣の扱いに不慣れな者は内側に置けば、少しは兵力を削がれにくくなるかと。……もっとも、混戦となることは容易に予想できますが」

「良し。基本的にはその方向でいこう」

 

 伺うように再び同胞を見回す。

 

「つーことは、上級天使だけ考えりゃいいンだな……」

 

 言ったのはマルコシアスと同様、《神軍》の指導者を務めたベルゼブブ。マルコシアスやアシュタロスほどではないが、彼もまた優れた軍師である。普段からあまり良いとは言えない目付きをさらに鋭くさせながら虚空を睨む彼の頭の中には、様々な状況が目まぐるしく想定されているのかもしれない。

 

「まァ実質いちばん対策を練らなきゃならねェのは、大天使――《エレメンツ》ってところか」

 

 既に何らかの策を考えてきてあったのだろう、ルシフェルは即座に首肯する。

 

「そうなるな。上級天使のみで見れば双子をはじめ、実際は戦力外も多い」

「確かにそうですね。能力的にも我々の敵ではないと……。それに引き換え大天使の四方は厄介です。全てに兵を割くとなれば……」

「いや、考えるのは三名だけでいい。ウリエルとラファエル、そしてミカエル」

 

 素早く自信に満ちた断言に、当人以外の五名は驚いたように彼の白皙を見た。それまでずっと成り行きを見守っていただけのベリアルが、笑みの形を描いた口をようやく開く。

 

「どうしてそんなことを言えるんだい、ルシフェル? 彼女だって水を従える、立派な戦力じゃないか」

「ああ。だがガブリエルは戦場には現れまいよ」

「やけに自信たっぷりだね。根拠は?」

「根拠は……私自身だ」

 

 何が可笑しいのか、ベリアルは一層楽しげに笑うに止めて追及をやめた。他の者は未だ困惑したままだったが、長が「信じろ」と言ったのだ、彼らにも疑うだけの理由はなかった。

 

「ラファエルは《治癒》だからな……後方支援にまわりそうだが、彼のことだ、自ら先陣にて風を繰る力を使うかもしれぬ。侮るわけにはいかない。――ベルゼブブ、足止めは可能か」

「おう、任せろ」

 

 ラファエルもベルゼブブも能力行使の際には“個”であるほうが力を発揮しやすく、また主に広域を対象とする風の使い手を翻弄するには、点への命中を得意とする器用な戦闘家が対抗する方がいい。それを見越しての配置だった。

 力強いうなずきを見、次にルシフェルは残りの部下達の“品定め”に入る。白い指先で薄い唇をなぞりながら、如何にして効率良く戦況を運ぶかを計算する。

 

「上等。最も脅威となり得るのはウリエルだろう。あれは剣術に長けているし、地の利を向こうに握られては面倒な相手となる。ただ、単独で行動するとは考えにくい。先に動くにしても《神軍》を連れて出てくると見るのが自然だ。ここはマルコシアス、と――」

 

 わずかな迷い。それを断ち切ったのは銀髪の天使の、凛とした一声。

 

「僕が行きます。――いえ、僕に行かせてください」

 

 一瞬ルシフェルが見せた渋い表情は計算で割り切れたものではない。彼が何かを言うよりも早く、アシュタロスは畳み掛けるように強く言った。

 

「お願いします、ルシフェル様。けじめをつけさせてください」

「ルシフェル様、私もそれがよろしいかと思います。彼女の能力は実に心強い」

 

 力添えしたのはマルコシアスだった。客観的にそのふたりが揃えば申し分ないことは事実、とうとうルシフェルは渋々といった様子で首を縦に振る。

 

「……いいだろう。マルコシアス、アシュタロス。“元”《神軍》在籍者による数個の隊を連れて向かえ。守備突破の中心はお前達に一任する」

「仰せのままに!」

「御意!」

「頼むぞ。……それから、ここだけは譲って欲しい。お前達が考慮すべき大天使はその二名だけ――」

 

 ふと天幕内の空気が重くなる。長の紅い瞳が刃の鋭さを帯び、声は低く反問を許さぬ唸り。

 

「――ミカエルは、この私が討つ。誰も手を出すな」

 

 彼がこんなにも憎々しげにその天使の名を口にしたことがあったろうか。いわば最後の砦となろう敵の長。わざわざ自身が伝言まで飛ばしてその天使を《神軍》の――天界の責任者に任命したのは、生まれながらの必然で、そしてこうして相手を自らの手で討つため。

 

