Elements
世界は四つの《元素》で構成されている。
その日、選ばれた天使達はそれらの元素の《名》を与えられた。世界の礎となる責を与えられた。
そして。
主の御座に最も近いところには二つの席があった。片一方を埋めるのは《表》たる御子。
だがもう一方の席はずっと、空のままだった――。
***
疑問を抱けば光は潰える。
過剰を望めば裁きが下る。
疑うな。求めるな。
ここは楽園。御座におわすは唯一絶対。
謳を捧げよ。愛を捧げよ。
従うことが、世界の全て。
***
“やあ、また会ったね”
――なんて、意味の無いことを言わないよ僕は。優しいからね。“そっち”と“こっち”を混ぜたら、愚かな君達の頭じゃ理解できないだろうし。見覚えがある? それはそれは、君は運がいいんだね。けど記憶違いということにしておいた方が、いいと思うな。忘れよう。“はじめまして”、愚か者さん。
どうやら歴史を辿ってしまったようだね。知る、ということは実に偉大で崇高な行為だ。その好奇心は称賛に値する。
それでも敢えて言っておこう。忠告しておこう。
“もう戻れないよ”、ってね。
ふふっ、今更遅いけれど!
ご覧。楽しい時間はもうお仕舞い。
何もかも、最初から狂っていたんだ。
そう、狂ってた。狂ってたんだよ全てが! 気付かないうちにさ!
内側からは枠が見えない。殻を破ることを誰が望んでいたかなんてどうだっていい。それが選択の結果で、それが未来だっただけの話。
誤ったかもしれない。でもそれが選択。
可能性を潰したかもしれない。でもそれが運命。
世界を物質的に認識せざるを得ない天使と、時空として求めた天使。
泰然たる《地》の眼力は手遅れに。
たゆとう《水》の役割は破壊の引き金に。
捕らわれぬ《風》の疑念は同士討ちを。
天を向く《火》の正義は歯車を狂わせ。
そして、誇り高き《光》の絶対は脆く崩れ去る。
ああ。
最後に残る天使は謳うだろう。大切なモノを失い、安寧を忘れた世界で独り。
響く歌声は新たな糸を手繰るだろう。橋は横にも縦にも伸びていく。
今はまだ誰も知らない。
否。
“ほとんど”誰も、知らないんだ。
《崩壊》の足音と《更新》の兆し。陳腐な表現だけれど、これ以上の言葉はない。
さあ諸君――楽しい《宴》を始めようか。
楽園を支える【根本】の席。はじめに幾つ在ったのか、知る彼は未だ帰らず。