「正直に言って悪いがお前達では相手にならない。剣の腕はもちろんのこと、彼の能力を無効化し得るのは私だけだ」

「…………」

 

 紛れもない事実を否定できるはずもなく。麗しき兄弟を見守ってきた仲間の顔に浮かんだ表情は何だったのか。

 

「……ベリアルは他の新兵の統率を。お前の号令は本当に力があるからな」

「了解」

「メフィストフェレスには最後尾での援護を頼みたい。万一の時は守備を優先してくれ」

「わかった」

 

 部隊の配備は完了だ。と、ベルゼブブが小さく声を上げる。

 

「あ。なァ、武器の配給も明日の朝でいいよな?」

「ああ、そうだな。お前と、マルコに頼めるか」

 

 武器。ベルゼブブが手に入れてきたもの、新たに鍛えたものなど数々の装備は未だ兵士達の手には渡ってはいない。文字通りの大荷物を運んでいるのはルシフェルだ。そうは言っても今この場に多くの剣はない。《存在干渉》――体力温存、便利な能力だと言ったら大天使は怒るかもしれないが。

 

「了解したぜー」

「はい」

「悪いな。……これで一応の確認は済んだか。あとは明日だ。――皆、時機を誤ることのないよう迅速に行動してくれ」

 

 一通り指示を出し終えると、ルシフェルはおもむろに立ち上がり隅にある荷物の山へと向かった。軍の移動に必要最低限の物資は、こうして普通に運搬しているわけだが。何をするかと視線を送られる前で、振り向いた彼が手にしていたものは。

 

「酒……?」

 

 必要最低限かと問われれば首を傾げたくなるような、酒瓶と、複数の杯。

 悪戯っぽく笑んだ長と呆れたように嘆息した部下達。天幕内が一気に脱力した空気に包まれる。

 

「ルシフェル、どっから持ってきたンだよ?」

「ん、自室から運んできた」

 

 “運んできた”。彼にしてみれば一瞬の造作ない行為だったのだろう。

 顔を見合せた天使達だったが美酒を厭うわけではない。若輩ということでアシュタロスが慌てて申し出て酒を注ぐ。透明な液体で満ちた杯が各天使に渡ったのを確かめ、ルシフェルは己の酒杯を軽く掲げて不敵に笑った。

 

「諸君、前祝いといこうじゃないか。――輝かしい我らの勝利に!」

「ふふ、栄光に!」

 

 ――“乾杯!”

 

 一気に煽り、乱暴に口元を拭う。そこに在る戦士達は誰もが酒豪であったことは言うまでもない。

 或いは、長が酒を持ち出した理由もまた好みに迎合してのことだけではなくて。

 

「解散だ。今夜はしっかり休めよ」

 

 少々過剰なまでの度数の強さは緊張を取り除くため。高揚した気分と適度な火照りは彼らを安眠へと誘ってくれるに違いない。臣下の肉体的・精神的な状況にも配慮できることは、間違いなく名君の条件だと彼は信じていた。

 

「そんじゃ、寝るとすっか。行こうぜマルコ」

「ええ。おやすみなさい、ルシフェル様」

「おやすみ、ベルゼブブ、マルコシアス。良い夢を」

 

 杯を置き立ち上がる。ひとり、ふたり。

 

「我が輩も休ませてもらうよ。ごちそうさま、君達も早く休みたまえよ」

「ああ」

「おやすみなさい、メフィストフェレス様」

 

 そして残されたのは。

 

「僕も行こうかな」

 

 元々この天幕内にはアシュタロスがいた。ルシフェルは全員を見送るつもりでいる。だから腰を上げたのは、美しい“規格外”の天使。

 

「そうそう、ひとつ聞きたいことがあるのだけど」

 

 薄く笑んだ彼が何かを置き土産にしていくのは常のこと。特に不審がるでもなくルシフェルは、入り口に立ち振り返った金髪の天使を見上げた。

 

「すごく初歩的なことだけどね」

「……どうした」

 

 隣から伝わる痛いほどの緊張感を敢えて見ないようにしつつ、返す。

 

「うん。どうして寝返ることを考えないのかなと思ってさ。これだけの大所帯、ひとりぐらい情報を流す輩が出たっておかしくないだろう?」

「……裏切る者が現れると?」

 

 笑うのは。

 

「まぁ極論、まさしく君が裏切り者だよねぇ、ルシフェル」

「このっ――!!」

 

 刹那、弾かれるように身を乗り出したのはルシフェル本人ではなくアシュタロス。滅多に声を荒げることのない彼女だったが、慕う主君と天秤にかければ全てが無価値となる。が、“護衛”としての彼女の本能を留めたのは、他ならぬルシフェルだった。

 

「やめろ、アシュタロス」

「ですがっ!」

「いいんだ。……その通りだから」

 

 アシュタロスは戸惑いながらも従うものの、紫苑の瞳は《無価値》を睨み据えたまま。対する本人は全く意に介した様子もなく返答を待っている。

 

「そう、これは紛れもなく謀反。だがこの先手に入るものを思えば……裏切るだけの価値はある」

 

 やがて返された声は淡々としていた。後悔の響きもなく、己の能力をひけらかす風もなく、ただ淡々と。

 

「それに、寝返れば全てが無意味になる。居場所を捨てたことも、天使の責を放り出したことも、仲間を欺いたことも、主の愛を忘却したことも、何もかもが無意味な行為と化すのだ。わざわざ勇気を持っての選択だぞ? そんな度胸のある奴はいないだろう」

 

 これらの言葉に驚いたのはアシュタロスばかりではなかった。珍しくもベリアルでさえ、赤茶けた大地色の瞳を見開いてみせる。

 何せ、慈愛という手段しか他者との交流に持ち合わせていなかったかのような長の一言。紛うことなき《光》たる彼が同胞を――過激ではないにしろ――“貶した”のは初めてだったのだ。

 だがこれもまた気にしているのは周囲だけ。本人は身動ぎもせず、美しい天使の名を呼んだ。

 

「ベリアル、お前は賢いから、最後にひとつだけ」

「うん?」

「くれぐれもやり過ぎるな。駒のいない世界を手に入れることは私の望みではない」

 

 強大な力を有する天使、ベリアル。得物は、“影”。確かにその気になれば“一騎殲滅”は不可能ではないのかもしれない。――もちろんルシフェルとてそれは同じ。それでも自らが力を出し尽くさずに軍を動かすのは、始めから全てを消そうとしないのは、つまりそういう理由なのだ。仲間が集ったというある意味での誤算も理由のひとつではあったが、何より、支配するべきモノがない世界を手中に収めても、まったく意味が無いのである。

 ベリアルは実に愉しそうに、笑った。美しく、無機質で、いっそ不快感をも与えるくらいに完璧な笑顔で。

 

「わかってる。君のそういうところ、好きだねぇ」

 

 彼の執着は正直、アシュタロスにとっては疎ましいものだった。彼女は同じ天使であるベリアルを本能的に危険因子と断じて止まない。唇を血が滲むほど噛み締め耐えたその忍耐力は認めて然るべきだろう。口を開けば、決戦前夜には最も相応しくない敵意が溢れてしまうから。

 怜悧な表情で長の役に徹する天使と、その護衛。ふたりを一瞥し、ベリアルは優雅に背を向け去っていく。

 

「じゃあ、おやすみ。ルシフェル、アシュタロス。良い夢を」

 

 さて。ふたりきりになった天幕の内、ルシフェルは大きく息を吐き出し、しかし弛緩させることなく目を伏せた。けぶるような長い睫毛に隠されてしまっても、奥にある紅玉は憂色に染まっているのだろう。

 

「ルシフェル様」

 

 アシュタロスは主君がベリアルの言葉を気にしているのだと思った。けれども、沈黙を破った言葉は全く別の方向で。

 

「……何故、皆は私について来たのだろうな」

 

 生まれながらに長として定められていた天使が口にするにはあまりに弱々しい呟き。玉座を目指しての反乱の首謀者にしては不自然な独白。

 アシュタロスもまた、今回ばかりは訝った。

 

「この計画は完璧です。皆、先に待つ栄光に憧れたのでしょう。身を捧げるだけの価値がある――そう判断したのは我々も同じなのですから」

 

 揺らいでいる、と彼女は感じた。彼に自信があるのなら、同胞が集うことに疑念を抱く必要などない。不要な躊躇いはきっと緊張の裏返し。長という立場は重いのだ。

 とはいえ、そんな弱い部分を一瞬でも見せてくれたことがアシュタロスには嬉しかった。誰も知らない一面……彼女を捉えた瞳に過った、怯えたような気色は見間違えなのか。それ以上は吐き出さず、ルシフェルは緩慢な動作で立ち上がる。

 

「……協力とは相応の力がある者同士の話だろう。私に及ばぬ者がいくら集ったところで――」

 

 言葉尻を呑み込む。声も出せずに背中を凝視する忠臣を残し、彼は静かにその場を後にした。


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